デートの約束

「あれ、真奈? こんなところで、どうしたの?」


 学食で適当な昼食を受け取って、教室に戻っていると、たまたま真奈の姿が見えたから、俺はそう言って声をかけた。


「あっ、優斗。良かった、ちゃんと会えた」


「ん? 俺に何か用事?」


「用事は無いんだけど、一緒に昼食を食べることが出来ないでしょ? だから、少しでも優斗に会いたいと思って、探してたの。……ダメだった?」


「ダメじゃないよ。むしろ嬉しいから、気にしないで」


 まさか真奈は俺が学食の存在を知らなかったとは思っていないから、男だし学食に行っていると思って、ここに当たりをつけて来たってことなんだろうな。

 ……さっき結衣に教えてもらわなかったら、出会えなかったと考えると、そういう意味でも結衣に感謝しないとだな。


「優斗、重いでしょ? 教室まで、私が持つよ」


「え、いや、大丈夫だよ? これくらい」


「遠慮しないで、私を頼って? 男の子なんだから」


 ……前の世界的に男だからこそ、いくら俺でも女の子に荷物を持たせるのは罪悪感があったんだけど、この世界ではそれも普通じゃないのか。

 ……本当はまだ気分的に俺がこのまま持ちたいんだけど、真奈の顔を立てるためにも、真奈に持ってもらうか。


「じゃあ、お願いしようかな」


「う、うん! 任せて!」


 俺に頼られるのが嬉しいのか、真奈は嬉しそうに俺の昼食を持ってくれた。

 ……やっぱりなんか、まだ違和感があるな。

 これもいつか慣れるのかな。


 そうして、適当な雑談に花を咲かせていると、教室にたどり着いた。

 

「ありがとね、真奈」


「う、うん。気にしないでいいよ。優斗の為なんだから、これくらい、当たり前だよ」


 そんなやり取りをしつつ、俺は昼食を真奈から受け取った。

 

「ゆ、優斗、今日の放課後って、暇?」


 そして、教室に戻ろうとしたところで、真奈が緊張した面持ちでそう聞いてきた。

 ……まさか、俺は今、デートに誘われようとしてるのか?


「暇だけど、何かあった?」


 内心でそんなことを思いつつも、俺は全く察しがついていない振りをして、そう聞いた。


「ほ、放課後、私と一緒に近くにできたっていうクレープ屋さんに行かない?」


「うん。もちろんいいよ」

 

「えっ、い、いいの? や、やった。それじゃあ、楽しみにしてるね」


「俺も楽しみにしてるよ」


 そして、真奈は嬉しそうに、自分の教室に戻っていった。

 俺はそんな嬉しそうな真奈の後ろ姿を見て思う。

 デートに誘われたのが嬉しすぎて、咄嗟に頷いちゃったけど、俺、金ないじゃん。

 ……いや、どうせ家は隣同士なんだし、帰ってから返せばいいか。


「お待たせ、結衣」


 そんな結論に至った俺は、自分の席に座りながら、待っていてくれていた結衣にそう言った。


「ぜ、全然待ってないから、大丈夫だよ」


「そう? なら、良かった」


「う、うん」


「それじゃあ、早速一緒に食べよっか」


 机をくっつけながら、俺はそう言った。

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