第二十四話 対峙
黒い車の中に、運転している男と、目隠しをして後部座席に座っている2人の男の計3人が存在している。だが、その空間には話し声すら聞こえない無音が広がっていた。
「本当に寝たんですか?」
「そのようだね。」
川名春吉は横で寝ている阿黒賢一の方に目をやる。
「本当に眠るとはなぁ。」
時は車に乗る前まで遡る。もうすぐ川名組を出発するというのにギャンブラーである阿黒賢一の姿が見えないのだ。前回は約束の時間の一時間前には来ていたのにも関わらず今回は20分前だというのに一向に現れない。焦りだした僕達は組総出で阿黒賢一を探すことにした。そうして、探しに探したが、結局阿黒賢一は見つからず約束の時間の三分前となってしまった。組員の中には怖気付いたのではないかと言うものも現れ、もうダメかと思ったその時、阿黒賢一が姿をあらわした。その時の組の喜びたるや説明できない。
そして、阿黒賢一と共に車に乗り出発してから直ぐに、「眠いから少し寝るね。着いたらおこして。よろしくね。」と言い後部座席でグースカと眠ってしまったのだ。
「本当にわからない方ですね。」
「僕もそう思うよ。」
●
同時刻、別の黒い車の中に先程と全く同じ構図の男が3人いる。
「今日も白い服を着ているのですね。素晴らしいですね。」
後部座席に姿勢よく座っている白服、白髪に白い肌、更には眼までも白い男が横に座っている白スーツの男性に向かって言葉を発する。
「あぁ、ありがとな。」
「次は髪を白くしてみましょう。もっと素晴らしくなれますよ。」
ニコリこ笑いながら言う君塚だったが、その笑みからは言葉にできない邪悪な雰囲気が漂っていた。
「白、似合いそうかい?」
自身の黒髪を指でクルクルとしながら白髪の男に問いかける。
「えぇ、とっても似合うと思いますよ。」
「それなら考えておこう。」
桐口奏斗の方に向けていた視線を今度は運転席に座っている男に向ける。
「生田さんも白スーツに変えて見てはどうですか?」
生田蓮二、桐口組の若頭である男だ。
「いえ、自分は遠慮します。」
「ダメですよ。白にしなきゃ。」
その時の君塚渉の目は恐ろしい程に冷たく冷酷に見えた。
●
「着きました。阿黒様。」
阿黒賢一が目を覚ますとそこは長い通路であった。
前回のゲーム『アルバスローカス』の時と同じような長い通路があり、これまた同じく赤いカーペットが敷き詰められていた。そして、通路の端々にはいくつもの扉が着いており、奥にはとても大きな扉がひとつとその目前に四角いゲートのようなものが存在していた。
扉の前に1人、ゲートの前にもう1人の計2名のスーツ姿の男達がこちらを向いてたっていた。まんま前回と同じ風景である。
「川名さんがここまで運んでくれたのかい?」
「えぇ、大変でしたよ。」
阿黒賢一のことをおんぶしてここまで連れてきた時のことを思い出す。
「ありがとね。」
そんな会話をしていると黒スーツの男がこちらに近づいて来た。
「それでは、阿黒様は奥に見える扉の前までお進み下さい。」
川名は片手で通路の奥にある大きな扉をさし示す。
「川名様はこちらに、」
前回と同じく通路に存在している扉に案内された。
川名春吉と別れた後、阿黒は鼻歌を歌いながら陽気に奥の扉に向かう。
ゲートの前に立っている男が話しかけてくる。
「今から持ち物検査をします。阿黒様、金属製のものを全てこちらの箱の中に入れてください。その後、両手を上げてください。」
「わかった。」
前回と同じように阿黒賢一は身につけている金属類を横にある箱の中に置いていく。
「これで全部だよ。」
阿黒賢一は身につけている金属製のものを全て箱の中に入れ終えた。
スーツ姿の男は懐から金属探知機のようなものを取り出す。
それで阿黒賢一の体の隅々までを調べていく。
ピー、ピー、ピー、ピー。
それからしばらく体を調べた後黒スーツの男が声を発する。
「問題ないようです。それでは、このゲートをお潜り下さい。」
阿黒賢一がゲートをくぐるとピコンという音が鳴った。
「それでは、このまま少しの間待っていてください。」
一分くらいが経過した時、前回と同じく男のスマホがピコンという音を放つ。
「問題ないようです。それでは、どうぞお入りください。」
その言葉と連動しているかのように大きな扉が鈍い音を立てながら自動で開いていく。
完全に扉が開くと、阿黒賢一は軽い足取りで扉の先に足を踏み出す。
扉の先の大きな部屋の反対側にはこちらと同じ扉がひとつあり、中央には色の異なる2組の机と椅子が約2メートルくらい離れて、向かい合わせに設置されている。そして、その間に一人の男性が立っている。
特徴的なのが、2つの机の左側に高さ1.6メートルくらいの四角い機械のようなものが設置され、とてつもなく細いタンクのようなものが2つ機械からむき出しにされており、2つのタンクにはそれぞれ管のようなものが繋がっていた。
更にはそこらじゅうに小型カメラが設置されている。
「対戦相手の入場です。」
中央に立っている男がマイクを使って声を通す。
その言葉に反応して反対側の扉が鈍い音と共に開いていく。扉の奥には髪も目も服も靴もありとあらゆるものが白色の男がたっていた。
カツ、カツ、カツ。
ゆっくりとゆっくりと阿黒賢一の目の前まで歩いてくる。
「君が俺の対戦相手の君塚さん?」
阿黒賢一は手を君塚渉の目の前に差し出す。
「そうですよ。犠牲者よ。」
差し出された手を握る。君塚の手は血が通っていないと錯覚する程白く、そして、綺麗であった。
「犠牲者ってもしかして、俺の事かな。」
「それ以外誰がいるのですか犠牲者よ。」
「犠牲者とは酷いな。まだ俺は死んでいないのに。」
「犠牲者は既に死んでいるのです。ですが安心してください。私が慈悲を持って最後まで見届けてあげますから。」
そんな訳の分からないことを言う君塚渉の目は狂気に満ちていた。
「今回のゲームで君塚さんが犠牲者にならないといいね。」
「そうはなりません。犠牲者は既に決まっているのですから。」
ニコリと笑いながら話すその姿からは想像もできないほどの危険な香りが君塚渉から醸し出されていた。
お互いがお互いの目を覗き会う。奥の奥まで、全てを見透かしているかのような目で。
「把握した。」
君塚渉を前にして呟いた。誰にも聞こえないような小さな声で。
「それでは、役者が揃いましたので、始めていきたいと思います。まずは今回のギャンブラーの紹介です。埼玉と群馬を占有していた陣間組を打ち負かしたギャンブラー、その名も阿黒賢一。相対するのは、栃木を占有する丸込組を圧倒したギャンブラー、純白に身を包む男、君塚渉。この2人にはそれぞれの組をかけてギャンブルしていただきます。そして、今回のゲームはこちらです。」
四角い機械をマイクを握っていない手で指す。
「その名もポイズンアンドホーリー。まず、おふたりにはそちらの椅子に座っていただきます。」
阿黒賢一と君塚渉がそれぞれの椅子に座った瞬間、両足と太もも更には腹部に拘束具のようなものが巻き付き、逃げられないように拘束される。そして、2つの管を用いり、左腕と2つのタンクを結びつけられた。
「いいですね。私の拘束具と机、椅子、機械、全てが白一色、あぁなんと美しい。」
●
とある一室に大画面のモニターがひとつ、そして、ソファーに座りながらモニターを眺めている白いスーツの男性が一人存在した。
「あぁ。君塚用に全部白くしたのか、あいつ前にやったゲームで自分の椅子が白くないだのなんだの言って暴れだしたからなぁ。」
前のゲームのことを脳裏に浮かべながら前々から思っていたことを独り言として呟く。
「阿黒賢一だっけか、あいつは災難だな。あんな化け物と戦うことになって。」
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