授業中に

 結衣に教科書を見せて欲しいと頼んで、机をくっつけると、まるでタイミングを見計らっていたかのようにチャイムが鳴った。

 それと同時に、先生が入ってきて、生徒たちに視線を向けられている俺たちに自然と先生の視線も向いてきた。

 結衣は恥ずかしそうにしつつも、みんなに視線を向けられることを居心地悪そうにしている。


「結衣、体調悪い? 大丈夫?」


 それに気がついていながらも、俺は気がついていないふりをして、そう聞いた。


「えっ? う、うん。全然大丈夫だよ」


「そう? ならいいけど」


「そ、それじゃあ、授業を始めるわよ。みんな、ちゃんと前を向きなさい」


 先生もいつまでも俺たちを見ているわけにはいかないと気がついたのか、そう言って授業を始めた。

 良かった。平気な顔をしてたけど、内心では流石に俺も居心地が悪かったしな。

 

「結衣、遠くない? ちゃんと見えてる?」


「だ、大丈夫だよ! わ、私もちゃんと見えてるから」


「んー、でも、これは結衣の教科書だし、結衣が見にくそうなのは申し訳ないから、もうちょっと近づこうよ」


 わざとらしくそう言って、俺は肩と肩が触れ合うくらいの距離になるように椅子を動かした。

 すると、ただでさえ赤かった結衣の顔が更に赤くなった気がしたけど、それは気がついていないことにしよう。


「ほら、これで結衣も見やすくなったでしょ?」


「う、うん。あ、ありがとう。で、でも、ちょっと、近くないかな……?」


「え……あっ、そう、だよね。もしかして、嫌、だった?」


 近づかれるのが嫌で結衣がそう言ってきてることくらい分かってるけど、俺はそう言った。


「ち、違うよ、そんなことない、から。……その、む、むしろ、嬉しい、です」


「そうなの? だったら、これで問題ないね」


「う、うん」


 こんなところも、もし真奈に見られたらさっきみたいな感じになるのかなぁ。

 まぁ、結衣ともそういう関係になっても、真奈を蔑ろにしたりなんかしないってことを証明出来れば真奈も認めてくれるだろうし、大丈夫か。




 そうして授業を受けていると、先生から授業用のプリントが配られた。

 

「結衣、分かる」


「う、うん、分かるよ」


 ……分かるのか。

 俺は正直に言うとちょっと微妙だな。

 中学生の時に習った授業なんてほぼ覚えてないし。


「だったら、ここ、どうやるのか教えてくれない?」


 一応自分でやろうと思えばやれるくらいの問題ではあるけど、俺はここぞとばかりにただでさえ近かった体を結衣に近づけながら、そう聞いた。


「う、うん、も、もちろん、いいよ」


「ありがとう、結衣」


「き、気にしないで」


 そんなこんなで、結衣に勉強を教えて貰っていると、チャイムが鳴った。

 

「あっ」


 その瞬間、チャイムが鳴ったというのを理由に結衣から少し体を離すと、そんな名残惜しそうな声が聞こえてきた。


「どうしたの? 結衣」


「えっ、あっ、な、なんでもないよ」


「そう?」


「う、うん」


「だったら、机も離そうか」


「そう、だね」


 本当は離れたくないという感情が丸わかりだけど、俺はそれにも気が付かないふりをして、そのまま結衣にお礼を言いながら、机を離した。

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