第16話 レアアイテムだと思ったらただの装飾品だった件


 予定通りの日程でいい、と言われているとはいえ、世界で唯一創世神と接することができる祭司長様をお待たせするのもどうかという話になり、戻る日程を早める前提で進めることにした。

 最悪、俺とルルだけ先行して帰るのも手だな。


 執務室で仕事しつつ、戻る準備を指示していたときだった。


「お坊ちゃま、お待ちくださいお坊ちゃま!」

「ぱぱ!ぱぱ!」


 執務室に隣接してる応接室が騒がしくなった。

 そういえば、今日はレナたちがいないからギルがいつ来てもいいように、廊下から応接室に入るドアを開けっ放しにしていたんだった。

 まあ急ぎもないし、と執務室のドアを開ける。


「どうした?ギル」

「きれー!」


 ギルが手持ちのものを見せようと両手で持ち上げてきたので、それに合わせるようにしゃがんだ。

 目の前に出された、キラキラと輝くそれにでかい声を上げそうになって、ぐっと堪える。


「あー、あー……」

「も、申し訳ありません旦那様!一瞬目を話した隙に、いつの間にかお持ちになられていまして」

「地下に入ったのか?」

「いいえ、そちらにはお坊ちゃまは足を運んでおりません。本日は庭を散歩しておりました」


 マジで?じゃあなんで、これがギルが持ってるんだよ。

 地下室に置いてあった、東ティレルの洞窟から持って帰らせた、トゥルーエンドに必須なアイテムのひとつである「亡国のティアラ」が。


 見た目は女性王族が装着するような、宝石がはめ込まれたティアラだ。なぜダンジョンの奥深くにこんなものが、と思うが考えちゃいけない。そもそもなんでダンジョンに宝箱が存在するのか、という問題に直面するからだ。未だそれは解明されていない謎だ。

 一説でははるか昔にダンジョンに挑んだ冒険者などが身につけていたものをモンスターが拾って箱に入れておいた、などがある。だが東ティレルの洞窟は比較的最近見つかったダンジョンだ。一般開放後に入った冒険者とかが持ってたとか?最下層の攻略が比較的最近だぞ?んな馬鹿な。

 いやまあ、アイテム名に「亡国」とあるから、遺物扱いなのかも。千年以上前の遺跡とか世界のあちこちにあるし、この国が建国される前に隠されたとかそういうもんなのかもな。

 千年以上前にも様々な国が乱立しては消えて、っていう繰り返しがあって今がある。たしか随分前に亡くなったエインスボルト王国の王配が、失われた言語も含めた世界中の言語の辞書を作っていたはずだ。王宮図書館にあるものを一度見せてもらったことがあったが、あそこまで分かりやすく書くのは才能だなと思ったのは覚えてる。


 閑話休題。

 東ティレルの洞窟で見つかる「亡国のティアラ」はただのアイテムではなくれっきとしたレアアイテムである。

 原作ゲーム上での効果は魔力保有量の大幅増加。つまり、これをつけてるだけで魔力保有量が爆上がりするというチートアイテムだ。

 なぜこのアイテムがトゥルーエンドに必須なのかというと、トゥルーエンド「大聖女」のエンディングに起因する。詳しくは本邸にある資料を見直す必要があるが、この前ちらっと見たときに覚えたエンディングのくだりはこんな感じだったと思う。


  ―― モニカはその膨大な魔力をもって、各地にある結界石を王都から管理できるようになりました。モニカの魔力に影響してか、地上を闊歩していたモンスターたちもダンジョンに潜るようになり、人々を襲うことがなくなりました。ベルナールト王国は世界ではじめて、モンスターに襲われない幸せな国になったのです。こうして、国すべての結界石を管理するモニカは「大聖女」の称号を得て、頼もしい仲間たちと支え合い、末永く国を守っていったのでした。


 うん。ツッコミどころ満載なのは俺も思う。ゲームクリアしたときに虚無になった。SNSでも結構叩かれてたと思うこのエンディング。


 まずもってモニカヒロインに全部押し付けてんじゃねぇよ、ってのと、お前それモニカヒロインが老衰とかで死んだらどうすんだよって話。

 いやこのティアラがあれば大丈夫らしいんだが。ティアラを見つけたときに、資料にまとめた設定資料記載のティアラの情報を読み返したら「本編には出せなかったが、聖女に選ばれる者が身につければ国ひとつは守れる。モニカは周辺国も守れるぐらい出せる設定がある」らしいから。それを前世で見たときは「ふーん」って思った程度だったけど、今はそう思えない。

 魔道具は魔道具に組み込まれた魔石が持つ魔力によって効果を発揮する。魔法もそうだ。魔力を使うことで効力を発動させる。

 ―― じゃあ、ティアラに格納されてる魔石の魔力が切れたら?

 この魔石にどのぐらいの魔力が込められているのかはわからない。だが、それが切れた途端どうなるかは想像がつくし、いつまで続くか分からない。

 一般的な魔道具は魔石に魔力を補充するが、これだけの効力を持つ魔道具だ。一度空になった魔石に補充するとなると、どれほどの魔力が必要になるのかと思うとゾッとする。


 ただまあ、現実にあるティアラはただのティアラだ。宝石も魔石ではなくただの宝石で、魔道具でもなんでもない、呪いの品物でもないとは信のおける魔具士に調べさせて判明している。鑑定結果を聞いたときは拍子抜けした。

 じゃあなんでただのティアラがダンジョンの奥深くにあったのか。デザインもゲームのと同じっぽいんだけどなぁ。


 ダンジョンで拾ったアイテムは基本、拾得者に所有権が発生する。

 拾った者が売ろうが、破壊しようが、使用しようがどう扱おうか自由だ。今回、俺は拾得者と取引して購入した形になっている。ルルに贈る名目で。

 ……ちょっと、いやだいぶ、原作ゲームと同じ機能があったらルルの身を守るのにいいかなって思って買った。あとヒロインにトゥルーエンド選ばせない打算もあった。それらはもう、目的を果たせなくなったけどまあ、綺麗だからいいかなって装飾品だと分かっても手元に置いてた。

 明日、ルルたちが戻ってきたら渡そうと思ってたんだ。


「ぱぱー、みてみて!」


 きゃっきゃとティアラを被って見せるギル。天使かな。

 まあでも、それは玩具じゃないから返してもらおう。

 っていうか本当になんでギルのところにあったんだ、これ。盗み出された?一応ハンスになぜ庭にあったのか調べさせるか。


「ギル、それはお父様の大事なものなんだ。返してもらえるか?」

「ぱぱの?」

「うん」

「はい!」


 素直で可愛いかな。にっこり微笑んで自分の頭からポンと俺の頭にティアラを乗せた。一瞬、チリっと目が痛くなったが目を瞬かせればなんともなく。髪の毛でも目に入ったか。

 それよりもおいハンスお前だろ、ぷッと後ろで吹き出したの。ギル付きの使用人が両手で口を塞いでプルプルしてるのなんなんだ。


「ぱぱ、おひめさま!」

「……はは」


 ギルの笑顔は天使だけど、勘弁してくれ。

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