横たわる命

 やさしい人がやさしくあれたらよいのです。

 わたくしはただそれだけのことに時間を費やして、無駄にして、意味があるかもわからぬ願いに四苦八苦して、勝手に悲しんで、ままならない身体の原因を求めて、求められなくて、くたびれました。

 わけもなく涙が流れるこの肉体は、どうしてかこう、邪魔くさくてたまらない。もっと強くなれたら。願うばかりで何もしてこなかったツケがいよいよ巡ってまいりました。

 今ではただ、風になりたいとそればかりです。

 眠りにおちるように、肉体が薄まって、涙も薄まって、何も考えなくてよくなって、ああけれど、それが悲しくてたまらなくなる時があるのでございます。内側から声が滲み出してくるのです。その叫びは紛れもなく、あの時の、わたくしだったものなのです。ふと、今頃どこで何をしてるだろうと、思い出していた、あの悲しみは、まだ、わたくしの中で、囚われて、地面に這いつくばって、動けないでいる。

 数ある選択肢は、目の前に見えなければ数もなくなる。選ばざるを得なかったことが、今こうして、多くの選択肢を持った今でも顔を出しては、選ばせようと必死になって、今度はそのことがわたくしを蝕んでいました。

 ああ、ただ、ただ、疲れた。もうよいのです、もうたくさんです。おさまれないほど身体が小さいのです。早くどうにかなってしまえ。たまりません。差し伸ばされた手を、信じる気力もなくなった。

 風になりたかった。風に、生まれたかった。

 春が来れば草木を揺らすでしょう。夏になれば風鈴を鳴らすでしょう。秋には稲穂にさざなみを立てて、冬には雪を散らすでしょう。それでよいのでございます。それで、それで……。

 風になりたい。そうすればもう、這いつくばることも、ありません。

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