やっぱり真奈って……
……まぁ、大丈夫だろう。
別に結衣を家の中まで入れるわけじゃないんだ。
鉢合わせになったりなんてしないし、平気なはずだ。
そう思って、結衣に家に送って行って貰っていると、家が見えてきた。
……真奈の姿は見えない。多分、家の中に居るんだろう。……大丈夫、だよな?
「ありがとね、結衣。俺の家、あそこだから、もう大丈夫だよ」
「あ、そうなんだ。全然大丈夫だよ! 女が男の子を送っていくのなんて当たり前のことだし」
……普通、まぁ、そうだな。普通のこと、なんだよな。
「当たり前のことなんだとしても、結衣が送ってくれたのが嬉しかったから、ありがとう」
「う、うん……ほ、本当に気にしなくても大丈夫だから」
そう思いつつも、俺は改めてそう言ってお礼を伝えた。
実際、当たり前のことにお礼を言うのって大事だと思うからな。
「それじゃ、また明日、結衣」
「う、うん! また明日!」
そして、結衣は帰って行った。
……どうしても暗くなり始めている所を女の子一人で帰すって状況に心がモヤモヤするけど、この世界では普通のことなんだ。
俺も、慣れないとな。
そんなことを思いながら、結衣が見えなくなるところまで見送った俺は、家に向かい始めた。
鍵は真奈に預けてあるから、真奈に開けてもらわないと。
【真奈、帰ったから、玄関開けてくれる?】
そう思って、俺はそんなメッセージを送った。
すると、いつも通り直ぐに既読が着いたかと思うと、まるで扉の前でずっと待っていたかのようなスピードで鍵が開く音が聞こえた。……俺の部屋に居たん、だよな? 早過ぎない?
「あ、ありがとう、真奈。……一応聞くんだけど、俺の部屋に居たんだよね?」
「……うん。居たよ」
真奈のそんな返事を聞いた俺は、何か、違和感を感じた。
……そうだ。これは、俺が結衣も真奈と同じ特別になって欲しい、みたいな話をした時に見せてきた雰囲気だ。
いや、いやいやいや、だとしたら、なんでこんなことになってるんだ!? 俺、今回は何も失言なんてしてないよな?
「優斗は、何、してたの? こんな時間まで遅くなる用事って何?」
「えっ……い、いや、先生に、ちょっと、頼まれ事をして……」
「男の子に、先生が? しかも、こんな遅い時間まで? その先生、名前、何? そんな奴、クビにしてもらわないと」
俺が苦し紛れにそう言うと、真奈は俺のそんな言葉を疑っていないのか、真剣な様子でそんなことを言い出した。
やばい……嘘なんだから、そんな先生いるわけないし、今の真奈の様子を見るに、多分、本気だ。
だからこそ、適当な先生の名前を答えるわけにもいかない。
「そ、そこまでしなくても大丈夫だから」
「……ねぇ、優斗」
「は、はい……なんで、しょうか」
「その臭い、何?」
……臭い? 臭いってなんだ? 俺、臭いか? ……確かに帰ってきたばかりだし、臭くないと自信を持って言えるわけじゃないけど、臭い、とは思えない……いや、思いたくない。
「ねぇ、優斗、聞いてる? もしかして、無理やり、何かされたの? 誰? ねぇ、誰? 誰に?」
「ま、真奈? 何を言って……」
俺が言い終わる前に、真奈は明らかにおかしい雰囲気のまま俺に抱きついてきた。
なんで? という疑問は当然湧いてくるけど、嫌なわけじゃないから、何も言わずに俺は真奈を受け入れた。
「誰に付けられたの? その臭い」
……まさかとは思うけど、結衣に抱きつかれて、結衣の匂いが俺に付いて、真奈はその事を言っているのか? ……確かに、香水……とは違うかもだけど、俺とは違ういい匂いがしてたもんな。
「よ、よく分からないけど、真奈の気のせいじゃないかな」
「そんなわけない。私は、優斗のことならなんでも知ってるし、覚えてる」
やばい。
このままじゃ、結衣のことを話さないといけなくなってしまう。
……いつかは言うつもりだけど、この前の感じからして、まだダメだと思う。
「そ、それより、せっかく待っててくれたんだし、俺の部屋に戻らない?」
部屋に戻ったところで、何かすることがある訳でもないんだけど、今のこの状況をどうにかするために、俺はそう言った。
多分、このままこので真奈と喋るよりは、部屋に行った方がいいと思ったからだ。
「……ダメ。そんなことで誤魔化されない。そもそも、その臭いが優斗の部屋に染み付いたらどうするつもりなの」
……正直、結衣の匂いが俺の部屋に染み付いてくれるのなら大歓迎なんだけど、そんなことは言えるわけないし、どうしたら……いや、そうだ。俺もちょっと恥ずかしいけど、多分、どうせこの前見られてるんだ。今更だ。
「な、なら、お風呂、入ってこようかな。真奈も一緒に入る?」
そう思って、俺はそう言った。
すると、主導権を握り返せたのか、真奈は顔を真っ赤にして、動揺し始めた。
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