タイミングは悪いけど
「ゆうちゃん、どうしたの? 大丈夫? やっぱり、学校で何かあったの?」
自業自得とはいえ、見られてしまったショックで気分が落ち込みながらも、母さんが作ってくれた夕飯を食べていると、母さんはそう聞いてきた。
……まさか馬鹿正直に女の子に大事なところを見られました、なんて言えるわけない。特にこんな世界なんだからな。
「違うよ。ちょっと……お風呂でのぼせちゃっただけだよ」
「だ、大丈夫なの? ゆうちゃん」
「う、うん。大丈夫だよ」
ちょっと心苦しいけど、さっきの出来事を正直に白状するよりはマシだと思った俺は、母さんが作ってくれた夕飯を口にしながら、頷いた。
「ご馳走様。部屋に戻るね」
そして、気分が落ち込みながらも、夕飯を食べ終わった俺は、手を合わせながらそう言った。
「えぇ、ゆっくり休むのよ」
すると、俺が風呂でのぼせてしまったと思っている母さんは心配そうにそう言ってきた。
そのことにやっぱり心苦しくなりながら、俺はそのまま部屋に戻った。
「……はぁ。流石にさっき寝たばかりで眠くもないし、どうしようかな」
寝て気分を紛らわすのが一番だと思うんだけど、全く眠くないし、どうやって気を紛らわせようかを考えながら、俺はそう呟いた。
結衣や真奈に連絡をするっていう考えは無い。
結衣は関係ないけど、女の子だし、さっきのことを思い出してしまって、余計に気持ちが落ち込んでしまうからな。
【優斗くん、今って暇?】
そんなことを考えながら、ベッドでゴロゴロとしていると、タイミングの悪いことに結衣からメッセージが来てしまった。
結衣には悪いけど、気がついてない振りを……いや、ダメだな。悪いのは俺なんだし、ちゃんと返信をしよう。
【暇だよ】
【電話、掛けてみてもいい? ……出来れば、テレビ電話がいいけど】
……本当にタイミングが悪いな。
少し前なら、喜んで頷いてたけど、今はちょっとな。……少し前、そのテレビ電話でやってしまったわけだし。
【もちろんいいよ!】
そんなことを内心で思いながらも、肯定的な返信を送った。
すると、直ぐに電話が掛かってきた。
……髪、まだ乾ききってないけど、それは大丈夫か。
服装……もまぁ大丈夫だな。普通の寝間着だ。
「学校ぶりだね、結衣。何か用だった?」
そうして、ベッドに寝転びながら、枕にスマホを上手いこと立てかけた俺は、電話に出ながらそう言った。
「い、いきなり掛けてごめんね? ……その、用は無いんだけど、ダメ、だった?」
結衣ももうお風呂には入り終わっているのか、可愛いパジャマ姿でそう聞いてきた。
正直さっきまでの俺なら用が無いのならやめてくれよ、と思ってしまってたかもだけど、結衣のこのパジャマ姿を見た今なら、全然大丈夫だな。
「全然大丈夫だよ」
「な、なら、良かったよ」
笑顔でそう言うと、結衣は顔を真っ赤にして、そう言ってきた。
正直、結衣の方からしたら男に電話なんてかなり勇気のいる行動だったろうし、間違っても俺が嫌々電話に出た訳では無いと思ってもらうための笑顔だったんだけど、上手くいったみたいだな。
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