間接キス
「優斗、どれにする?」
クレープ屋の目の前に来ると、真奈は俺にそう聞いてきた。
正直俺は真奈が嫌いなものじゃなければなんでもいいと思ってる。
「真奈は何にするの?」
真奈の分も一口貰う口実として、被る訳にはいかないから、質問に質問で返すようで悪いけど、俺はそう聞いた。
「私は……チョコバナナにしようかな」
「なら、俺は無難にイチゴのやつにしようかな。真奈、嫌いじゃないよね?」
「え? うん。嫌いじゃないけど、なんで?」
本当に分かってないのか、真奈は不思議そうに首を傾げながら、そう聞いてきた。
嫌いじゃないならそれでいいな。
「それじゃ、買おうか」
そして、真奈の質問を無視しながら、俺はそう言った。
どうせ直ぐに答えは分かるだろうし、今答える必要は無いと思ったからな。
……まぁ、買おうと言っても、俺、お金もってないから、真奈に借りなきゃなんだけどさ。
「え? う、うん。さっきも言ったけど、優斗、返さなくていいからね」
「……ちゃんと返すよ」
真奈に聞こえないように、小さくそう言った。
ここで真奈に向かって返すと言ったところで、絶対に素直に頷いてくれないだろうし、それはクレープ屋に迷惑だからな。
そう思っている間にも、真奈が俺の分も含めて、クレープを買ってくれた。
「ありがとね、真奈」
「全然いいよ。あっちで食べよ?」
そんな真奈の言葉に頷いて、俺たちは場所を移動した。
「ここで食べよっか」
そうして、適当な場所に真奈と一緒に腰を下ろした。
それと同時に、イチゴのクレープの方を真奈に手渡された。
「ありがと、真奈」
「う、うん」
少し笑顔になりながら、俺は改めてお礼を言った。
「真奈、それ、一口貰っていい? 俺のも一口食べてくれていいからさ」
そして、二人で適当な会話をしながら、クレープを少しだけ食べ進めたところで、俺はそう言った。
「え? えっ? えっ? で、でも、私のクレープはもうどこを食べても、か、間接……になっちゃうよ」
すると、真奈は一瞬困惑した様子を見せたけど、すぐに理解したようで、一気に顔が真っ赤になった。
「? よく分かんないけど、真奈は嫌ってこと? なら、残念だけど諦めるけど……」
「い、嫌なわけじゃない、から。……そ、その、優斗がいいなら、ど、どうぞ」
恐る恐る、といった感じに、真奈は恥ずかしそうに俺の方にクレープを持った腕を伸ばしてれた。
正直俺の方も真奈との間接キスを意識してしまうけど、それを表に出さないようにして、真奈のクレープを一口貰った。
「ん……美味しいね」
「よ、良かった」
「はい、俺のも食べていいよ」
そう言って、今度は俺がクレープを真奈の方に差し出した。
一応、俺のはまだ間接キスにならない場所がある。
真奈がどこを食べようと、どうせ自分のクレープで間接キスをすることになるんだし、気にせずに食べて欲しいけど、どうするんだろうな。
「あっ、う、うん。い、いただきます」
そう思っていると、真奈は緊張したように、そして恥ずかしそうにそう言って、俺の食べかけの方に口をつけた。
恥ずかしさより欲望が勝ったってところかな。
「美味しい?」
「う、うん。美味しい、よ」
これだけ恥ずかしそうにしている真奈の顔を見ると、間接キスをしてくれたことを弄りたい気持ちが出てくるけど、俺は無自覚な振りをしてるんだから、そんなことをする訳にはいかないな。
「なら良かった」
そう言って、俺は自分のクレープに口をつけた。
真奈がついさっき食べた場所だ。
「あっ」
すると、思わずといった感じに漏れ出た真奈のそんな声が聞こえると同時に、真奈は自分のクレープを見つめ始めた。
明らかにその視線は俺が口をつけた場所に向いていた。
俺はそれに気がついていないふりをして、そのままクレープを食べ進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます