早速のハーレム候補
「おはよー」
真奈を見送って、自分の教室に入るなり、俺はそう言った。
別に声を張って言った訳では無い。
ただ、男がそんなことを言うのが余程ありえない事なのか、ざわざわとしていた教室が一気に静かになり、俺に視線を向けてきた。
二人居た俺以外の男も含めて、だ。
朝の挨拶をしただけでこんなに驚かれるって……記憶が曖昧だから分からないんだけど、元の俺がかなり酷かったからこその驚きなのか、単純に男だから驚かれてるのか、どっちなんだろうな。……一応、俺が久しぶりに学校に来たからって選択肢もあるか。
「お、おはよう、優斗くん」
俺がそんな疑問を心の中で思っていると、ピンク髪のいかにも地雷っぽい感じのメイクをした女の子が恐る恐るといった感じに挨拶をしてきた。
やばい。この子も真奈と同じくらいタイプだ。
明らかに地雷っぽい見た目なのにこんな恐る恐る挨拶をしてくるっていうギャップにやられたのかもしれない。めちゃくちゃ可愛い。
でも、名前が分からん。
「うん。おはよう……えっと、悪いんだけど、名前、聞いていい? ちょっと記憶が色々と曖昧で分からないんだよね」
「も、もちろんいいよ! 私の名前は、
「分かった。よろしくね、結衣」
俺は笑顔で頷いて、早速結衣の名前を呼んだ。
「えっ、う、うん。……冗談のつもりだったのに、ほんとに呼んでくれるんだ」
すると、顔を真っ赤にしながら、そんなことを言ってきた。
「冗談だったの? じゃあ、坂田さんって呼べばいい?」
このまま最後の方の言葉は聞こえなかったことにしても良かったんだけど、こう言っておいた方が無自覚というか、鈍感というか、そんなイメージがつくだろ。多分。
「う、ううん。さっきのままでいいから! 結衣って呼んで」
結衣は慌てた様子でそう言ってきた。
「そう?」
「う、うん」
「じゃあ、ちゃんと結衣って呼ぶね」
そう言いつつ、俺は真奈に教えてもらった自分の席に座った。
すると、結衣がこっちに来ようとしてたんだけど、それを押しのけて、他の女の子たちに俺は囲まれてしまった。
……さっき勇気を出して近づいてきてくれた結衣のおかげなのかな。
……んー、何人も一気に自己紹介されても、俺は聖徳太子じゃないんだから、全く聞き取れないな。
そう思いつつも、取り敢えず俺はニコニコと笑顔を振りまいた。
だって全然何を言っているのかが分からないんだから、こうやって誤魔化すしかないと思ったからだ。
そうしていると、何故か周りに群がって来てくれていた子たちは急に静かになった。
不思議に思った俺が目を向けると、みんな顔を赤くして固まっていた。
そしてそれと同時に、チャイムが鳴った。
「チャイムも鳴ったし、先生が来ちゃうよ? 席、戻らないの?」
助かった。と思いつつも、それを顔に出すことはせずに、俺はそう言って固まっているみんなを席に座らせた。
そして、そんな様子を確認した俺は思った。
結衣、お前隣の席だったのかよ。
まさか隣の席だったとは思っていなかったから、俺は驚いたように結衣に視線を向けていた。
そんな視線に結衣も気がついたみたいで、顔を赤くしながら、可愛らしく小首を傾げてきた。
先生が教室に入ってきているのを確認している俺は、口パクで「なんでもないよ」と言った。
すると、結衣はさらに照れたようにそっぽを向いてしまった。
そんな結衣の様子に呑気にも可愛いなぁ、と思いながら、一応先生の言葉に耳を傾けていると、スマホが振動した。
【優斗、変な虫に絡まれてない? 大丈夫? 今から私がそっちに行こうか?】
こっそりとスマホを確認すると、真奈からのそんなメッセージが着ていた。
……変な虫? まさか真奈以外の女の子のことを言っている……なんてことは無いだろうし、特に絡まれてはないな。
というか、今からそっちに行こうかって、真奈の方もホームルームの最中なんだから、無理に決まってるだろ。
【よく分からないけど、大丈夫だよ】
【ほんと? 無理してない?】
【してないよ】
【……良かった。でも、休み時間になったら絶対行くね】
【……うん。分かったよ】
結衣を紹介するいい機会だとでも思えばいいかな。
──────────
あとがき。
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