第四話 不穏

「少し休憩をもらっていいかな。」


第一ラウンドが終了してすぐに阿黒賢一が休憩を求めてきた。


「いいぜ。ただし3分だがな。」


少ないながらも獅子川宗隆は阿黒賢一の提案を受け入れる。


「それで十分だよ。ありがとう。」


第一ラウンドが終了した後、3分間の休憩タイムに入った。獅子川宗隆は椅子に座ったまま3分間の休憩タイムを過ごし、阿黒賢一は立ち上がり、クリエイティブエリアを縦横無尽に歩きながら過ごした。


そうして各々が休憩タイムを過ごし終わると第二ラウンドが幕をあげる。


「それではこれより、フォース第二ラウンドを開始致します。先攻は獅子川宗隆様です。」


開始の合図がなるのと同時に獅子川宗隆が顎に手を当てる。


(どうするか、100万でいくか、それとももう少し賭け金をあげるか、さっきあいつは200万賭けて負けたからその負けを取り返したいはずだ。少し盛るか。)


「ベット200万だ。」


(さぁ、どうする。のるか、おりるか。)


獅子川宗隆のレイズに阿黒賢一は少しの間思考する。


「レイズで100万かな。」


(ハハッ。こいつレイズしてきやがった前回の負けでも取り返そうとしてるのかこのバカは。いいぜ。のってやるよ。これで300万ゲットだぜ。こいつはいいカモだなぁ。)


「コール100万だ。」


賭け金が決まったのと同時に担当が口を開く。


「第二ラウンドの賭け金は300万となります。それでは、獅子川宗隆様のカードセットから行います。」


こうして第二ラウンドは本格的にはじまった。


「まぁ、最初はふかく考えなくてもいいな。」


さっそく獅子川宗隆がカードをセットする。


「そうだね。じゃあ俺もあまり考えずにカードをセットしようかな。」


そうは言いながらもカードをセットするまでには数十秒の間があいた。


(まぁ、そうだよな。口ではそう言ってもさっきのラウンド負けてるからいやでも考えちまうよな。)


両者のカードセットを確認すると担当が合図をおこなう。


「それでは、第二ラウンドはじめてのカードオープンです。」


先程のラウンドと同じように両名がカードを表にかえす。


阿黒賢一:3

獅子川宗隆:2


「阿黒賢一様が3、獅子川宗隆様が2でした。これにより、第二ラウンド、1セット目を獲得したのは第一ラウンドで1セットも獲得出来ていなかった阿黒賢一様です。第二ラウンドを獲得するのは第一ラウンドをおとしてしまった阿黒賢一様なのでしょうか。それとも第二ラウンドも獅子川宗隆様が獲得するのでしょうか。」


担当はこのゲームを見ている観客に現状の報告とこれから巻き起こる出来事を考えさせるような言い回しをした。


「ちくしょう1セット目はおとしちまったかぁ。」


(まぁ、1セットくらいお前にやるよなんたってこっちは2セット貰うんだからな。)


「次は俺の番だね。」


(冷静そうに振舞っているが、顔に少し笑みが見えるぞ。さぞ嬉しいだよな。俺に1セット取れたことがなんたってお前はさっきは1セットも取れなかったんだからなぁ。)


阿黒賢一がカードをセットするまでに数十秒もの時間がかかった。


『阿黒賢一はジョーカーをセットしました。』


小型のワイヤレスイヤホン型無線機から部下の声がする。


(俺も少し時間を開けてからセットするか。)


獅子川宗隆も数十秒の時間をあけてからカードをセットした。


「それでは、第二ラウンド、2セット目のカードオープンです。」


合図と同時に二人がカードを手動でオープンする。


阿黒賢一:ジョーカー

獅子川宗隆:1


「獅子川宗隆様が1、阿黒賢一様がジョーカーでした。阿黒賢一様は先程3のカードをだしていましたので、第二ラウンド、2セット目は獅子川宗隆様の勝利です。」


クリエイティブエリア全体に獅子川宗隆の勝利が告げられる。


「2セット目は俺の勝利だな。」


「このセットは取りたかったんだけどなぁ。」


(さっきまであった笑が消えてる。内心相当焦っているはずだぜ。今回のラウンドもおとしたら合計500万もの負けになるんだからな。)


阿黒賢一はこの結果に頭を抱えることになった。


(悩んでる。悩んでる。ハハッ。)


獅子川宗隆の内心に笑みがこぼれる。


「次は俺の番だな。」


阿黒賢一をせかすかのようにすぐさまカードをセットした。


「こっちしかないよな。」


ボソッと誰にも聞こえないように言ったその言葉はくしくも獅子川宗隆の耳に聞こえてしまった。


(あぁ。そうだ、お前らのようなカモはそっちしかねぇよ。)


阿黒賢一は少しの間、顎に手を当て自身の手札を見つめたのち、カードをセットした。


「両者カードセットを完了致しましたので、第二ラウンド、3セット目のカードオープンです。」


合図と同時に2人はカードを表にする。


阿黒賢一:1

獅子川宗隆:ジョーカー


「阿黒賢一様が1、獅子川宗隆様がジョーカーでした。獅子川宗隆様は先程1のカードをセットしていたので、第二ラウンド、3セット目は引き分けとなります。」


(やっぱり1だよな。お前みたいな奴らはこういう場面で攻めの一手は出せないんだよ。守りの一手しか出せないんだよ。だから読みやすい。本当にいいカモだ。)


このままの流れで第二ラウンドは獅子川宗隆の勝利で幕を閉じる。これにより阿黒賢一は合計500万もの金額を失ってしまった。


第二ラウンドが終了した時、第一ラウンド終了時と同様に阿黒賢一は休憩を求めてくる。それを獅子川宗隆は先の条件で受け入れるのであった。


休憩タイムでは二人とも先程の休憩タイムと同じような行動をしていた。阿黒賢一はクリエイティブエリアを縦横無尽に歩き回り、獅子川宗隆は相変わらず椅子に座っている。


そんなことをしているうちに3分の休憩タイムが終了し、第三ラウンドがはじまろうとしていた。


「これより、阿黒賢一様を先攻として第三ラウンドを開始致します。」


「450万、ベットするよ。」


開始の合図と同時に阿黒賢一が自身の持っている賭け金のほとんどをベットした。


さすがにこの行動は予測していなかったのか獅子川宗隆は困惑の表情を浮かべる。だが、困惑の表情を表に出したのも一瞬で、すぐに元の表情にもどった。


(一瞬困惑したが、どうせこんな大金をベットして俺にドロップさせるのが目的なんだろ。ここで負けたら勝って得た金のほとんどを失うことになるんだからな。だが、俺はイカサマでお前の手札が丸わかりなんだよ。もちろんドロップなんかしないぜ。)


「コールだぜ。」


その言葉を聞いた阿黒賢一は苦虫を噛み潰したようかのような表情を表にだしてしまう。


「どうした。顔色が悪そうじゃないか。なんかあったか?」


優しさからくる言葉ではなく、嫌味からくる言葉を阿黒賢一になげかけた。


「いやいや、なんでもないよ。」


阿黒賢一はその言葉に反応するかのように、いや、反応して冷静な表情を装う。


(やっぱり俺がドロップするのを狙ってたか、お前の思惑は外れたんだよ。ざまぁ。)


「賭け金の設定が終わりましたので、これより第三ラウンド、1セット目を開始致します。」


担当が合図したのと同時に阿黒賢一は自身の持っている4枚のカードを胸元にめいいっぱい近づけ、後ろにいるもの達にカードの数字が見えないようにした。そして、そのまま自分以外の誰にもカードの数字が見えないように工夫しながらセットする。


このギャンブルを見ているほとんどのもの達が阿黒賢一のこの行為にどんな意味があるのか理解出来ていなかったが、少なくとも真正面に座っている獅子川宗隆は阿黒賢一のこの行動の意味を理解していた。


(こいつ俺のイカサマに気づいたのか、)


『すみません。阿黒賢一の出すカードが見えませんでした。』


耳につけているワイヤレスイヤホン型無線機から部下の声が聞こえてきた。


(まぁ、そんなこと関係ないんだがな、俺がたった一つのイカサマだけでこのギャンブルに挑んでいるとでも思っているのかこのバカは、違うんだよなぁ、このメガネにも仕掛けがあるんだよ。)


獅子川宗隆な決して視力は悪くはない、いや、それどころか良いほうだ。そんな彼がメガネをする理由、それは、イカサマのためである。このギャンブルで使用しているトランプはノワールのクリエイティブエリアに置いてあったものを使用しているが、フォースが始まる前にこのトランプにはとある仕掛けが施してあった。それは特殊なインクでカードの裏面の四門にそれぞれのカードがわかるように小さくマークがえがかれているというものであった。それを見るためには特殊なメガネが必要であり、そして、この場でそのメガネをつけているのは獅子川宗隆ただ1人である。


(お前は絶対に俺に勝てない。このギャンブルを受けた時点でお前は負けは決定してたんだよ。)


この時、これからおこる残酷な出来事を観客としてフォースを見ていた僕には思いもよらなかった。そして、その出来事をきっかけに阿黒賢一を勧誘することになるなんて。

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