ずいぶん立派になったもんだ
「『暴食』対策特別班だと?」
アンデッド対策本部局内。伊藤は浅井から、「『暴食』の対策に徹する組織が組み上げられる」という情報を耳にした。
「はい、近頃の『暴食』の捕食件数は一週間で十件以上。このまま野放しにしておけば街の住民は喰い尽くされます。そこで総司令が今回の組織を発足させると命令を下したようで」
「ほう。『暴食』もずいぶん立派になったもんだな。篠宮の奴がやり合った時には、まだAランクだったか。今じゃSSぐらいにはなってるんじゃねえか?」
アンデッドにはそれぞれ「ランク」が設定されている。アン対がアンデッドの調査を進めるうち独自に設定した能力値の序列だ。下はCランク、上はSSSランクまである。
SSともなれば人を数十人、数百人喰らってきた大物だ。伊藤は暴食をSSと見なしたが、対して浅井は静かに首を横に振った。
「それがそうでもなくて、捕食件数的にはSSSまでいってもいいと思うんですが、実際はSランクなんだとか」
「Sだと? 調査班は何を考えてやがる」
アンデッド対策本部の組織は、主に二つからなる。現場に赴きアンデッドを捕縛する対策班と、捕縛されたアンデッドの生体調査などを行い研究することで特性を追究する調査班だ。アンデッドのランク設定はふつう、調査班によって行われる。
「僕も最初は疑問に思ったんですが、調査一課の
「どういう意味だ」
伊藤の疑問を待っていたとでも言うように、浅井は手に持っていたタブレットを手早く操りひとつの資料を伊藤に提示した。
「これを見てください。『暴食』に捕食された被害者たちの身元や経歴をまとめたものです」
「これ……ほとんど犯罪歴を持つ者じゃねえか。それにアンデッドまで喰らってやがる」
「はい。乾研究員曰く、『暴食』は社会的汚点、つまり犯罪係数の高い者を狙って喰べていると言うんです」
犯罪係数はあくまで浅井の造語だが、いわゆる「今後犯罪を起こす可能性が高い者」を指す。『暴食』が今まで捕食を行ってきた被害者は全て、それに該当した。
「だからって、人を喰ってるのにかわりはないだろうが……」
伊藤は難しい顔をして頭を掻いた。いくら社会的にマイナスとなるような存在を積極的に喰っているとはいえ、それらは全て社会を構成する生命だ。人喰いが犯罪であることはどんな天変地異が起ころうとも変わらない。
「そこが難点ではありますが……ともかくそういうわけで、調査班の見解は暫定Sランクなんだそうです。ですが実際に実力を見れば彼女がSS相当、もしくはSSS相当であることに変わりはありません。ですから今回、その対策班が発足されたという話です。まだ正式な任命はされていませんが、僕たちもメンバーに入っているそうですよ」
「ったりめえだろうが。外されてたまるかってんだ」
「それと、もちろん篠宮捜査官もいらっしゃるとか」
篠宮の名前が出た途端、伊藤は分かりやすく舌打ちをした。
「ま、しかたねえな。実力だけは俺より遥かに高い。実力だけはな」
篠宮についてぐちぐちぶつぶつ言っている伊藤を、浅井は失笑気味に見つめていた。
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