地下アイドルグループ最後列の私が1980年代にタイムスリップしたら、何故か昭和アイドルとして頂点に立ってしまった

歩惰

デビュー編

第1話 揺れ動く世界

東京都 渋谷区 道玄坂に潜むモグラネズミ。私。


新宿にある自宅との往復の日々。特に何も起こらない。


 私が入っている「GranShow」のライブは今日もお客さんが5人。TikTokやYouTubeにも力を入れているが、常に再生回数は1000回未満。これが2年以上続いている。


次第にやる気のなくなる私は、ファンの顔が見えづらい位置になる。


「あぁ~~~、もうやめようかな...」


 アイコスを吸いながら思う。


 4畳半の自宅。ファンの三浦航大さんから貰う人形が、部屋の隅に山積みになっている。


 橙照明や観葉植物、分割払いで買ったプロジェクター。頑張って充実してる感を取り繕っている部屋に、少し居心地の悪さや不快感を感じていた。だから、よくトイレに閉じこもっていた。無機質で質素。だからこそ、ありのままでいれた。


 2,3秒ぼーっとしていたなか、急にトイレが。いや、部屋全体が大きく激しく震えだした。以前に大地震を経験していたので、揺れの異常さにすぐ気づいた。


「や、やばい...しぬ...まだ何も成しえてないのに...」


 絶望した。目を瞑り頭を抱える。



 けど、それと同時にちょっぴり嬉しさが出てしまった。


(もう頑張らなくていいんだ。解放されるんだ。)


 そう思ってしまったせいなのか。目を開けても見慣れる扉しか視界には入らなかった。少しガタついた扉をこじ開け、部屋に戻る。


ドロリ。違和感。


 部屋は驚くほど何も変わっていなかった。観葉植物の葉っぱ1つ1つもピンピンしていた。三浦さんから貰った人形の傾き具合もそのまんま。


 あの大きな揺れを単なるヤニクラだと思いたくない私。急いでドンキでかった明度の高いピンク色のサンダルを履いて、扉にタックルするように勢いよく扉を出る。


 夕焼け、5時過ぎの感覚。辺りを見渡して驚く。木造戸建ての瓦屋根ばかりが立ち並んでいた。少し歩けば、見知らぬポスターに人々の服装。


(いや...まさかね......ははっ...)


 変な妄想を苦笑いで誤魔化しコンビニを探した。20分ぐらい探し回ってようやくセブンを見つけた。


 けど、セブンのロゴ周りの色が茶色味がかっていた。明らかに今までとは違った雰囲気を醸し出していた。


「いや、夕焼けのせいかな...」


 店内に入れば違和感はさらに大きくなった。見覚えのない店員の制服、見たことすらない商品、知らない雑誌。


 けど、私は根気強く信じない。飲み物を見に行く。目に入るのは「新発売 ポカリスエット」の宣伝告知。半ば諦めで、雑誌コーナーに戻り、1つを手に取る。


目に浮かび上がる文字には「1980年4月号」



信じたくなかったが、私は来てしまった。

 

1980年代。それはソロアイドル全盛期の時代であった。

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