頼むから

「も、持ってきたけど、ほ、ほんとにいいの?」


「何度も言ってるでしょ? 真奈が嫌じゃないのなら、別にいいよ」


 正直、俺も逆の立場なら、今の真奈みたいに何度も聞くだろうし、こうやって何度も聞かれることに何かを思うようなことなく、俺はそう言った。

 もちろん……と言うべきなのかは分からないけど、なんとなく、スマホを隠しながら。

 ……いや、だってさ、もうほぼ確定みたいなものだからな。真奈がいわゆるヤンデレだってこと。


「う、うん。な、なら、一緒に、入りたい……」


「じゃあ、早く入ろ。俺、先入ってるね。一応、真奈の分のタオルも用意してあるから、良かったら使って」


 そう言って、真奈を玄関近くに置いたまま、俺は風呂場に向かった。

 流石に脱衣所で一緒に脱ぐっていうのはどうかと思うからな。

 

 そんなこんなで、俺は服を脱いでから、タオルを腰に巻いて、風呂場の中に入った。

 

「ゆ、優斗、は、入るね」


 そうして、適当にシャワーを浴びていると、そんな真奈の声が扉の前から聞こえてきた。

 

「……うん」


 俺から誘ったんだけど、いざ真奈がタオル一枚の姿で入ってくると思うと、緊張するな。

 

「ゆ、優斗! な、なんで優斗は、胸を隠してないの!?」


「え?」


 ……胸? 俺が? いや、俺、男だぞ?


「いや、俺男だぞ?」


「お、男の子だからこそだよ!」


 顔を真っ赤にして、チラチラと俺の胸? を盗み見てきながらも、真奈はそう言ってきた。

 意味が分からない。……いや、こっちの世界だと、男の胸にまで需要があるのか?


「まぁ、俺は気にしないから、真奈も気にしないでいいよ」


「き、気にしないでって……え、え? き、気にするし、ゆ、優斗も気にしてよ!」


「真奈だから、大丈夫だよ」


「……わ、私、だから?」


「うん。真奈だからだよ?」


「ほ、ほんと? 私以外には、そんな無防備じゃない? 私だけ?」


「え……う、うん、そう、かな?」


 無防備というか、真奈以外にも無自覚でいこうとはしてるけど、まだ真奈以外には何もしてないし、嘘は着いていないと思って、俺は歯切れ悪くではあるけど、頷いた。


「な、なら、う、うん。優斗がいいなら、い、いいよ」


 良かった。

 特に怪しまれることはなかったみたいで、頷いてくれた。

 めちゃくちゃ胸に視線を感じるけど、まぁ、俺としてはそんなところを見られたって恥ずかしくもなんともないし、ぜひ見てくれって感じだから全く問題ないんだけどな。


「取り敢えず、俺は頭を洗うね」


「う、うん」


「真奈は洗わないの?」


「あ、洗うよ」


「そう? なら、シャワーは使っても大丈夫だからね」


「う、うん」


 俺がそう言うと、真奈は顔を真っ赤にしたまま、頷いてくれた。

 心做しか、肩まで赤い気がする。

 ……これ、今更なんだけど、俺が一番危ないかもしれない。

 真奈みたいな美少女がタオル一枚の姿で目の前にいるんだぞ? しかも、俺の事を好いてくれているときた。

 これ、襲わない理由があるのか? ある訳が無い。

 ただ、ここで襲ってしまったら、俺の目標の無自覚な振りというものが出来なくなってしまう。

 ……男の俺がこんなことを思うのは情けないことなのかもしれないけど、頼む。頼むから、真奈の方から襲ってきてくれ。




 真奈は俺が内心でこんなことを思っているなんて欠片にも思っていないんだろう。

 だからこそ、本当に何も無く、お互い頭を洗い終えてしまった。

 

「真奈、良かったらなんだけど、体、洗ってくれない?」


 このままじゃ本当に何も無く終わってしまうと思った俺は、そう言って、真奈を誘惑することにした。

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