また別の日にした方が

「結衣、そろそろ、デートの場所、決めよっか」


「で、デート……う、うん。ご、ごめんね、なんか、変になっちゃって」


「普通に可愛かったし、別にいいよ?」


「う、うん……あ、ありがとう」


 おかしくなったっていうのは、俺がいきなり頭を撫でたりしたせいでもあるだろうし、悪いのは俺だからな。

 結衣が気に病まないように、俺はそう言った。

 可愛かったっていうのも別に本当のことだし。


 それよりも、問題はデートの場所だ。

 俺は正直、口では決めようかって言ってるけど、また別の日でいいんじゃないかと思い始めている。

 ……だって、放課後ってこともあって、もう結構な時間だし、そもそもの話、俺たちはまだ中学生だ。

 行ける場所なんて限られてる。この時間帯ともなれば、特にだ。


「結衣、デートはさ、また今度にしない?」


 そう思った俺は、嬉しそうにしつつも、未だに顔を赤くしている結衣に向かって結局そう言った。


「……え?」


 すると、結衣は何を勘違いしたのか、絶望したような声が聞こえてきた。


「一応言っておくけど、結衣とのデートが嫌になったわけじゃないよ? ただ、単純にもう時間も遅いから、また別の日にした方が長く一緒にいられると思ったんだよ。今度の土曜日とかさ、空いてない?」


 俺は直ぐに結衣のそんな勘違いを解く為にそう言った。


「あ、空いてるよ!」


 すると、さっきまでの絶望した表情が全部嘘だったかのように、結衣は目を少し見開き、驚いたような雰囲気と同時に、嬉しそうな雰囲気を醸し出しながらそう言ってきた。

 

「なら、土曜日にしない? 今日……は分かんないけど、また夜に通話でもして、行く場所はその時に一緒に決めよ?」


「う、うん。分かったよ。約束、ね?」


「うん。約束」


 今日はただ結衣と抱き合っただけになったけど、それはそれで普通に悪くないし、全然良かったな。


「それじゃあ、俺は帰るね」


「あっ、送っていくよ」


「結衣の家がどこかは分からないけど、そんなことしてたら、遅くなっちゃうでしょ。一人で帰れるよ」


「だ、大丈夫だよ! 優斗くんをこんな時間に一人にする方が心配だから、送っていくよ!」


 ……結衣は俺の事を思って言ってくれてるんだろうけどな、前の世界の記憶がある俺からすると、なんか、変な気分になるな。男が女の子に送って貰うなんて。


「ほんとに大丈夫だよ? 結衣が帰るのが遅くなって、誰かに怒られちゃう方が嫌だからさ」


「私は大丈夫だよ。そもそも、男の子を一人で帰らせたなんて言った方が怒られちゃうよ!」


 ……そうだった。そういう世界だったな。

 ただ、俺も結衣に送ってもらう訳にはいかない理由があるんだよ。

 家には今、多分だけど、真奈がいる。

 そう、ヤンデレ疑惑がある真奈が、だ。

 用事って言って真奈と一緒に帰れなかったのに、女の子と一緒に帰っているところなんて見られたら、もしも俺の想像通り真奈がヤンデレだった場合、絶対に不味いことになる。それだけは分かる。


「……もしかして、私に家の場所を知られるの、嫌? ほんとは、さっきのも気持ち悪かった?」


「い、いや、そんなことないよ!」


「なら、なんで嫌なの……?」


「……や、やっぱり、結衣に送ってもらおうかな」


 悲しそうに聞いてくる結衣を見ると、我慢できずに、俺はそう言ってしまっていた。

 

「う、うん! 任せて!」


 ……まぁ、大丈夫だろう。

 別に結衣を家の中まで入れるわけじゃないんだ。

 鉢合わせになったりなんてしないし、平気なはずだ。

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