18「俺にあんたを救う許可をくれ‼︎」
その日は午後の講義が休講だったので、午前の授業を終えた達巳は国立国会図書館に向かった。情報を集めるためだ。ネットでの調べ物ではどうしても限界があった。より細かい情報、具体的には、事件当時の報道記事が欲しかった。
関係者の人権を蔑ろにするような、プライベートを踏み躙るような内容の記事。見ていて気分の良いものでは無いが、達巳の求めるそれは、確かにそこにあった。
「この写真……」
——やはりな
確証を得た達巳は、すっかり暗くなった帰り道を歩きながら、白眉に言う。
「この誹謗中傷の問題を解決するには、川澄さん自身を説得する必要がある。彼女を説き伏せない限りこの事件は解決しないんだ」
それが、これまで分かっていることを踏まえて達巳が出した結論であった。
——私には、いまいち意味の分からない話だがね
白眉が不満をこぼす。
——事件の被害者を救済する上で、被害者自身がその障害となっているとは。理解に苦しむ。不条理だ
「人ってのは不条理なもんなんだよ。多分。表では大丈夫ってふりをしてても、自分でもそう思ってても、大丈夫じゃなかったりする。理屈通りにはいかないんだ」
——好意を持つ相手に対して憎まれ口を叩いてしまったり、というのも不条理だものな
達巳は苦笑いをした。
「正直、今でも俺には分からない。俺のやってることが本当に川澄さんのためになることなのか。もしかしたら、ただの自己満足で、エゴに過ぎないんじゃないのか」
——それでも止める気は無いのだろう
達巳は頷いた。善か偽善か、それは分からない。それでも。
それでも止まれない。賽を投げてしまったからには。
翌日、達巳は吉祥寺の駅前で川澄と待ち合わせた。最初の合コンの時に利用した居酒屋の最寄り駅である。それぞれの家から同距離の集合場所となると、必然的にそこになるのだ。
「お、早いね!結構待った?」
「いえ、俺も今来たばかりなんで」
そんなやりとりをしながら、二人は駅からすぐの公園へと歩く。
「それにしても、まさかやっちんくんがデートに誘ってくれるとはね〜」
冗談めかして川澄が言う。達巳は訂正した。
「そんなつもりじゃ無いですよ」
「そうなの?私はそういうつもりで来たんだけどな〜」
いつものように、からかうような、楽しげな様子で彼女は言う。その姿を横目に見つつ、達巳の胸は小さく痛む。これから自分は、その太陽のような笑顔を曇らせるかもしれないのだ。しかし今更尻込みはしない。
とはいえ、どのように切り出したものか。一人考えて黙り込む達巳に、川澄が囁いた。
「……いつでも良いよ」
「え?」
川澄を見る。彼女はまっすぐに達巳を見ている。
「キミは優しいから、ずっとあのことについて考えてくれてたんでしょ?」
達巳はなんと答えたものか分からずに、俯いたまま、ただ歩くことしかできなかった。
「サークルの中で、ちょっと噂になってたよ。キミが何か私の周りのことを探ってるって。私の好きなタイプとか……彼氏の有無とかをコッソリ調べてる、なんてことなら良いなって思ったけど……そうじゃ無いよね?」
顔が熱くなるのを感じ、達巳は頬に片手を当てた。情報を集めるためにサークルのメンバーに聞き込みをしていたのが、逆に周囲から不自然に見えていたらしい。考えてみれば当然のことである。自分には探偵の才能が無いことを改めて痛感した。……村上や沢渡ならもっと上手く出来るのだろうか。
川澄はさらに続ける。達巳にだけ聞こえる小声で、畳みかけるように言う。
「キミがどこまで気づいちゃったのかはわからないけど……そのこと、ここだけの秘密にしてもらえないかな?もちろん、タダでとは言わない。私が出来ることだったら、キミのためになんでもするよ。学校の課題とか、私が出来る範囲なら代筆しても良いし、条件の良いバイトとか紹介も出来る。部屋の掃除して欲しければするし、ご飯を作って欲しければ、なんでも作る。それから、靴を舐めろって言われたら舐めるし……」
「待ってください、待ってください。あんたの中の俺のイメージどうなってるんですか」
慌てて静止する。ここで止めなければ、もっとえげつない条件を出してきそうだ。平然と自身を対価として差し出してしまいそうな危うさが、川澄にはあった。
気がつくと、二人は公園の入り口に着いていた。足を進めて園内に入る。サークルで清掃活動をした池沿いの道を歩きつつ、達巳は言う。
「こそこそと探って回ってたのは、すみませんでした。確かに、俺が調べてたのは例のDMのことです」
「やっぱりそうなんだ」
「はい……それで、『どこまで気づいちゃった』とのことですが、その、俺が知ったのは……川澄さんのお父さんのことです」
それを聞いて、川澄は立ち止まった。一瞬、真顔になった後、悲しげな笑みを口元に湛えて、またゆっくりと歩き出す。
「そう……知られちゃったか。キミはすごいね。まるで探偵だね。じゃあ、私の罪も、罰も、全部知られちゃったのかな。やっちんくんは、私を、軽蔑するかな?」
達巳が何か言う前に、川澄はさらに独り言を続けた。
「いや、やっちんくんは優しいから、私の事を悪くないって言ってくれるのかな!でも、それは、違う。違うんだよ」
「川澄さん!」
手を握られて、川澄は我に返ったように達巳を見た。
「震えてます。少し落ち着いてください。俺、なんか飲み物買ってきます。座っててください」
「いや、私が買ってくるよ。やっちんくんが座って待ってて」
そう言って笑う川澄を、真剣な表情で見つめながら、達巳は頑なに言う。
「川澄さんは座っててください。……おそらく、今のあなたは、強いストレスに襲われてる。あなた自身も気づかないうちに、心がダメージを受けてる。すみません、俺のせいです。もっとゆっくりとオブラートに包んで話すべきだった……」
川澄には、達巳が何を言ってるのかよく分からない。確かに、先ほど達巳の口から出た話題は彼女にとってショッキングな内容ではあった。しかし、そこまで労られるほど狼狽している自覚は無いのだ。
「川澄さん、今、顔真っ青ですよ」
言われて、ハッとした。そういえば心なしか寒気を感じる。川澄は達巳に言われるがままベンチに腰掛け、彼の買ってきたお茶を受け取り、ゆっくりと飲んだ。
少しの間、二人は何も言わずにただ座っていた。やがて、川澄が日の暑さを感じはじめた頃に、達巳はおずおずと話を切り出した。
「さっき……『私の罪』って言ってましたよね。俺にはそれが分からない。……いや、なんのことを言っているのかは分かるんです。でも、理解できない。どう考えても、俺から言わせてもらうと、あなたに罪はない」
「やっちんくんは、やっぱりそう言ってくれるよね。でも、違うんだよ」
そう言って、彼女は黙ってしまった。達巳はその顔色を注意深く伺いながら、一度深く息を吐いた後、意を決して、言った。
「あなたの父親は、『緑川宏輝』ですね」
『緑川宏輝』。かつて、新聞の大見出しを飾った男の名前。天才子役と呼ばれた狭山あずさを殺害し、さらに二人の少女への傷害、殺害未遂の現行犯として逮捕された男の名前だ。
少女を誘拐した後に、何か薬物のようなもので意識を失った状態で、車と共に発見された。その逮捕までの経緯の不可解な点の多さからも当時注目されて、一般的な報道のみならず、都市伝説を扱うような怪しげな雑誌やサイトなどでも大いに話題となっていた。
白髪の謎の少年が関わっているらしい、と言う、達巳の背筋が凍るような憶測も飛び交っていた。
「『緑川宏輝の娘である』と言うことが、あなたの言う『罪』なんですね」
川澄は何も言わなかった。しかし否定もしなかった。彼女の顔色がまた悪くなるのを見て、達巳は話を中断した。
またしばらく無言の時間が過ぎた後、川澄はぽつり、ぽつりと話し始めた。
「……『原罪』って言葉、知ってる……?」
「え?えっと……」
達巳は戸惑いの声を上げた。知らないことも無いが、明確にどのような意味か説明はできない。
「まあ、色々な意味があるとは思うけど……私が知っているのは、アダムとイブの罪。蛇に唆されたイブが善悪の知識の実を食べてしまい、アダムもそれを食べた。人の始祖が犯した最初の罪で……子孫である私達全員が持つという罪」
そこまで話して、川澄は自嘲するように笑う。
「なんて、気取った説明をしてみたけどさ、要は、生まれながらに持つ罪ってことだよね。私はそう捉えてる」
唐突に思えたその話が何を意味しているのか、達巳は理解した。生まれながらに持つ罪。体の中を流れる血と共に受け継がれる罪。親から子へと引き継がれる罪。
『犯罪者の親を持つ』ということそのものが、川澄の言う、彼女の罪なのだ。
「なんでそんな考えに至ったのか、俺には想像できないくらい複雑な経緯があったのかとは、思います。軽々しく否定はしたく無い。けど、でもやっぱりそんなのおかしいです。川澄さんの父親が犯罪者だったとして、川澄さんまで罪を背負うのは間違ってる。罰を受けるのは当人だけで良いはずだ」
「その当人がいなくなったら?」
川澄の言葉に、達巳は言葉を失った。
「罪を犯した本人が死んでしまったら、被害者は、その遺族は、どうすれば良いの?どこにその怒りや苦しみを向ければ良いの?」
かつてあらゆるメディアが取り上げた、狭山あずさ殺害事件。世間が注目していたその裁判の期間内、緑川宏輝は自殺した。行き場を失った世間の怒りは、残された緑川の家族へと向けられた。
達巳が見つけた当時の記事、特にモラルや人権を無視した悪趣味な雑誌の記事には、緑川の家族の写真が載っていた。明らかに隠し撮りと思われる画角で写る、川澄に似た面影を持つ母親と、小さな川澄の後ろ姿。
父親の遺した大きな罪。恨みや怒り、軽蔑や嫌悪、同情や、嘲笑。ありとあらゆる感情を向けられた母子の苦痛たるや、筆舌に尽くし難いものだっただろう。
「でも、間違ってない。被害者や、世間の皆のその感情は間違ってない。私の父親は、決して許されないことをした。そしてそれを償うことなく死んじゃった。借金と同じだよ。当人がいなくなった後の取り立ては……その家族の元に来る。娘である私には、父に向けられた怒りを受け止める責任があるんだよ」
当時小学生だった川澄が、いかなる経験を通ってそんな考えに至ったのか、それを考えると胸が締め付けられるようだった。
「……辛かった……ですよね。俺なんかには想像もできないくらい、苦しかったはずだ」
「まあ……さすがに、その時はね。でも、それも、私の役割だから」
川澄は、取り繕うような笑顔を浮かべた。
「それに、中学に上がる時に引っ越して、苗字もお母さんの方になって、少しはマシにはなったかな。……たまに顔を見て気づいちゃう人とかもいたけどさ」
小学校で作った人間関係は全て失った。新しい土地の中学校でゼロからまた始めようとしても、しばらくは無理だった。仲良くなれたとしても、友達になれたとしても、自分の秘密を知られたら、また全て失うかもしれない。周りの人間が全て信頼できない。いつ自分の敵に変わるか分からない、とても恐ろしいものに感じてしまう。
そんな彼女が見つけた解決策が、『人助け』という手段であった。
「困ってる人を助けてあげると、『ありがとう』って言ってくれる。笑顔を向けてくれる。何回も繰り返すと、私っていう人間を好きになってくれる。仲良くしてくれる」
『人助け』という明確な行為の対価で得られる信頼は、川澄にとって安心できるものだった。理由のある好意。地道な積み重ねで紡がれた強固な関係性。
「……がっかりでしょ。キミに対して、私はあんなに綺麗事ばっか言ってたのにさ。私が人助けをするのは……私自身が安心するため。私には価値があるんだって、生きていて良いんだって、思うために、私は人を助けるんだ」
達巳は何も言わず、何も言えずに聞いていた。何も言えないが、ただ、ゆっくりと首を横に振った。それを見て川澄はまた悲しげに笑い、ぽつりと呟いた。
「『メサイアコンプレックス』って言うんだって」
メサイアコンプレックス。救世主妄想。
自分の存在意義を見出すために、他者に手を差し伸べる。
「……サークルのSNSに送られてきた誹謗中傷を甘んじて受け入れてるのも、それが理由ですか」
「それが私の役割だから」
そう呟いた川澄は、達巳の悲痛な表情に気づいて、また笑った。いつもの太陽のような笑顔。沈んでいる人を励まし、鼓舞するような笑顔を向けて。
「そんな顔しないで!私は大丈夫だから。これは、私にしかできないことなんだ。そう考えると、辛いとかは無いんだよ」
「本当ですか?」
「本当だよ。私のことは、何も心配しないで良いんだよ。私自身は結局、ただのエゴイスト。これが、私の全て。キミに心配してもらう資格なんてないんだよ」
「……エゴイスト?」
それは、悲しいことに、川澄の心からの言葉であった。達巳は泣きたい気持ちであった。しかし彼は涙を流せない。目頭が熱くなっても乾いた目からは何も流れない。ただ頭痛がするだけだった。
「ボランティアをするのはどんな理由でも良いんですよね?エントリーシートに書くためでも、学校の単位のためでも、モテるためでも、なんとなくでも……自分の存在意義のためでも、良いんですよね?それで誰かのためになるのなら」
「それは、私が私を騙すための言葉だよ」
「違う‼︎」
達巳は思わず、怒号にも似た声を上げる。その大きさに、川澄はびくりと体を震わせた。
「やっちんくん……?」
「その言葉は、あなたが俺達にくれた言葉だ。俺はそれを受け取った。悔しいけど、納得してしまったから受け取ったんだ。その時点で、それはもう俺の言葉でもあります。それは今、俺からあなたに向けた言葉だ。あなたは、『ただのエゴイスト』なんかじゃない」
川澄は何も言わず、ただ達巳を見ていた。
「たとえどんな理由があろうと、あなたがこれまでしてきた人助けは嘘じゃない。竜胆が言っていました。川澄さんは皆の太陽だって」
「ゆずが……?」
達巳は力強く頷き、続ける。
「俺も同じ意見です。川澄さんが元気ないと、皆悲しみます。あなたには、いつも心から笑顔でいてほしい。心から楽しくて、幸せであってほしい。こちらの我儘なのかもしれないけど」
「……そうだね」
川澄はそう言いつつも笑った。
「でも、ありがとう。その言葉は嬉しいかも。でも、心配はいらないよ。私は大丈夫」
「これから先も、ずっと、そのDMが送られてきても、ですか」
達巳の問いに頷いて、川澄は言う。
「父のせいで、不快な気持ちになって、その気持ちをぶつけてきてる。この人も被害者なんだよ」
「でも今のままじゃ、あなたが傷つくばかりだ」
「だから、大丈夫って言ってるでしょ」
千日手であった。しばらく二人は何も言わず、顔も合わせることなく、横並びに座っていた。川澄がちびちびと飲んでいた小さなペットボトルの茶が空になった頃、唐突に、達巳が言う。
「……川澄さんは、人が自ら命を絶つところを見たことありますか?」
「え?見たこと、は無い……」
「俺はあります」
川澄は息を呑んで、達巳の顔を見た。
「そいつの口癖、『大丈夫』だったんですよ。その時から俺は、他人の『大丈夫』も自分自身の『大丈夫』さえも信じられない」
話を聞きながら、川澄は、心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた。
「川澄さんは、自分の『大丈夫』を信じられますか?明日の、明後日の、その先ずっと、未来の自分の『大丈夫』を信じられますか?」
信じられる、とは、口が裂けても言えなかった。未来の自分がどうなっているかなど、何も分からない。毎晩十時に、例のDMが送られてくる時に感じる胸の痛み、今は耐えられるその痛みが、この先もずっと積み重なった時、どうなるかなんて分からなかった。
小さな恐怖心が彼女の中に芽生えた。
その様子を横目で見てから、達巳はまた口を開く。
「あなたが誹謗中傷の事を誰にも話さず秘密にしていたのは、自身の父親のことを皆に知られたく無かったから……だけじゃない。犯人を庇っていたから。犯人の正体や、してきた事がサークルの皆にバレて、皆から非難されるのを避けるためだ。……でも、あなたは一つ勘違いをしてると思う」
「勘違い?」
「誹謗中傷の犯人は、半崎さんじゃ無いんです」
「え⁈」
川澄の口から声が漏れる。その真実もさることながら、何より自分が半崎を誹謗中傷の送り主だと思い込んでいた事を達巳に見抜かれていたという事実に驚いたのだ。
達巳はさらに続ける。
「……やっぱり半崎さんが犯人だと思ってたんですね。でもあなたは、半崎さんのことが好きだった。友人としてか……それ以上の感情かは分からないけど、大切だった。だから例え彼が自分を攻撃していると知っていても、守りたかった。……サークルのSNSの管理者を知っていて、なおかつ緑川宏輝の罪で川澄さんに恨みを向ける可能性のある人物、と考えたら半崎さんしかいないですもんね。俺も同じこと考えました。でも、半崎さんじゃない。あの人にはアリバイがありますから」
「でも、じゃあ、一体誰が……」
そう呟いて、川澄は俯いた。自分が真犯人を知りたがっているという事に戸惑っているのだ。そんな彼女の様子をちらりと見てから、達巳は問いに答えた。
「茶野……って名前に聞き覚えありますよね」
「えっ……なんでやっちんくんが茶野くんのこと知って……?」
「その様子だとやっぱり、半崎さんから聞いてないんですね。狭山あずさの本名のこと」
「ほ、本名……?」
困惑を隠せない川澄に向けて、さらに達巳は言葉を続ける。
「たとえ犯人が半崎さんで無かったとしても、あなたはその犯人を庇おうとするでしょう。犯人の送る暴言を、自分は受け止める義務があるとか、そういう役割だから、とか言って。でも、それは違う。自分の役割を間違えないでほしい。川澄すぎなの役割は、ボランティアサークルの代表として皆をまとめて、これから先もたくさん活動をして、多くの人の助けになって、皆を照らす太陽みたいな存在でいることだ。あなたは死んではいけないんです」
「死ぬだなんて、そんな……」
「絶対無いって言いきれますか?」
畳み掛けるように達巳の言葉は溢れ出す。
「大丈夫だって言いきれますか?悪いですけど、あなたの『大丈夫』を俺は信じない。例え万が一にでもあなたの身に何かがあれば、たくさんの人が辛い思いをする。ただ一言、俺に頼むと言ってくれれば良いんです。誹謗中傷を止めるように犯人を説得してほしい、と俺に頼んでほしい。犯人がサークルの皆から責められるような形にはしません。今回の件は、俺は誰にも言いません。お願いだから、ただ一言、俺に助けを求めて頂きたいんです」
「わ、私は、キミに助けてもらう資格なんか……」
「資格じゃ無いそれは義務だ。あなたには助けてもらう義務があるし、俺にはあなたを助ける権利がある。俺に……俺にあんたを救う許可をくれ‼︎」
川澄の瞳が潤み、一筋の涙が溢れた。それから堰を切ったように大粒の涙が次々と流れ出る。
なにか、ずっと閉じ込めていた感情を吐き出すように、川澄は声を上げて泣いた。泣きながら、ポカポカと、達巳の肩を殴る。
「なんで、なんで!なんでキミは……私の気持ちを揺さぶるのかな⁈ずっと隠してきたのに、誰にも見せなかったのに、知られなかったのに、なんでキミは!無理矢理上がり込んで、引っ張り出して、私の、身勝手で、自己中な、私の嫌な部分をさ……!」
「やっと聞けましたね。あなたの本音。お酒なんて無くても」
ニヤリと笑って達巳が言う。それは合コンの際の意思返しであった。
「馬鹿‼︎」
それから、川澄の涙はしばらく続いた。十年を超える年月を経て溜まった毒を洗い流すかのように。それは続いた。
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