第13話 戸坂菜々美の来訪 2

 “ゴゴゴーっ!”と燃え上がってる2人を連れてリビングへと促す。


「久々に直哉たちの家にあがる」

「確かに。最近の菜々美は忙しかったからな。今期のアニメには5作品も出演してるんだろ?」

「ん、頑張った」


 そう言って菜々美が薄い胸を張る。


「ははっ。頑張るのもいいけど倒れるほど頑張るなよ?」

「その辺は大丈夫。しっかり休息を取ってるから」

「なら安心だ」


 見たところ顔色も良いので本当に無理はしていないようだ。


「そういえば直哉。今期のアニメに幼馴染と主人公が恋人になるアニメがあるの知ってる?」

「あぁ。菜々美がメインヒロインを務めてる作品だろ?今のところ放送された話は全て見てる。というか、菜々美が出演してる5作品、全て見てるぞ」


 菜々美が出演する作品は全て視聴するよう心がけているため、菜々美が言ったアニメは把握している。

 そのことを伝えると菜々美が俺の顔を見て頬を染め、照れながら口を開く。


「いつも見てくれてありがとう」

「当たり前だろ。俺は菜々美のファン第1号だからな」

「ん、とても嬉しい」


 そう言って菜々美の口角が少し上がる。


「むぅ〜。直哉さんにそんなこと言ってもらえるなんて羨ましいです」

「はいはい、嫉妬しないの」


 そんな俺たちを他所に、後ろの方では彩音が何かを言いながら紗奈の頭を撫でていた。




 デリバリーを頼み、晩御飯を食べた俺たちはリビングで駄弁りながらくつろぐ。


「何度も言うがミュージックビデオを撮影してた時の紗奈の演技、とても良かったぞ。紗奈は役者の才能もあるかもしれないな」

「い、いえ!私に役者の才能なんてありませんよ!実際、事前に練習した通りの演技はできませんでしたから!」

「え、そうなのか?」

「はい。直哉さんの姿を見てボーッとすることもありましたし、手紙を渡す時は顔を赤くして言葉も噛んでしまいました」

「……あれは演技じゃなかったのか」

「うぅ〜。恥ずかしいです」


 当時の演技を思い出してか、紗奈の顔が真っ赤にして俯く。

 そんな紗奈を見て、自然と紗奈の頭に手が伸びる。


「……あっ」

「恥ずかしがることはないよ。手紙をくれた時の紗奈はとても可愛かったから」

「かっ、可愛い……」


 “プシッーっ!”と湯気が出るのではないかと思えるくらい真っ赤な顔となる。

 そんな紗奈の頭を俺は優しく撫でる。


「あぁ。ミュージックビデオを見た人も絶対そう思う。だから俺は素晴らしい演技だと思ったよ」


 そう言って笑顔を向ける。


「だ、だからその顔は反則です……っ!」


 そんな抗議の声を上げつつも頭を撫でる俺の手を振り払う様子はない。


「ずるい。私も直哉に頭を撫でてほしい」

「はいはい。菜々美ちゃんも嫉妬しないの。代わりに私が撫でるから」


 そんな俺たちを他所に、彩音が何かを言いながら菜々美の頭を撫でていた。




 その後、俺たち4人は人生ゲームで遊ぶこととなった。

 当初は和やかな雰囲気で人生ゲームを楽しんだが…


「お、結婚マスか」

「おぉ!お兄ちゃんが結婚!誰とするのー?」

「えーっと、右隣の人だから……菜々美だな」

「ん、よろしく。あなた」

「役に入ってるなぁ」

「当然。たとえ遊びだろうが手は抜かない」


 そう言って菜々美が俺の近くに寄ってくる。

 そして“ピトっ!”と俺の腕と菜々美の腕が触れ合う。


「な、菜々美?」

「夫婦とは寄り添い合うもの。だから私が直哉とくっつくのは必然的」

「そ、そうかぁ?」

「そういうもの」


 そう言って俺の肩に頭を乗せる。

 すると菜々美の身体から甘い匂いが漂い、クラクラしそうになる。


(い、いかんっ!彩音や紗奈が見てるんだ!菜々美の匂いに惑わされるな!)


 そう心に言い聞かせ表情を引き締めるが、ジトーっとした目で紗奈が俺のことを見ていた。


「な、菜々美?紗奈たちが見てるぞ?」

「問題ない。だって私たちは夫婦だから」


 そう言って今度は俺の肩に頭を乗せたまま、俺の腕に抱きついてきた。


(役に入り込みすぎぃぃっ!)


「むぅ〜っ!直哉さん!」

「は、はいっ!」

「私たちの目の前でイチャイチャしないでください!」

「す、すみませんっ!」


 菜々美のせいだと弁明したいところだが、そんなことができる雰囲気ではなかったため、年下相手に何故か敬語で一所懸命謝る。


 そんなことをしていたため…


「お怒りな紗奈ちゃんに対し、幸せそうな顔をしてる菜々美ちゃん。これからお兄ちゃんは大変な日々を過ごしそうだなぁ」


 彩音の言葉は聞こえず、幸せそうな顔をして俺に抱きついてる菜々美の顔を見ることはなかった。

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