お嫁さんに貰う人が羨ましい

「いただきます」


「い、いただきます」

 

 俺が手を合わせながらそう言うと、結衣は慌てながらも緊張した様子で俺に続くようにそう言って手を合わせていた。


「俺は学食だけど、結衣の弁当は誰が作ったの? お母さん?」


「わ、私が作ったんだよ。妹がいるから、妹の分と一緒に」


 ……結衣が中学生なんだから、妹なんて小学生なんじゃないのか? ……いや、でも、小学生で弁当なんていらないだろうし、一年生とかに妹がいるのか?

 それなら、まぁ納得か。


「結衣が作ったの? 凄いね。しかも妹の分までなんて」


「ぜ、全然、普通のことだよ」


 顔を赤らめながら、結衣はそう否定してきた。


「そんなことないでしょ。俺は朝からそんな料理ができる結衣をお嫁さんに貰う人が羨ましいと思うよ」


「べ、別に全部朝に作ったわけじゃないから、そ、そんなことないけど、ほ、ほんとに羨ましいと思う?」


「うん。もちろん思うよ」


 俺の言葉を聞いた結衣は、更に顔を赤くして、俯いてしまった。

 真奈も当然可愛いんだけど、やっぱり結衣は違うベクトルで可愛いよな。

 今日の朝初めて喋った時も思ったけど、こんな地雷系みたいな見た目をして、ここまで恥ずかしがり屋っていうギャップが可愛さを何倍にも引き立ててるともうんだよ。




「ごちそうさま」


 結衣を目の保養にしながらも、学食から持ってきた料理を食べ進めた俺はそう言って手を合わせた。

 結衣に「それ、一口くれない?」みたいなことを言っても良かったんだけど、めちゃくちゃ恥ずかしそうにしてるし、少なくとも今日はいいかなと思って、それは言っていない。

 これ以上恥ずかしがらせて、この時間に昼食が食べ終わらなかったら普通に可哀想だしな。


「ご、ごちそうさま」


 そんなことを考えているうちに、結衣は弁当を食べ終わったみたいで、そんな声が聞こえてきた。

 それと同時に、チャイムが鳴った。

 あ、やっぱり、一口くれない? なんて言わなくて良かったな。

 ただでさえこんなにギリギリだったんだから、そんなことを言ってたら、絶対間に合ってなかったでしょ。


「この食べ終わった食器ってどうしたらいいの?」


 普通は俺が知ってるべきことなんだろうけど、知らないものは知らないんだから、俺はそう聞いた。

 記憶が曖昧でさえなければ、知ってたんだろうなぁ、と思いながら。


「普通は学食で食べるから、学食に返しに行けばいいんだよ。……わ、私が行ってこようか?」


「……いや、気持ちだけ受け取っておくよ。俺が食べたものだしね」


「そ、そっか」


「うん。それでも、ありがとね」


「ぜ、全然いいよ」


 そんなやり取りをしつつ、もうチャイムも鳴ってお昼休みになってるんだから、俺は食器を持って席を立った。


「それじゃあ、持って行ってくるね」


「う、うん。気をつけて」


 そして、結衣に一言だけそう言って、教室を出た。

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