第二十九話 仕掛け
「おいおい。またかよ。」
白いスーツを身にまとっている桐口がモニターに映っている自身の組のギャンブラーのあまりの意味不明な行動につい言葉をもらしてしまう。
「お前は今、絶対的に有利なんだぞ。そんなことしなくていいんだぞ。」
桐口奏斗からため息がでる。
「まぁ。お前の性格上こんなこと言っても無意味だろうけどな。」
何戦も君塚渉のゲームを見てきた桐口だからこそなのか意味不明な君塚の行動の意味を理解しているかのような言葉をはなった。
●
A:阿黒賢一:1
D:君塚渉:3
「信じてくれたんですね。」
場に出されたカードを白い眼で見つめている君塚渉が言葉を発した。
「君塚さんがあそこまでして嘘を言うような事はしないとふんだんだよ。」
「そうです。そんなことをしなくても犠牲者を騙すことはたやすいですから。」
「俺のことを簡単に騙せるみたいにいうね。」
「簡単に騙せますよ。第一ラウンドのことを忘れてしまったのですか。」
君塚渉は言葉を発しながらカードをセットする。
「君塚さんこそ、第一ラウンドで俺に騙されたこと、忘れているんじゃないのかい。」
君塚の言った言葉に対して反論しながらカードをセットした。
「両者セットが完了致しました。それでは、カードオープン。」
ガシャン。
D:阿黒賢一:聖杯
A:君塚渉:4
「おぉーっと。これで、阿黒様のタンクには0.2mlの聖水が流し込まれます。」
林の宣言通り阿黒賢一のタンク内に聖水が流し込まれていく。
「君塚さん、読みを外したでしょ。君塚さんの手札には、2.4.注射器のカードがあった。ここで4のカードを出したから俺に0.2mlもの聖水を手に入れられた。2か注射器を出していれば、0.1mlに抑えられたのにも関わらず。」
「犠牲者は自分の力で0.2mlの聖水を手に入れたと思っているようですが、それは違います。」
想定していなかったであろうその言葉に少しの動揺が阿黒賢一の顔に現れる。
「犠牲者の力ではありません。私が犠牲者に0.2mlの聖水を渡したのです。」
「負け惜しみかい。」
「いいえ。違います。」
「じゃあ。何故そんなことをしたんだい。」
疑いに満ちた黒い目を君塚渉に向ける。
「まだ、教えるときではないです。」
数秒の沈黙が2人の間にうまれる。
「考えてもしょうがないか。セットするカードはもう既に決まっているしな。」
沈黙を破った阿黒賢一はそのままカードをセットした。
「そうですね。私も既に決まっています。」
阿黒賢一に続き、君塚渉も同じようにカードをセットする。
「カードオープン。」
ガシャン。
A:阿黒賢一:注射器
D:君塚渉:2
「これにより、君塚様のタンク内にある聖水と毒が体内に注入されます。」
第一ラウンドと同様にタンク内の毒と聖水が体内に注入される。
「どうだい。今回は少しきついんじゃないのかい。初めて毒が体内に残るわけだし。」
間髪入れずに阿黒賢一が話しかけてくる。
「さほど苦ではありません。次は犠牲者が毒を受ける番です。」
「そうだね。次は俺の番だね。」
言葉を交わした後、二人がカードをセットし終える。
「第二ラウンドもこれで最後です。それでは、カードオープン。」
小型カメラに向けて林が言葉を話し終えるのと同時にガシャンという音と共にカードが表になる。
D:阿黒賢一:注射器
A:君塚渉:2
「これねより、君塚様と同様、阿黒様の体内にそれぞれのタンク内にある毒と聖水が体内に注入されます。」
その掛け声と同時に先程のラウンドと同じように阿黒賢一のタンク内の毒と聖水がそれぞれ体内に入っていく。
ツー、ツー
阿黒賢一の毒と聖水が体内に流れ込んだのを確認した後、ゲームを取り仕切っている林が口を開く。
「これで第二ラウンドが終了となります。第一ラウンドと同様に御二方のタンクに0.1mlの毒が流し込まれます。五分間の休憩の後、第三ラウンドが開始いたします。」
第二ラウンド終了後、君塚渉は誰にも聞こえないであろう小さな声で一人呟く。
「だいたいわかりました。」
●
部屋の中央にあるソファーに頭を抱えながら座っている男がいる。
「はぁ〜。」
先程からモニターに映っている川名組のギャンブラーである阿黒賢一の行動についついため息が漏れてしまう。
(第一ラウンド終了時点で阿黒さんの体内にある毒は0.1ml、君塚渉は0ml。第二ラウンドで阿黒さんは0.4mlの毒と0.2mlの聖水を体内に注入されたから、今阿黒さんの体内には0.3mlの毒が存在していることになる。対して君塚渉は0.4mlの毒と0.3mlの聖水を注入したから、0.1mlの毒が体内に存在していることになる。あぁ〜!!。最初に0.3mlもの聖水を与えていなかったら今頃、イーブンになっていた可能性もあったはずなのに。)
川名がこのラウンドで行われた行動を整理しているうちに第三ラウンド開始の合図がなる。
●
「休憩が終わったことですし、これよりA側が君塚様、D側が阿黒様で、第三ラウンドの開始致します。」
林の合図と同時に八枚のカードが2人の机の中央からあらわれる。そして、2人がそれぞれのカードを手に取り、第三ラウンドが始まった。
「犠牲者の実力は、わかりました。」
その言葉を発するのと同時に白いカードをセットした。
慈悲の目を向けてくる君塚渉を見ながら阿黒賢一もカードをセットする。
「俺の実力がわかったのかい。」
「えぇ。わかりました。」
「それでは、第三ラウンドラウンド初めてのカードオープンです。」
ゲームを仕切る林が複数の小型のカメラのようなものに両手を大きく広げると、2人のセットしたカードがガシャンという音と共に表になる。
D:阿黒賢一:3
A:君塚渉:2
「実力を見切ったと言った君塚様のAを0.1mlの毒に抑えました。これは、君塚様、相手の実力を見誤ったかぁ。」
阿黒賢一のタンク内に0.1mlの毒が流れ込んでくる。
「俺の実力がわかったんじゃないのかい。」
「えぇ。わかりました。」
ふたつの机を挟みながらギャンブルしている二人は、先程と同じような会話をした。
「俺の実力がわかったかどうか、確かめて見るとするよ。」
そう言うと、第二ラウンドの最初と同じように君塚渉に6のカードを見せながら口を開く。
「俺は6のカードをセットする。」
残りの手札をひとまとめにし、君塚に見せていた6のカードを机の上に置き、セットする。
「前のターンのデジャブだよ……。さぁて、どうする。君塚さん。」
目の前にいる白い服を身に纏っている君塚渉を見ながら言葉を口にした。
「私がすることは決まっています。それに、確かめるまでもありません。」
普通なら何かがあると疑ってしまい、カードをセットすることに躊躇いや不安が生じるはずである。更には二回目である。これにより、さらなる不安が襲いかかるはずなのに、この男、君塚渉には、不安がないかのように、悩むことも無く自身の手札にあるカードをセットする。
「両者カードをセットが完了致しました。前のラウンドと同じように君塚様に0.3mlの聖水をプレゼントするのか、はたまた違う結果となるのか、真実を見てみましょう。それでは、カードオープン。」
林の掛け声と連動するかのように二人のカードがオープンされる。
●
モニター越しに見ていた川名は驚愕していた。
阿黒賢一がセットしたいたカードがいつの間にか6から1に変化していた。
(どっ、どういうことだ。)
心の中で絶叫してしまう。無理もない。モニター越しとはいえ、川名は自身の目で阿黒賢一が6のカードをセットする様を見ていたのだから。セットする前もしたあともカードを変えるような不振な点が何一つ見当たらなかったからである。
(そうか。前回のラウンドのあれは布石だったのか、なのに、なのに、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。どうして、君塚はそれを見抜けたんだ。)
そう。川名が驚愕していたのは、阿黒賢一に対してではなく、阿黒賢一のセットしたカードと同じカードをセットしていた君塚渉に対してであったのだ。
●
A:阿黒賢一:1
D:君塚渉:1
「おぉっと、これは、どういうことだ。阿黒様のセットしていたカードは6ではなく、1でありました。どういうタネがあるのか私にはさっぱりわかりません。しかし、君塚様、阿黒様の奇策を完璧に見抜いたぁ。これにより、君塚様には、0mlの毒、つまり、毒はタンク内にたまりません。」
この状況に阿黒賢一は、少しの動揺が顔にあらわれる。普通の人では見抜けないであろう小さな動揺、だが、目の前で相手をしている君塚渉は普通ではない。
「犠牲者よ。動揺していますね。」
その少しの動揺を君塚渉は見逃さなかった。
「だから言いったでしょう。犠牲者の実力はわかりましたと。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます