そんなところにも需要があるのか

 そうして授業を受けていると、チャイムが鳴った。

 途中から教室に入ってきたから、なんとなく授業が終わるのが早く感じたな。


「ん〜」


 そんなことを思いながらも、俺はわざとらしくそんな声を上げて、体を伸ばした。


「ゆ、優斗!」


 結衣……だけじゃなく、他の子からの視線も感じて、悦に浸っていると、真奈が教室に入ってきて、慌てた様子で俺の事を呼んできた。


「ん、真奈、どうしたの?」


「は、半袖なんだから、そんなことしたらダメだよ。そ、その、腋が見えちゃうよ」


 真奈は顔を赤くして、恥ずかしそうにそう言ってきた。

 なるほど、この世界だと、そんなところにも需要があるのか。

 確かに、前の世界でも女の子の腋フェチとかいう人もいたもんな。

 そう思いながら結衣の方にチラリと視線を向けると、結衣は恥ずかしそうにしながら、まるで私は見てませんでしたよ、というように目を逸らしてきた。


「うん。ごめんね? 今度からは気をつけるよ」


 そんな結衣の様子にやっぱり可愛いなぁ、と思いつつも、全く気をつけるつもりなんてないけど俺はそう言った。

 

「優斗? 今、何を考えてたの?」


「……ま、真奈も可愛いなぁって思ってたんだよ?」


「えっ、う、うん。あ、ありがとう。ゆ、優斗も世界一かっこいいよ」


 別に嘘は言ってないからいいよな。

 真奈のことも可愛いと思ってるし。


「でも、真奈って、何? 私だけ、でしょ?」


 そう思っていると、真奈はそんなことを言ってきた。

 結衣が隣の席にいるからこそ出てきた咄嗟の言葉だったから、俺はあんな言い方をしてたんだけど、そこをつかれてしまった。

 いつかは真奈にも認めてもらうつもりだけど、流石にさっきのことを考えるとまだ早いと思うから、何か言い訳をしないと。

 

「ま、まぁ、ちょっとした言い間違え、かな。別に気にするようなことでもないでしょ?」


「ほんと? ほんとにただの言い間違え?」


「そ、そうだよ」


 そう言って俺が頷くと、真奈も納得してくれたのか、それ以上は何も追求されなかった。

 良かった。隣の席に結衣がいるから、あんまり強くは言いたくなかったんだよ。


「それよりも、そろそろ教室に戻った方がいいんじゃないか? さっきも遅刻だったし、真奈が怒られないか心配だからさ」


「う、うん。ありがとう、優斗。じゃあ、戻るけど、もうさっきみたいなことはしたらダメだよ?」


「分かってるよ」


 最後に俺を心配するようにそう言ってから、真奈は教室を出ていった。


「ね、ねぇ、さっきの子、優斗くんとは、どういう関係なの?」


 すると、結衣が恐る恐るといった感じにそう聞いてきた。


「幼馴染だよ」


 これに関しては嘘をつく理由も無いから、俺は正直にそう言った。


「そ、そうなんだ……」


「それよりも、次の授業、数学だったよね? 教科書忘れちゃったから、見せてくれない?」


 本当は忘れてなんてないけど、ここで少しでも仲良くなっておくために俺はそう言った。

 

「えっ、う、うん、もちろんいいよ」


 結衣は頷きながら、俺に教科書を渡してきた。


「えっと、じゃあ、私は隣のクラスの子に借りてくるね」


「ちょ、ちょっと待ってよ。え? 普通に一緒に見たら良くない? 机をくっつけてさ」


「えっ……い、いいの?」


「いや、こっちが聞いてるんだけど」


「わ、私はもちろんいいよ! と言うか、私の方からお願いします!」


「なんで結衣の方からお願いしてくるのかはよく分からないけど、うん。だったら、もうくっつけとこうか」


 なんか隣のクラスの子に教科書を借りに行くみたいな話になった時は流石にびっくりしたけど、上手くいってよかった。

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