お嫁さん

 授業が終わり、俺はもう一度スマホを確認した。


【そういえば、昨日は聞きそびれちゃったけど、あの女の臭いって、何?】


 すると、当たり前のことなんだけど、あれは夢でもなんでもなく、そこにはそんな真奈からのメッセージが着ていた。


 ……どうしような。

 授業が終わっても、全く良い言い訳を思いつかなかったぞ。


「優斗くん、どうしたの? 大丈夫?」


 そう思っていると、結衣が心配そうにそう聞いてきた。

 ……そんなに心配されるほどの顔をしてたのか? 俺。

 そこまで別に思い詰めてはないんだけどな。

 正直、なんだかんだ思いつつ、割と余裕はあるし。


「大丈夫だよ?」


 そんな疑問を内心で思いつつ、俺はそう言った。

 

「そうなの?」


「うん。……俺、そんなに変な顔してた?」


「ううん。何となく、雰囲気が違かったから、聞いたんだけど、なんにも無いのなら、私の勘違いだったみたい。……ごめんね」


「全然大丈夫だし、心配してくれて嬉しかったよ。ありがとね、結衣」


「う、うん」


 俺の言葉を聞いた結衣は、顔を赤くしながら、頷いてくれた。

 ……それは良かったんだけど、結局、問題は解決してないんだよな。

 余裕があるとはいえ、それはまだ時間があるからであって、時間が進むと当然余裕は無くなる。

 

【昨日から思ってたけど、俺にはよく分かんないよ】


 そう思いながら、俺はそんなメッセージを真奈に返した。

 案外とぼけてみたらなんとかなるかな、と思って。

 すると、珍しい……ってのもおかしな話かもだけど、直ぐに返事が来ることが無かった。

 多分だけど、寝てるんだと思う。

 寝不足だって言ってたし。


 


 そんなこんなで、あれから少し時間が経ち、昼食の時間になった。

 まだ真奈からの返信は着ていない。

 寝不足の時ってめちゃくちゃ眠ってしまうし、気持ちはよく分かる。


「結衣、一緒に食べよ」


「う、うん!」


 昼食を学食から取ってきた俺は、結衣にそう言って声をかけた。

 すると、直ぐに頷いてくれたから、俺は結衣の机と自分の机をくっつけた。

 

「ゆ、優斗くん、ひ、一口、食べる?」


 そうして、結衣と一緒に昼食を食べていると、突然そう聞いてきた。


「いいの?」


「う、うん。この前、食べてみたいって言ってた、から」


 言ったか……? いや、そんな感じのことは言ってたか。

 

「なら、遠慮なく貰おうかな」

 

 そう思って、俺はそう言いながら、結衣の方に向かって、口を開けた。


「えっ」


「ん? 食べさせてくれるんじゃないの?」


「い、いいの? じゃなくて! た、食べさせる! 食べさせるよ!」


 惚けたようにそう聞くと、結衣は慌てたように頷いてきた。

 

「は、はい、あーん」


 そしてそのまま、そう言いながら結衣は卵焼きを俺の方に腕を伸ばして差し出してきた。

 

「……ん、美味しい。結衣、料理上手いんだね」


「ほ、ほんと?」


「うん。ほんとだよ」


「わ、私の事、お嫁さんに欲しいって思う?」


 これでもかというくらい顔を赤くして、結衣はそう聞いてきた。

 あ、それだ。俺がこの前言ったの。


「うん。こんな美味しい料理が毎日食べられるのなら、そりゃ思うよ」


「ッ、えへへ……」


 結衣は嬉しそうにしている。

 結衣の料理が上手いのは分かったけど、真奈はどうなんだろうな。

 今度、学校が休みの日にでも作ってもらうか。

 もちろん、結衣とのデートが無い日にな。

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