2「つれないですね!」
その日は大学もアルバイトも無く、特に予定も入れていなかったため、
しかしスマートフォンの通知音が彼の目を覚まさせる。数回瞬きをしてから気怠げに画面を見ると、メッセージが来ていた。
アカネ『おはようございます!伊武です!元気ですか?』
伊武、すなわち
達巳は数分間、ただボーっと画面を見つめてから、無意識に首を捻った。
送信先を間違えたのだろうか?
と、言うのも、少なくとも達巳から見てこの伊武との関係性はほとんど無いに等しかったからだ。サークルメンバー同士、あるいは知り合いの知り合い。その程度の仲。直接の会話も数えるほどしか無い。一応連絡先は知っていたが、何かメッセージを送るようなことは無いだろうと思っていた。そんな相手から、唐突に連絡が来たわけである。
達巳『送り先間違えてる?』
試しにこのように送信してみると、一分も経たずに返信が来た。
アカネ『間違えてません〜!わたしは谷地たつみさんに送ったんです!』
文章と共に、頬を膨らます女の子のスタンプまで送ってきた。少し間を置いてから、達巳はまた送ってみる。
達巳『それで、用件は?』
アカネ『つれないですね!用がないと連絡とっちゃダメなんですか?』
またもや即答。あまりに早い。この子は四六時中スマホに張り付いているのだろうか。他にやることは無いのか。そのようなことを考えつつ、達巳はしばらく彼女とのやりとりを続けた。
達巳『俺とお前は、そんな気軽に連絡取り合うような間柄じゃないだろ』
アカネ『確かに笑笑 ちょっと距離感バグってましたね〜』
ウインクする女の子のスタンプ。
アカネ『谷地さん、なんで最近サークル来ないんですかー?』
達巳『忙しいんだよ。そんなことが聞きたかったのか?』
アカネ『いえ、私は別にどうでもいいんですけど!』
ばっさりと彼女は言い切った。
アカネ『すぎな先輩が気にしてたので、また空いてたら顔出してあげてくださいよ!先輩が会いたがってますから!』
ここで、一旦会話は途切れた。達巳が返信をしなかったからだ。未読のまま放置してから一時間後、伊武からの追いメッセージが届いた。
アカネ『それで本題なんですけど』
本題があるなら早く言えよ。達巳は通知を見ながら一人思った。
アカネ『ゆず先輩が最近連絡取れなくて、何か知りません?』
再び伊武からのメッセージは止まった。これ以上は、達巳が質問に答えなければ話が続かないのだ。少し考えてから、達巳は返事を送る。
達巳『知らないけど、
アカネ『それを、私達も知りたいんです。谷地さんがサークル来なくなったのと同じ時期に急にいなくなっちゃって、電話もメッセージもスルーですし……』
達巳『それで俺が何か知ってるかと思ったのか』
アカネ『はい。多分、ゆず先輩が失踪前に最後に会ったのが谷地さんなので』
達巳『なるほど。けど悪いな。俺は何も知らない』
アカネ『そうですか……分かりました。ありがとうございます』
それから、もし何か分かったら連絡して欲しいという事と、たまにはサークルに顔出すようにという事を伝えてから、伊武のメッセージは途切れた。
やりとりを終えた達巳は、夕方に差し掛かり薄暗くなった部屋の中で一人考える。
竜胆が現在行方を眩ませている。そして、彼女が最後に会ったのがおそらく俺である、と。
そこまで考えてから、達巳はハッと我に返り、首を振った。これ以上は考える必要はない。竜胆が何をしていようと、俺には関係のない事だ。
達巳は極力竜胆と出会わないようにしていた。ボランティアサークルに顔を出さなくなった理由の一つもそれだ。彼女には、達巳の持つ大きな秘密を知られてしまっている。出来れば今後関わり合いにはなりたくない。何か面倒ごとに巻き込まれないために。
しかし、そう考えるのと同時に、達巳の脳内にはずっとある言葉が引っかかったままであった。それは最後に竜胆に会った時に、別れ際に彼女が言った言葉。
「谷地は、あたしが探し求めていたぴったりの人間やて。時が来たら、あたしを……殺してくれる人」
少しの間何も言わず、一人で考え込んでいたが、やがておもむろにスマホを手に取ると、沢渡へメッセージを送った。
達巳『明日、会えるか?竜胆のことでちょっと話したいんだけど……』
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