第4話 欠片を集めて

まだ肌寒い春の始めの夜。



「ここに居た。」

「見えた?」

「丸見え」

「とりあえず隠すか?」

「剃ってるから?」

「逆に見せるか?」

「いいから!出すな!」


沙耶さやには僕がどこにいるかなんて目を閉じれば直ぐにわかる。そして光の速さでその場所へ行ける。


僕は沙耶の住むマンションの屋上が好き。

淵に足をかけて数センチ先のふわっとした世界に飛び込むか、まだひんやりとした空気の世界に立ち止まるか。この瀬戸際が好き。


そんなきわにいると必ず沙耶が来る。…来てくれる。


沙耶に手を引かれ屋上に置いてあるビーチベットに横になる。

ここから見る空が綺麗で好き。

ここは沙耶との秘密の場所。


「さあや、」

「うん?なに?」

「こないだはごめん。よくわかんないことに巻き込んで。」

「感想は?」

「何文字くらいでまとめればいい?」

「一文字」


僕は吹き出した後、少し考えて、


しん」と答えた。

「なんで?」と直ぐに聞いてきた。


夢現ゆめうつつであろうと、どんな世界であろうと、そこに居る沙耶は特別。どんな沙耶でもどんな場所でも沙耶はそこに居てくれる。その時その時にくれる小さいヒントを信じて見抜く。信じ切る事が大切。そう気付かせてくれたから。」


「えらいじゃん。あんたにしては。」

「さあや」

「うん?」

「ずっと俺構っててよ。ちょっとでも気抜いたらまたどっか行っちゃうぞ。」

「『行かない努力もしろ』…ってそこら辺の女は言うと思うけどあたしは言えないな。…だって不安だもん。言わないけど。あんたの後ろ追っかけて姿見てないと不安。なんか、ストーカーみたいだよね。」

「…言っていい?」

「なに?」

「俺、それくらいというか、そういう風にされないと信じれない。病気だからさ。」

「あたしも同じ病気。」



「さあや。」

僕は横になってる沙耶の隣にしゃがんで頭を撫でた。

「…どこにも行かないで。」

初めて沙耶は僕に『弱さ』を見せた。


僕は頭が壊れている。

そう言われるとたまらなくなってしまう。


「沙耶…ごめん。」

「なんで?」

「違う…その…」

「なに?」

「…お前にそう言われると壊したくなる。」

「…いいんだよ。それで。私もそれを望んでるから。」



割れた鏡の欠片をテープで貼り付けて

少しづつ直して行って今の僕達が出来た。まだまだ部品が足りない。最終的に完成しなくてもいい。

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