第二十七話 罠
「君塚さんは面白いこというね。でも、俺はまだ死んでない。犠牲者じゃなくて生者だよ。そして、生者は生者を殺せる。」
その返答に君塚渉は首を左右にゆっくりと振る。
「いいえ、あなたはもう既に死者なのです。私と対戦が決まったその日からね。」
「やっぱりおもしろいね。君塚さんは、でもね、犠牲者が生者を殺せないと誰が決めたんだい。」
「私が決めたのですよ。私以外に誰がいるというのでしょうか。」
さも当たり前かのように話す君塚渉に別室でこのゲームを見ている川名は1種の恐怖のようなものを感じた。
阿黒賢一につづき君塚渉もカードをセットする。
「両者セットが完了したため、カードオープン。」
ガシャン。
D:阿黒賢一:4
A:君塚渉:3
「先程の君塚様と同様、阿黒様に0.1mlの毒がタンクに溜まります。」
阿黒賢一のタンク内に毒が溜まり終わった瞬間君塚渉が口をひらく。
「犠牲者が私に勝てないことを証明するために、先程のをもう一度しませんか。」
その提案に阿黒賢一は悩むことなくすぐに返答する。
「いいよ。次は当てられるといいね。」
その提案にニコリと笑って返した後、自身のことをずっと見ている君塚渉を気にもとめていないかのような軽い手つきでカードをセットした。
「君塚さん。俺のセットしたカードはなんだと思う。」
先程と同じような質問を阿黒賢一のことを無言で見つめている君塚渉に投げかけた。
「5です。」
阿黒賢一を見つめながら数字を口にする。
「5だと思うならセットしてみれば。」
「そうさせて貰います。」
前回と同じようになんの迷いなく、君塚がカードをセットする。
「カードオープン。」
ガシャン。
A:阿黒賢一:5
D:君塚渉:5
「これは、なんということだ。阿黒様、君塚様に毒を溜めさせることが出来なかった。」
先程とは違い君塚渉は阿黒賢一のセットしたカードをで当ててみせた。
「これで犠牲者が私に勝つことができないとわかっていただけましたか。」
そう言うと、阿黒賢一の言葉を待たずにカードをセットする。
「犠牲者よ。あなたは、注射器を出すつもりでしょう。残りのカードでわかります。はやくセットしてください。」
その言葉に導かれるかのように阿黒賢一はカードをセットした。
「カードオープン。」
ガシャン。
D:阿黒賢一:注射器
A:君塚渉:6
「おーっと。ここで初めて体内に毒が注入されます。」
ゲームマスターである林の言葉と同時に阿黒賢一のタンク内に溜まっていた毒と聖水が体内に流れ込んでくる。
ツー、ツー、ツー。
今、目の前で毒を体内に注入されている男を見ながら君塚渉は口を開く。
「毒はお辛いですか。」
「いいや、辛くないよ。」
「それは良かったです。」
君塚渉のその言葉には相手に対する嫌味は感じられず、本心からの言葉であることを阿黒賢一は理解する。
「次は私がくらう番ですね。」
2人が最後のカードをセットする。
「それでは、第一ラウンド最後のカードオープンです。それでは、カードオープン。」
林の高らかな宣言と連動するかのようにガシャンと音をたてながらカードが表になる。
A:阿黒賢一:1
D:君塚渉:注射器
「それでは、注射器が出ましたので、体内にタンク内のものを注入させていただきます。」
君塚渉もタンク内に存在している聖水と毒が体内に注入されていく。
「どうだい。毒を体内に注入される感じは、辛いかい。」
今度は阿黒賢一が同じ質問を君塚渉に対して行った。
「いいえ、辛くありません。」
「それは良かった。」
先程の君塚渉とは違い、悪意の含まれている言葉を投げかけた。
「これにて、第一ラウンド終了です。ラウンド終了時、御二方のタンクに0.1mlの毒が溜まります。5分間の休憩の後、第二ラウンドを開始致します。それまで体を休ませておいてください。」
●
とある一室に大画面のモニターとソファーに座る黒のスーツを身にまとった川名春吉がいた。
(今の戦況は、君塚が若干有利か。君塚は第一ラウンドで聖水0.3mlと毒0.1mlで相殺しているから、今体内に存在する毒は0ml、対して、阿黒さんは、0.2mlの毒と0.1mlの聖水で体内には、0.1mlの毒がある。さらに、お互いに0.1mlの毒が次ラウンドに引き継ぎになっている。だが、まだ第一ラウンドだ。ここから全然巻き返しできるはずだ。唯一の懸念点としては、阿黒さんのセットしているカードを君塚渉に読まれてしまったことだな。だが、一回目のやり取りでは君塚渉のことを騙せた。次のラウンドで君塚渉のことを騙せれば。)
川名が頭の中で第一ラウンドの出来事を整理し終える頃には第二ラウンド開始の合図がなろうとしていた。
●
「それでは休憩も終わりましたので、第二ラウンドを始めたいと思います。第二ラウンドは、A側が阿黒様、D側が君塚様です。それでは、第二ラウンドを開始します。」
ゲームマスターの林が第二ラウンド開始の合図をしたのと同時に阿黒賢一が喋り出す。
「君塚さん。面白いものを見せてあげるよ。」
そういうと、阿黒賢一は自身の手札にある6のカードを君塚渉に見せる。そして残りのカードを一纏めにして机の上に置き、そのまま目の前でカード裏にして、セットをした。
「俺は6をセットした。君塚さんはどうする。」
そして、新しいおもちゃをもらった子供のような無邪気な笑みを君塚渉に向けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます