将来的には

 一限目の授業が終わった瞬間、言っていた通り真奈が教室に入ってきた。

 ……ちゃんと言っていた通りではあるんだけど、早すぎないか? いや、別にいいんだけど。


「優斗、来たよ。大丈夫だった?」


「メッセージでも言ったでしょ。大丈夫だよ」


 どれだけ心配性なんだよ。

 まぁ、心配されることに悪い気はしないんだけどさ。


「それより、ちょっと友達を紹介したいんだけど、いい?」


 将来的には友達でいる気なんてないんだけど、俺はそう言った。


「友、達……? それ、男、だよね?」


「え、いや、普通に女の子だけど……」

 

「……は? どれ?」


 俺の言葉を聞いた真奈は雰囲気を変えて、そう聞いてきた。

 あ、あれ? 一夫多妻制が普通の世界、だよな? 大丈夫、なんだよな?


「誰?」


「え?」


「誰? どいつ?」


 あ、あれ? な、なんか不味い雰囲気じゃないか?

 こんな状況の真奈を結衣に紹介するのは不味いか?


「ねぇ、優斗、早く言って? なんで言ってくれないの? まさかとは思うけど、私に言えないの?」


「い、言えるよ」


 落ち着け、落ち着くんだ。

 俺は無自覚な振りをして生きるって決めただろう。

 大丈夫だ。結衣を真奈に紹介しよう。


「結衣、今、いい?」


「え? う、うん」


 そうして、俺は隣の席の結衣に声をかけた。

 すると、結衣は嬉しそうな感情を隠すことなく、頷いてくれた。……俺と真奈の話が聞こえてたのか、真奈のことをチラチラと気にしながら、だけど。


「そいつ?」


「ま、真奈、俺の友達だから、そんな威圧するような感じじゃなくてもいいだろ?」


 何故かいつもより低い声色でそう言ってきた真奈に向かって、俺はそう言った。

 

「優斗、来て」


 すると、真奈は俺の腕を掴んで、少し強引に教室の外に向かって引っ張ってきた。


「えっ、ちょっ……ご、ごめん、結衣、また後でね」


「う、うん。ぜ、全然大丈夫だよ!」


 なんとなく、そう、本当になんとなくだけど、今、真奈に抵抗するのは不味いと思った俺は、一言結衣にそう言って、真奈に腕を引かれながら後を追った。

 結衣に嫌われないために一言謝れたのは良かったと思うけど、何故か真奈は俺の腕を握っている手の力を強めてきた。

 真奈を蔑ろにしたつもりはなかったんだけど、もしかして、勘違いされたのか?

 もしそうなのだとしたら、直ぐに誤解を解かないと。


「ま、真奈、どこまで行くんだ?」


 俺がそう聞いても、真奈は何も答えてれない。

 そして、かなり人気がないところまで連れてこられたと思うと、急に立ち止まった真奈に俺はいわゆる壁ドンというものをされてしまった。


 ち、近い。

 真奈の綺麗な顔が本当に文字通り、目と鼻の先だ。

 この世界では俺が照れさせる側のはずなのに、顔に熱が溜まっていくのが俺には感じられた。


「優斗、私が……私だけが特別だって言ったよね? あれ、嘘だったの?」


「そ、そんなわけないだろ。真奈はちゃんと特別だよ」


 初めに落とした女の子だし、色々な意味で特別だよ。


「じゃあ、さっきの女は何?」


「い、言っただろ? 友達だって」


「本当? 本当に、それだけ?」


 真奈は綺麗な瞳を俺に向けたまま、そう聞いてきた。

 どうする? ここでそうだと嘘をつくか? ……ダメだな。勇気を出すんだ、俺。

 何度も言うけど、この世界は一夫多妻が普通の世界なんだ。

 ちゃんと言わないでどうする。


「今はそうだけど、将来的には、真奈と同じ俺の特別になって欲しい人かな」


 そう思った俺は、緊張しながらも、堂々とそう言った。


「は?」


 その瞬間、本当に真奈の口から出たのかが想像もできないくらいに低い声が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る