第5話 木曜23時30分放送『新アイドル発見!』
来週ついにテレビに出ることになってしまった。出る番組は木曜23時30分放送の「新アイドル発見!」。5人のアイドルデビュー候補生が出演し、審査員の審査によって一位が決められる内容のものだった。
見事一位に輝けば、日曜19時のゴールデンタイムに放送される「アイドル誕生!」に出演することができる。この番組での活躍を見せれば、晴れてアイドルとしての一歩目のデビューが出来るらしい。
なので「新アイドル発見!」で負ける訳にはいかないのであった。
かといって今までの練習を変更する必要性はないので、普段通りボイトレに励んで本番に臨んだ。
--------本番当日----------
プシューーーーーーーーーーーーー、シューーーーーーーーーーシュ、シューー
髪を念入りにピンク色に染めた。
「そろそろヘアスプレーの在庫が切れるなぁ、何か対策考えないと...」
自宅を出るとすぐそばに黒い自動車が止まっていた。キュッキュッと音を立てながら、ハンドル式開閉の窓が下がった。すると、三上さんの顔が窓からにょきっと飛び出てきた。
「おはよー、さぁ乗っちゃって」
助手席に乗りテレビ局に向かった。搬入口から入り、楽屋に直行した。既に番組出演者のアイドル候補生の子は、私以外みんな揃っていた。
殺伐した感じでもなく、和気あいあいとした感じでもない空気感が部屋中に漂っていた。視線を物凄く感じたが、あまり共演者に目を合わせないようにして、準備を進めた。
今回の衣装は、私の髪色に揃えた薄い桃色のワンピースであった。また、喉の渇きに敏感になり水をずっと飲んで本番開始を待っていた。
部屋に番組ADらしき人が入り、番組セット裏に案内された。番組はすぐ開始し、司会の男の元気な声が響きわたる。私の出番は5番目、最後であった。次々と共演者がセットに移動していくのを、頭真っ白になりながら見ていた。
遂に私の出番が来た。ADに案内されステージに入る。目のまえには、照明やマイク、カメラなど様々な機器と大人達が多くいた。
「きみ~その髪すごいね!!どうやったの??」
「花の染料から作って髪につけました」
この前聞かれて困った質問だったので、あらかじめ答えを用意してきた。その後、他愛もない会話をし、音楽が鳴り始める。歌う時がきた。
三上さんに用意された楽曲は、ピュアな女の子の恋愛模様を描いた内容で、いかにも昭和的な固定概念という歌詞であった。しかし、テンポは若干低く歌いやすいので、ありがたい。
歌唱が終わり、出演者が横一列に並ばされた。最後に審査員が番号の札を上げるシステムである。審査員は5人いるので、最低3人から選ばれれば大丈夫。
約1か月間の三上さんとのボイトレ、二年の地下アイドルでの下積み。そして、ピンク髪というビジュ爆発全開。緊張はしたものの、私は勝てる気満々であった。
司会の掛け声で一斉に札が上がる。
「 ① 、 ⑤ 、 ⑤ 、 ② 、 ① 」
少しの沈黙の後、司会の声が響き渡る。
「なんと、1番と5番の2人が同率1位になりましたーー!!」
審査員の解説によれば、歌唱力は圧倒的に1番の人だったらしい。私の場合、歌は及第点でビジュの部分で加点されたらしい。
目が合うかなと思い、恐る恐る1番の方を横目で見た。しかし、彼女は自身の目から零れる涙を、手で拭くことで精一杯の様子だった。
なんせ、彼女は3回目の番組挑戦だったらしい。ようやく、これまでの努力が報われ、大きく夢に一歩近づけたのだ。
私はなんだか自分が情けなく感じた。
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