うっかりしていたってことで

 風呂を沸かした俺は、自分が手に持っているスマホを見て、どの世界でも俺は現代人だな、と思った。

 やっぱり、こんな世界に転生したとしても、スマホ依存症は治らないよな。現代人だし。


 ……どうせ持ってきてしまったんだし、風呂に浸かりながら、真奈か結衣に電話でもかけてみようかな。

 もう俺がそういうことに無頓着だってことは何となく理解して貰えたと思うし、テレビ電話で通話をかけて、うっかりしていた、とでも言えば多分大丈夫、だよな。

 やってみるか。


 そう思って、母さんに防水のスマホケースが無いかを聞きにリビングに向かった。

 もうここまで戻ってくるのなら、スマホを部屋に置いてきたらいいだろ、と思われるかもだけど、もう俺の好奇心は抑えられないんだ。


「もちろんあるけど、お風呂でもスマホを弄るの? ゆうちゃん」


「うん。ダメかな?」


「も、もちろん大丈夫よ! は、はい、これ」


 母さんから防水のスマホケースを受け取った俺は、内心で上手くいったことを喜びつつ、風呂場に戻ってきて、服を脱いだ。

 そしてそのまま、頭と体を洗い、スマホを持って風呂に浸かった。

 

 さて、どっちに連絡しようかな。

 ……やっぱり結衣とそういう関係になるためにも、ヤンデレ疑惑がある真奈の好感度をあげておいた方がいいよな。

 今日のことでかなり好感度は上がっているだろうけど、念には念をってことでもっと上げておいてもいいはずだ。

 

【真奈、急で悪いんだけど、今、電話することってできる? 別に何かがあったわけじゃないんだけど、急に真奈の声を聞きたくなっちゃってさ】


 そう思った俺は、そんな感じのメッセージを真奈に送った。

 すると、直ぐに既読がついて、返信が帰ってきた。


【もちろんいいよ!】


 それを見た俺は、真奈の方から電話がかかって来る前に、テレビ電話を掛けようとして、少し止まった。

 ……冷静になってみれば、俺、めちゃくちゃキモイことをしようとしていないか? ……い、いやいや、落ち着け。

 この世界は貞操が逆転した世界だぞ? 大丈夫大丈夫。キモイと思うのは俺だけで、真奈にはそんなこと、思われないはずだ。

 そうして、無駄な勇気を出して、俺は今度こそ、真奈にテレビ電話を掛けた。


「もしも……えっ、ゆ、優斗、お風呂……じゃなくて、テレビ電話になってるよ!」


 すると、予想通りと言うべきか、真奈は真っ赤な顔を画面に映してくれながら、狼狽えたようにそう言ってきた。


「あ、ほんとだ。でも、まぁ大丈夫だよ」


「な、何も大丈夫じゃないよ!」


「んー、でも、大事なところは見えてないでしょ? なら、大丈夫だよ」


 自分で言ってて気持ち悪さが物凄いんだけど、真奈の照れた顔を見られるのなら、我慢できるかな。うん。


「で、でも、ギリギリ……だし、や、やっぱり、ダメ、だよ」


「……真奈がそんなに見たくないって言うなら、カメラを閉じるけど、俺は真奈の顔を見たいよ」


「わ、私も見たくない訳じゃなくて……む、むしろ見たいよ? で、でも……」


「見たいなら、いいよね?」


「……う、うん」


 よし、真奈も頷いてくれたし、このまま続けよう。

 ……ただ、何を話そうかな。……これがしたかったから、電話を掛けたのであって、正直もう目的は達成してるんだよな。




 そう思いながらも、ドギマギしている真奈を見ながら、適当な会話をして過ごしていると、もう結構長い時間入っていたみたいで、母さんの俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「えっ、あっ」


 そんな突然の声に俺は驚いてしまい、スマホを落としてしまった。

 防水ケースの中に入っているから、スマホ自体は無事なんだけど、真奈の顔が今日一真っ赤になっていたのを見るに、俺のナニが映ってしまったのかもしれない。

 

「な、何か、見た?」


 いくら俺でも、もしそれが映ってたんだとしたら、自業自得とはいえ、恥ずかしいことには変わりないから、顔が熱くなっていくのを自覚しながらも、俺はそう聞いた。


「えっ……? み、見てない! 全然見てないから、大丈夫、だよ!」


「……ならいいけど」


 絶対見えてた時の反応じゃん。と思いつつ、俺はそう言って、一方的に通話を切った。

 いや、流石に恥ずかしいって。マジで映す気なんて無かったんだからさ。

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