真奈が特別
「ぇ? 真奈って名前……じゃなくて、い、いいの? それに、嫌じゃ、ないの?」
さっきとは立場が入れ替わったように、真奈は顔を赤くして、俺から一歩下がっていた。
嫌がってるって感じでは無い。完全に照れているからこその反応だ。
「? さっきも言ったけど、嫌って何が? そんなことより、早く一緒に学校に行こ?」
こんな美少女相手に主導権を握れていることに気分を良くした俺は、また何にも気がついていないふりをしながら、そう言って、さり気なく真奈と手を繋いだ。
「あっ」
「あれ? もしかして、嫌、だった?」
「い、嫌じゃない!」
白い肌を真っ赤にしたまま、真奈は食い気味にそう言ってきた。
やばいな、これ。ちょっと楽しいぞ。……この調子なら、ハーレムを作ることくらい余裕なんじゃないか?
この世界は一夫多妻制みたいだし、常識的に考えるのなら、真奈もハーレムに嫌悪感なんて無いだろうしさ。
「良かった。それじゃあ、行こうか、真奈」
「う、うん」
……行こうか、と言ったはいいものの、学校ってどこだ? 全く学校への道のりが分からないぞ。
「優斗? どうしたの?」
「恥ずかしい話なんだけど、学校ってどっちだっけ」
「え? わ、忘れちゃったの?」
「あ、あはは、そう、なんだよね」
流石に怪しまれるか?
「ごめんね? 頼れるのが真奈しかいなかったから、聞いたんだけど、ダメだった?」
前世の記憶があるからこそ、こんな気持ち悪いことをいうのは羞恥心が凄くて、思わず顔を赤くしてしまいながら、俺はそう言った。
「わ、私、だけ?」
すると、羞恥心で顔が赤くなったおかげなのか、真奈の方も顔を赤らめながら、何か怖い目? をしながら、そう聞いてきた。
なんだ? この感じ。真奈は俺のめちゃくちゃ好みな見た目だ。だから、怖いだなんて思うはずがないのに、なんなんだ?
「うん、そうだよ。僕……俺、真奈くらいしか頼れる女の子が居ないんだよ」
僕、だなんて一人称は流石に鳥肌が走ったから、やめた。
ただでさえちょっとあれなのに、僕は無いわ。
この無自覚な感じは直ぐになれるだろうけど、一人称だけは絶対に慣れる気がしなかった。
「ほ、本当? 本当に、私だけ? 私が、特別?」
「うん。真奈が特別だよ」
「う、うん。わ、私も、優斗は特別だよ」
頬を赤くして、真奈は幸せそうにそう言ってきた。
これ、落ちたか? ハーレム第一号ってやつか?
「優斗は、私だけが特別……えへへ、優斗、学校行こっか。案内するよ」
「うん。よろしくね」
「任せて」
そうして、俺は真奈と手を繋ぎながら、学校に向かって歩いていた。
……めちゃくちゃ視線を感じる。
もしもこれが前世だったのなら、間違いなく真奈に向けられている視線なんだろうけど、今は違う。これは全部、俺に向けられている視線だ。
俺、もしかして、結構なイケメンなのか? 中学生でこんなに見られるなんて、そういうこと、だよな。
この世界の人たちってみんな顔面偏差値がいいから、見られてるだけなのに照れてくるな。
そんなことを思っていると、真奈は俺の腕に抱きついてきて、まだ成長しきっていないほんの小さな胸の膨らみを押し当ててきた。
「……優斗は私だけを特別って言ってくれた。だから、大丈夫」
小声で何かを呟きながら。
「ん? どうしたの? 真奈」
つい顔が熱くなってしまいながらも、俺は内心の動揺を隠して、そう聞いた。
「な、なんでもないけど、い、嫌じゃない?」
くっつかれてるこの状況の話か?
確か、普通の男は女性に話しかけられるだけでも、嫌悪感が凄すぎて、鳥肌が立つ、みたいな感じらしいし、多分そうなんだろうな。
「ん? なんの話?」
「こ、こうやって私が腕に抱きついてる状況、だよ」
「暖かくて、好きだよ?」
「へっ? う、うん。じ、じゃあ、このままでも、いい?」
「もちろん大丈夫だよ」
「……ねぇ、優斗」
「何?」
「こんなこと、他の子にも許してたり、しないよね?」
謎の圧と共に、真奈のそんな言葉が俺の耳の中に入ってきた。
「う、うん。もちろん、真奈だけだよ」
将来的には違うけど、今は真奈だけなのは間違いないから、俺はそう言った。
「そうだよね。……他の子と浮気なんて、絶対許さないからね」
「え? うん。そうだね」
これだけ近くにいるのに、何故か最後の方、真奈がなんて言っているのか聞き取れなかった。
ただ、これだけ近いのに聞き取れなかった、なんて言ったら、まるで俺が真奈の話に集中していなかったみたいになるから、俺は適当ではあるけど、そう言って頷いた。
話の流れ的に、何となく予想はできるしな。
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