第14話 上原咲との大学生活 1

 紗奈からのジト目に耐えながらの人生ゲームを終えた俺たちは、そのまま解散となった。


「疲れたぁ。ミュージックビデオの撮影よりも疲れたぞ」

「そぉ?私は楽しかったけどなー」


 疲弊し切った顔をしている俺に対し、満足そうな顔をしている彩音。


「久々に菜々美ちゃんと遊べたし、紗奈ちゃんと人生ゲームなんてしたことなかったからね!またやりたいよ!」

「……次は他のゲームで頼む」


 そんな会話をしながら俺たちは夜を過ごした。




 翌日。

 大学生である俺は芸能活動ばかりに力を入れるわけにはいかないので、髪を下ろした状態でリビングへ向かう。


「あれ?なんで髪を下ろしてるの?」

「そりゃ大学に行くからだ。彩音のスキャンダルと俺の芸能界デビューでバタバタしてたからな。そろそろ大学に行かないと単位を落としてしまう」

「あー、なるほどね。最近、髪を下ろしたお兄ちゃんを見てなかったから違和感しかなくて」


 外出時は毎回髪を下ろし素顔を隠している俺は、大学も髪を下ろした状態で通っている。


「というわけで大学に行ってくるわ」

「いってらー」

「いやお前も高校行けよ」


 そんなツッコミを彩音に入れた。




 家から出た俺は電車に揺られ、通っている大学へ辿り着く。

 こんな外見なので、俺が彩音の兄で最近デビューした鶴崎直哉であることに気づく人はいない。

 そう思っていたが、突然何者かに腕を“ガシッ!”と掴まれ、俺が芸能界デビューした旨を記した画面を見せられた。


「ちょっと!直哉!これはなんなの!?アンタが大人気アイドルである彩音さんの兄なんて聞いてないわよ!しかも芸能界デビューって!」

「しーっ!声がデカい!」

「んーっ!」


 腕を掴まれ尋問のように質問された俺は、慌てて声の主の口を塞ぐ。

 そして“キョロキョロ”と周りを確認する。


「よかった。誰にも聞かれてないみたいだ」


 そのことに安堵しつつ、塞いだ口から手を離す。


「ぷぱっ!何するのよ!」

「咲の声がデカいから塞いだだけだ!俺はできるだけ正体を隠す予定だからな!」


 陰気な格好をしている俺が彩音の兄であると知られた場合、彩音の人気に影響を与えてしまう。

 そのため『根暗な俺=最近芸能界デビューした鶴崎直哉』と繋がらないよう立ち回ることにした。

 だが、俺の素顔を知っている咲は俺がデビューしたことに気づいたようだ。


 上原咲うえはらさき

 高校の頃からの同級生で、現在は俺と同じ大学1年生。

 ピンク色の髪をツインテールに結び、少し吊り目になっているのが特徴的で、紗奈ほどではないもののなかなか立派な胸を持っている。

 高校ではミスコン3連覇を果たしており、今すぐ芸能界デビューしても活躍できるほどの美少女だ。


「さすがに咲にはバレてると思ったよ。俺の素顔を知ってるからな」

「当たり前でしょ?アンタの顔を忘れたことなんて一度もないわ。その……か、カッコいいから……」

「ん?なんだって?」

「な、なんでもないわよ!」


 最後の方はボソボソと言われたため聞き逃したが、顔を赤くした咲を見て聞き返すのをやめる。


「でもそりゃそうか。俺が咲に顔を見られた出来事はそう簡単に忘れられないよな」

「アタシが悪い男たちに襲われてるところを助けてもらったからね。あの出来事は忘れられないわ」


 襲われてる咲を目撃した俺は父さん直伝のボクシングを活かし、髪を結んだ状態で咲を助けた。

 それ以降、素顔を見た咲が俺と関わるようになり、今では大学内で唯一の話し相手だ。

 ちなみに咲に俺の素顔を黙っているよう伝えたら「ライバルが増えると困るから」と言って了承してくれた。


「それよりもアタシは芸能界デビューした理由が聞きたいわ。なんでそんなことになってるのよ?」

「あぁ。これには色々あってな……」


 そう言って咲に理由を話す。


「なるほど。彩音さんが直哉の芸能界デビューを後押ししたのね」

「あぁ。だからデビューすることにした」


 そう伝えると、咲が「んーっ!」と身体を伸ばす。


「ずっと聞きたかったからスッキリしたわ。アンタに理由を聞こうにも大学には来ないし連絡先を交換してないからメッセージで聞くこともできないし」

「あー、そういえば咲の連絡先を知らないな。今回みたいなことが今後あるかもしれないから、この機会に交換するか?」

「っ!そ、そうね!今回みたいなことが今後もあると思うから交換すべきよね!それに高校の頃から関わってるのに連絡先を交換してないのっておかしいと思ってたし!あと……」

「長い長い!」


 長々と理由を言われ、俺は途中で言葉を遮る。


「交換でいいんだな?」

「え、えぇ」


 咲から了承をもらい、俺は連絡先を交換する。


「やっと直哉と交換できた……」

「ん?何か言ったか?」

「なっ!なんでもないわよ!」


 そう言って俺に背を向ける。

 その姿に疑問を持つが深く考えず、自分のスマホをポケットに入れる。

 そのため、咲の嬉しそうな顔を見ることはなかった。

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