第3話 令和の昭和アイドル誕生!?
「えっと...まずは順番を守ってください」
横を見ると椅子に座っている人達が何人か見えた。やってしまったと感じた。頭をペコペコ下げつつ一番後ろの席に座って順番を待った。
「では次の方お願いします」
「はい。20歳、宮野雫です。えっと、やる気は誰よりもあります」
審査員の”あぁさっきの変な奴か”という目線を感じる。これオーディションとして成り立っているのか?と感じるレベルの質問に答えて、あっさりと終わってしまった。合格者は2週間以内に手紙が来るとのことだった。
オーディション会場から外に出る。
「てか歌もダンスも披露しなかったけど大丈夫なの?」
疑問ばかりのこるオーディションであったが、終わって安堵していた。まだ、合格かも分かっていないのに、達成感を感じてしまっていた。昔からの悪い癖だ。
合格発表が届く2週間の間は、時代に合った機器を揃えていた。ラジオ、テレビ、ダイヤル式電話など。近所に見つけた中古の家電屋さんで、店主に色恋まがいなことをして、無料で手にしたモノたちだ。
-------2週間後-------
合格の手紙は来なかった。それはそうだ。正直自分でも分かりきっていた。諦めてどこか肉体労働につくしかないと覚悟した。
手持ちの残金残り5万円。ATMなんかこの時代にないから、口座からお金を下ろすことはできないし、そもそも紙幣の柄が令和のやつだから使うことすらできない。家賃、水道代、電気代だってどうなっているのかも分からない。
ここ数日は隣人からのご飯のおすそ分けと小銭を使ってコンビニでご飯を買っていた。小銭はほぼ見分けがつかないので、不安がられることなく使えた。
今後どうしようと考えながら、部屋を徘徊してると、何か硬いものに躓いた。
「痛っ、誰だよ~こんなところにスプレー缶置いたのは」
勿論、置いたのは私。
学生時代に友達とノリで買ったヘアスプレーだった。思い出の余韻に浸ろうとした瞬間、閃いた。
「これだ、これ使ってどこかオーディション受けよう」
今の時代の日本人は黒髪で当たり前。ヘアスプレーした髪でいけば絶対に目立つ。しかも、このスプレーの色はピンクだ。
一度やっているので、ここからオーディションまでの順序はスムーズにいけた。
----オーディション当日----
街中で目立つのが怖かったので、会場のトイレで髪を染めた。何度かヘアスプレーは使ったことがあったので、特に問題はなく使えた。
「では、次の方どうぞ」
「はい!20歳、宮野雫です!どうぞよろしくお願いいたします」
目が点となって唖然とする審査員。それもそのはず、ピンク髪なんて日本はおろか世界でも珍しい。
「き、きみ。その髪はいったい....」
「ある日突然起きたらこうなっていました!」
「天然ちゃんなのかな?」
少し苦笑いする審査員達。そして、歌の審査で「上右を向いて歩こう」を歌った。昔の歌を全然知らなかった私は、この時、作者の坂本十を合掌して拝みたい気分だった。
「いいね。きみ合格。」
「歌唱力はまだまだ足りない部分があるけど、そのインパクトある髪ならきっといけるよ」
「あ、ありがとうございます」
こうして、昭和時代に異端のピンク髪アイドルが誕生したのだった。
"私の昭和アイドルの歴史がスタートした"
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