俺も人のことは言えないけど

「ねぇ、大丈夫?」


 由菜と一緒に登校をしていると、何故かそんな感じに全く知らない女の子から声をかけられた。

 由菜の方を見ると、少し嫌そうな顔をしている気がする。

 ……由菜が嫌がるのなら、なんで声をかけてきたのかは分からないけど、俺もちょっと嫌だな。


「何が?」


 そう思いつつも、俺は無自覚な振りをこれからもするためにも、笑顔で声をかけてきた知らない女の子にそう聞いた。


「その子、どう見ても不良じゃん。無理やり一緒に居させられているのなら、私が助けてあげるよ」


「……」


 確かに、俺も初めて由菜を見た時、不良少女とか思ってたし、人のことは言えないけど、別に俺、助けなんて求めてないしな。

 普通に自分から由菜に声をかけて、由菜と一緒にいるんだし。


「俺は自分の意思で由菜と一緒に居るから、そんなの必要ないよ」


「ふえっ!?」


 自分のことを棚に上げて、少し腹が立った俺はそう言いながら由菜に抱きついた。

 前の世界だったら確実にセクハラor事案な訳だけど、この世界だったら大丈夫……だと思う。

 いきなり他人に抱きついてるって訳でもないしな。


「は? ち、ちょっと、お、脅されてるのなら、わ、私が……」


「だから、俺の意思でやってる事だから、大丈夫だってば。……まぁ、でも、心配してくれてありがとね?」


 本当は礼なんて嘘でも言いたくないんだけど、俺はそう言った。

 逆恨みで由菜が何かされても嫌だしな。

 

「き、気にしないでいいわよ」


 うん。本当に気にしないよ。明日には忘れてやる。


「由菜、行こ?」


「う、うん……じゃなくて! は、離れろよ! お、お前、お、男だろ!? は、恥じらいとか、警戒心とか、無いのかよ!」


 由菜は顔をこれでもかというくらい真っ赤にして、そう言ってきた。

 ……こんな可愛いくて純粋な子が不良なわけが無いだろう。……いや、ピアスの穴が耳に開いてるし、それは嘘かもしれん。不良ではあるのか。

 ……そう考えると、さっきの女の子の勘違いも……いや、俺が不快な思いをしたんだし、気にしなくていいや。

 由菜だって嫌そうにしてたし。


「別に由菜だから、大丈夫でしょ」


「そ、それどういう意味で言ってるんだよ……」


「信頼してるって意味だけど、それ以外に何かあるの?」


「ッ、し、知らねぇよ!」


 まぁ、流石に俺もこのままじゃ歩きにくいし、一旦由菜から離れて、手だけを繋ぐことにした。


「また変なこと言われたらお互い嫌でしょ?」


「……別に、私は気にしてなかった」


「俺が気にしたんだよ。……まぁ、それはもういいから、早く学校行こ」


「……うん」


 顔を赤くしたまま、素直に由菜は頷いてくれた。

 それを確認した俺は、今度こそ、由菜と一緒に学校に向かった。

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