第12話 戸坂菜々美の来訪 1
「カットぉー!」
二宮さんの声が響き渡る。
「いやぁ、すごいね、直哉さん。本当に中学、高校でバスケはやってないの?」
「はい。小学生の頃と数日前にしただけですね」
「お兄ちゃんは正真正銘の天才です!努力しなくてもある程度はできるんですよ!」
「ボクシング世界チャンピオンの血筋はすごいねぇ」
そんなことを言いながら二宮さんが感心する。
「それより出来はどうでしたか?」
「それなら文句なしだよ」
「ありがとうございます」
無事撮れていたことに内心安堵する。
「少し休憩してからもう少し撮影するよ」
「はいっ!」
その後、俺がバスケで無双するシーンを撮り続け、無事ミュージックビデオの撮影が終わった。
「「「お疲れ様でした!」」」
俺たち3人は挨拶をして赤峰さんのもとへ向かう。
「本当にお邪魔してもよろしいのですか?」
「あぁ。無事に撮影が終わったからな。俺たちの家でパーっと楽しもうぜ」
「うんうん!お母さんたちはお仕事でいないから遠慮しなくていいよ!」
俺たちは撮影が無事に終わったことを祝い、俺たちの家で遊ぶこととなった。
そのため赤峰さんにそのことを伝え、赤峰さんの運転で俺たちの家に向かう。
その道中、彩音がスマホを見ながら話しかけてきた。
「今から菜々美ちゃんも私たちの家に来るんだって」
「へー、菜々美が来るんだ。久しぶりだな」
「そうだね。菜々美ちゃんも忙しいみたいだからね」
俺たちの幼馴染の菜々美は人気声優で、数々の人気アニメでヒロイン役を務めており、今放送されているアニメにも数多く出演している。
「菜々美さんとは撮影前に話していた幼馴染のことですか?」
「あぁ。小さい頃は家が隣同士だったからたくさん遊んだんだ。中学になった時、菜々美が引っ越してからは頻回に会えなくなったが、今でも交流はあるんだ。ちなみに声優をしてるぞ。“戸坂ナナミ”って芸名でな」
「えっ!戸坂ナナミさんって最近流行った『居酒屋のかくしごと』でメインヒロインを務めた方じゃないですか!」
「そうだ。菜々美はすごい奴だぞ」
菜々美は引っ越してから声優を目指して頑張ったらしく、声優になったと報告された時は盛大に驚いた。
俺たちと遊んでる時はそんな気配を見せなかったため、引っ越してから声優を目指す理由ができたんだろう。
「菜々美さん。やはり強敵ですね」
「そうだよー。だから紗奈ちゃんは今以上に頑張らないと」
「うぅ〜。もうすでに結構頑張ってるんですが……」
そんな会話をしながら俺たちは自宅を目指した。
俺たちの家に到着する。
「また仕事が入った時は連絡しますね」
「はい。運転ありがとうございました」
俺は赤峰さんに頭を下げて別れる。
そして自宅の玄関まで3人で歩いていると、1人の女の子が玄関前に立っていた。
「待ってた」
「はやいな、菜々美」
「菜々美ちゃんおひさー!」
「ん、2人とも久しぶり」
表情を変えず淡々と挨拶をする菜々美。
俺と同い年で現在大学1年生。
黒い髪を肩の辺りまで伸ばしており、胸が貧しいこと以外は完璧な美少女。
表情が豊かではないため、時折見せる笑顔はかなりの破壊力がある。
菜々美は俺と彩音に挨拶をした後、紗奈の前に移動する。
「あなたが紗奈?」
「はい。吉岡紗奈といいます」
「ふむふむ……」
そう言って菜々美が紗奈の全身を観察するように眺めた後、首を曲げて自分の胸を見る。
そして再び紗奈を見る。
「ホントに高校2年生?」
「そ、そうですが……」
「……世の中不平等すぎる」
無表情だが心の底から落胆しているのが分かる。
「うんうん。私もそう思うよ。あれで私たちより年下だからね」
そんな菜々美を見て彩音も頷く。
小さすぎるわけではないが紗奈ほどの大きさを持っていない彩音も心の中で紗奈の巨乳にツッコミを入れたかったようだ。
俺もその巨乳で高校2年生は信じられないので菜々美たちの発言に心の中で同意する。
「でも女の子の魅力は胸じゃない。そう直哉が言ってた。そうでしょ?」
「あぁ。もちろんだ」
以前、菜々美から『胸が小さい子は好きになれない?』と質問された。
その時の菜々美が泣きそうな表情をしていたので全力で違うことを説明した。
実際、俺は胸の大きさで女の子を選んだりしないので菜々美に言った言葉は本心だ。
「だからスタイルでは紗奈に劣ってるけど私が負けることはない」
「っ!もしかして私の想いに……」
「ん、彩音から聞いてる。私に宣戦布告をしたいらしいと」
「は、はいっ!絶対に負けません!」
「ん、受けて立つ」
“ゴゴゴーっ!”という背景が見えるくらい、2人が燃えている。
「おぉー、2人からものすごい気迫を感じるぞ。これは勝負の行方が気になるな」
「だからお兄ちゃんは他人事じゃないんだって……」
そんなことを彩音が呟いていた。
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