死ぬのが怖くないの……?
「え? お前、自分がデッドイーターだって知らないで生きてたのか?」
「デッドイーターって……何それ、さっきあの女の子も言ってたよね」
彼女が口にするまで聞いたことすらなかった単語だ。「お前はデッドイーターだ」と言われ、「へぇそうなんだ」とはならない。
「ああ。簡単に言えば、アンデッドを喰らう者だな。奴らの生命力は、俺らの体内では自然治癒力に変換される。どういう仕組みかはよく分からんが。お前普通の人間なら腹刺された時点で死んでたぞ」
「アンデッドを喰らうって、ええ!? 何それ? 私、アンデッドを食べたことなんて一度も……!」
「話を最後まで聞け。つまりはアンデッドを喰らうことができるってことだ。そういう力を生まれつき持ってる。いいか、アンデッドの凶器は普通、ただの人間には見えない。見えるのは特殊な訓練を受けたアン対と、デッドイーターだけ。お前、あの時たしかに凶器が見えていたな? だからお前は、俺と同じデッドイーターってわけだ」
青年は紫苑の目をまっすぐ見返して、事を丁寧に説明していく。
「デッドイーターは、アンデッドとまともにやり合えるポテンシャルをもっている。リーパー、アン対の連中とは比べものにならない。あいつらはアンデッドと真っ向からぶつかる力なんてないからな」
「リーパー……死神?」
「ああ。アンデッドがアン対に対して使う隠語だな。奴らは常に命を狙われるから、隠語で情報を通達してる」
つまり、アン対とリーパーは同義ということになる。
「アンデッドとは反対に、俺たちは死んだ命を喰う。俺たちにとってアンデッドってのは既に死んでる存在だ。死体に無理やり生命力を補充して、ガラクタを動かしてるっていうイメージだな。だからアンデッドも捕食対象となる」
「あの、私の勝手なイメージなんだけど、アンデッドって日の光に弱いとかないの?」
「あのガキ見れば分かるだろ。アンデッドはそれを克服している。人の生命力そのものを喰っているから、日光に弱いとかいう概念まるごと克服した。だから厄介なんだよ。昼間でも平気で人を喰う」
紫苑は、そんな相手にどうやって立ち向かうのかと俯いた。だが青年は反対にさっぱりとした顔でいる。
「そんなのと戦って、死ぬのが怖くないの……?」
「どうだろうな。デッドイーターってのは生まれもった才能みたいなもんだよ。アンデッドを喰らうことのできる才能。もちろんデッドイーターとして生まれてくる人間は多くない。怖いとか怖くないとかよりも、使命みたいなものだと思ってるな、俺は」
「命を棄ててまで、人間から兵器に成り下がる使命……?」
自分がデッドイーターであることは、ひとまず理解した。だが「じゃあ今日からアンデッドと戦います」とはならなかった。当然だ。自分たちがアンデッドを喰らうことができるのなら、彼らもまた黙って喰われるはずがない。生きるために抵抗するだろう。デッドイーターを殺さんとするだろう。
誰だって、死と隣り合わせの状況下に身を置くことなど避けたいはずだ。紫苑も例外ではない。
「これでも今まで平穏に暮らしてきたの。急にそんなこと言われたって……」
「あ、そ。まあ最初は誰でもそんなもんだな。それでもいいんじゃねえか。平和に逃げる人生でも」
紫苑の眉がぴくりと震える。ずいぶんと毒のある言い方だと思った。
「俺は、俺自身の正義のために戦う。お前も気が変わったら奴らを喰らってみればいい。結構うまいぞ。……ところで、お前学校は?」
「……え?」
「その制服、
青年の姿を見るとたしかに、紫苑が見慣れた制服だった。
「えっ、同じ高校!? まっ、待って。ていうか今何時!?」
「今から走ればギリギリ間に合うな、よし。自転車二人乗りしようぜ」
「するかバカぁ! ……あっ」
紫苑は慌てて自転車にまたがるが、そこで気づく。制服は真っ赤で、腹の部分にぽっかりと大きな穴が空いていることに。
「ああああこんなんで学校行けるわけ……」
今にも泣きそうな目で、紫苑はがっくりと項垂れる。
「うーん。よし、じゃあ俺が直してやるよ」
「え!?」
見かねた様子で青年が言い、紫苑は顔を勢いよく上げて彼を見た。
「そんなことできるの?」
「万物には生命が存在する。物も例外じゃねえんだ。自分の治癒力を譲渡することで、壊れた物は直せる」
「嘘……じゃあ」
「そのかわり、自転車二人乗りな」
む、と紫苑は青年を睨むが、このまま学校に行くことはできないと思ったので仕方なく受け入れる。
「そっちが漕いでよ?」
「っしゃ、交渉成立だな」
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