こんな姿を見たら

「……優斗、また後でね」  


 学校に着いて、真奈の教室の目の前まで来ると、真奈は名残惜しそうにしつつも手を離して、そう言ってきた。

 

「うん」


 俺はそんな真奈の言葉に頷いて、真奈が教室に入っていったのを確認してから、スマホを弄りつつ、自分の教室に向かった。

 

「あ、ごめん」


 すると、また誰かにぶつかってしまったから、俺は咄嗟に謝りつつも、視線を上にあげた。

 ……やっぱり、歩きスマホって良くないよな。次からはもう本当にやめよう。

 そう思いながら。


「どこ見て……あ、優斗」


 視線を上げると、そこに居たのは金髪ポニーテールの不良少女、由菜だった。


「あれ、由菜ちゃんじゃん。ごめんね? またぶつかっちゃって」


「お、お前が前方不注意なのはこの前もだったし、別にいい。次からは気をつけろよ。……というか、学校にスマホなんて持ってきちゃダメなんだからな!」


 ……不良少女のはずなのに、注意をされてしまった。

 いや、悪いのはどう考えても俺の方だし、素直に反省するけどさ。


「次からは気をつけるよ。わざわざそんな注意をしてくれて、ありがとね」


「わ、私は別にお前と仲良くする気なんてないし、お前のために言ったわけじゃねぇよ!」


「そうなの? でも、俺は由菜ちゃんと仲良くするつもりだし、嬉しかったよ?」


「んにゃッ、あ、あっそ!」


 俺の言葉を聞いた由菜は、顔を赤らめて、誰が見てもわかるように動揺していた。

 ……やばいな。こんな姿を見たら、もっとからかいたくなってくる。

 ……ちょうど、この前俺が由菜の言っていた襲うって意味はどういうことだったの? って聞いた時、自分で調べろって言って逃げていってたし、家に帰ってから調べたって言ってからかっちゃダメかな。


「も、もう私は行くから!」


「あっ、ちょっと待って」


 教室に向かおうとしてしまっている由菜を呼び止めて、俺は言うことにした。

 少しくらいからかったって大丈夫だろう、と思って。

 無自覚だからこそ、そういうからかい方が出来る、みたいな見方も出来ると思うし。……多分。


「なんだよ」


「この前、由菜ちゃんが言ってた俺を襲うってどういう意味だったのか、自分で調べろって言われたから、ちゃんと家で調べてきたよ」


「なっ、そ、それで、な、なんだよ?」


「由菜ちゃん、俺とえっちなことをしたかったの?」


 さっきと同じように明らかに動揺をしている由菜の耳元に近づいて、俺はそう言った。

 自分で言ってて、鳥肌が立ちそうなくらい気持ち悪かったけど、それを我慢して。

 

「ふえぁっ、そ、そ、そんなわけないだろ!」


「そうなの? でも、調べたらそんな風な意味だって書いてあったよ?」


「し、調べ方が悪かったんだろ」


「じゃあ、結局どういう意味だったの?」


「も、もういいだろ! そんなのどうでも! わ、私はもう教室に戻るから!」


 ピアスの穴が開いた耳の先まで顔を真っ赤にして、由菜は逃げるように去っていってしまった。

 由菜のあんな姿を見れたことに満足したし、俺もそろそろ教室に戻るか。

 

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