第2話 私の作戦
家への帰り道の記憶はあまり覚えていない。
「あ~、私は昭和時代に来ちゃったんだな...」
部屋にあるものは変わってはいなかったが、案の定、電子機器類は何も使えなかった。もしやと思い、トイレに再び入りアイコスを吸ったが大きな揺れは訪れなかった。
こっちの年代に来た時と同じ行為をしたが、未来に戻ることが出来なかった。
"これからどうしよう"その思いだけが脳内をぐるぐると駆け回る。高卒でアイドルしかやってこなかった私には何も才能が無かった。
「一旦、落ち着いて作戦を立てよう」
作戦1
どこか適当に就職する。
↑却下。履歴書も戸籍もないタイムスリップ女を雇うところなんかありやしない。例えあっても絶対肉体労働だ。私、それだけは嫌だ。
作戦2
元の時代に戻る
↑却下。それが出来れば困ってなんかいないんだわ。戻る方法も考えようがないんだし。
作戦3
富豪の彼氏を作る
↑結構あり。私、結構自分の顔やスタイルに自信あるし、適当に逆ナンパすれば手に入りそうだな。
「なぁ~んだ、楽勝だなぁ~」
...
自分を守る為に気づかないフリをしていた。どうせ叶わない想いだからやめよう。けれど、そう思えば思うほど”作戦4”の内容が頭の中を支配してくる。
作戦4
アイドルで売れたい
昔、母から1980年代の事を聞かされたことがあった。当時のアイドルは平成、令和のアイドルとは全然違っていたと。振付は少なく小さく、1人で歌い、美貌のみならず歌唱力も物凄く求められていたらしい。
けれどその分、影響力は凄まじかったという。女の子はみんなトップアイドルの髪型を真似し、商店街では常にそのアイドルの曲が流れ続ける。
どんなに趣味嗜好が違う人達でも、口ずさむことができた。エンタメが増えた今では考えられないことだ。
令和の売れない地下アイドル。さらに最後列。そんな私がなりたくてもなれるものじゃない。けど、いつ元の時代に戻れるかも分からない。もう、やけくそだ。
どうせ他にやりたいこともないし、ある程度芸能界で売れれば富豪のイケメンとも付き合える可能性が高まるしね。それになにより、成功失敗抜きに、挑戦してみたかった。
「よしっ!!やるぞ!!!」
1人、部屋の真ん中で拳を掲げる。しかし、その拳をすぐに下せなかった。
「え、アイドルになるにはどうすればいいの?...」
インターネットもないし紹介してくれる友人もいない。頼る親もいない。市役所とか行って聞いてくるか?いや、こんな大きな女の子(20歳)がアイドルのなり方を聞いてくるとか、市役所の役員にとっては恐怖でしかない。
「あっっ」
雑誌だ。さっきコンビニで色々あったから、アイドル募集とかあるはず。
財布を持って小走りでさっきのコンビニに向かった。一直線で雑誌コーナーに向かう。隣にいるおじさんにじろじろ見られながらも、目をがん開きにして、血眼でアイドル募集を探した。
(あった!!!!)
”オンナクラブ”という雑誌の35ページの左下に募集があった。内容はこう書いてあった。
「村松芸能事務所
第3回アイドルオーディションを開始します。
応募条件:16~20(女性)
受付時間:4月14日18時まで。
オーディション会場:東京都新宿区○○町20ー2」
「え、待って。いま何日??何時??」
隣のおじさんに思わず日付と時刻を聞いてしまった。おじさんは驚きながらも、丁寧に答えてくれた。
「4月14日。17時40分だよ~」
見ていた雑誌をおじさんに押し付け、勢いよくコンビニを出た。近所だから場所は分かる。けれど、信号込みで走って20分はかかる。
全力で走った。ほぼ信号は見ずに死ぬ覚悟で走った。後日考えてみれば、これ以外にも募集はあるはずだから、こんなに焦る必要はなかったと思った。けれど、あの時の私は焦っていたから、小さな頭を回転させる余裕がなかった。
17時58分。
間に合う。オフィスビルに入り、会場案内の看板を横目で確認しながら走る。
それっぽい会場を見つけ、両扉を思い切って押して開ける。
「20歳!宮野雫です!お願いします!!」
と大声で叫んだ。
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