聖暦2000年 桜芽 水の日

村長の息子が死んだ。

魔物に襲われた。幼なじみの創った剣で村長が前線に立ち、俺は光魔法で後衛で闘った。幼なじみは指示を出して俺たちをサポートしてくれた。

闘いは順調だった。狼のような魔物が3匹とそれを従えていた人型の魔物が1体。狼の魔物は難なく倒すことが出来た。しかし、人型の方は別だ。数多の魔法を操ってこちらの連携を崩してきた。村長の息子が機転を利かせなければ倒せなかっただろう。

ただし、それと同時に彼を失うこととなった。

勇者なのに。勇者なのに守れなかった。


魔物が出た。昼間に現れた。奴らは闇に紛れて夜にしか出ないはずでは?足がすくんで立てなかった。そんな中でもユイダは果敢に挑んだ。僕も何かしないと。そう思っても光魔法なんか何ができるのか知らない。何ができるのか知るために王都に向かってるのに。何も出来ない、何かしないと、でも何を、何がある?目の前ではユイダが、ミキも戦ってる。どうにかしないと。勇者ならどうする?

ユイダが僕に笑いかけた。ここはおっさんに任せろって。狼は難なく倒せた。多分、村でも同じようなのを倒していたのだと思う。でも、人型は倒せてない。言葉を喋っているような、でも何を話してるか分からない。身体は人間、だけど腕のところは翼で飛んでるし、目が真っ黒。こんなの倒せるわけない!逃げよう、と声をかけようとした。でもダメだ。僕は勇者なんだ。立ち向かわないと。結局これからこういうのを倒すことになるんだ。ミキに言って剣を作ってもらった。こういうのは形から入るもんだ。その剣を大きく振りかぶって斬りかかった。当たった。ユイダごと。どうして?魔物は倒れた。ユイダも倒れた。僕も膝から崩れ落ちた。

なんで、どうして、いつ?僕が?斬った?殺した?ユイダを?

気持ち悪くなった。吐き気が止まらない。その場で吐き出す。もう何も考えたくない。


夜、ミキが話してくれた。あの人型は混乱魔法を使っていたらしい。何種類も僕は魔法を見たと言ったが、ミキは首を振った。その時、既に魔法にかかっていたんだ、と。ミキは自分の魔法のおかげでかかっていなかったが、普通なら倒せる狼の魔物に苦戦している僕たちを見て何かおかしいと思ったらしい。ようやく倒したと思ったらユイダがあの人型を守るように僕と戦っていた、と。僕は一撃しか攻撃していないつもりだった。でも何度も斬りかかっていたらしい。ユイダの身体は傷だらけだった。ミキは何とか僕たちを止めようと人型を全力で倒したらしい。でもその時には遅かった。僕がユイダを殺した後だった。

あの感触が忘れられない。あの目が忘れられない。

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