第11話 ミュージックビデオの撮影 3

 どうやら俺には運動の才能があるらしく、そのおかげでミュージックビデオの撮影は滞りなく進んだ。


「うん。試合に負けた直哉くんを慰めるシーンはこれで良いよ」


 試合に負けて落ち込んでいた俺を彩音と紗奈が慰めるシーンの撮影を終えた。


(まさか彩音から頭を撫でられるとは思わなかった)


 慰めるシーンの撮影のため、俺は彩音から頭を撫でられた。

 『お兄ちゃんはよく頑張ったよ』との言葉付きで。


 それに対して紗奈は男心をくすぐるような仕草を見せながら励ましの手紙をくれた。


『そ、その……こ、これを読んで元気出してください!』


 そう言って差し出された手紙を受け取った時の紗奈の顔は真っ赤になっており、非常に可愛かった。


「お兄ちゃん、どーだった!?」

「私たちの演技、いかがでしたか?」

「うん、とても良かったよ。セリフをカットされるのが勿体無いくらい2人とも良い演技だった」

「やった!」

「わー!嬉しいです!」


 俺の言葉に2人が笑顔を見せてくれる。


「次はいよいよお兄ちゃんが本気を出すシーンだね!」

「そうだな。本気を出して良いシーンが撮れるようにするよ」


 次は今回のミュージックビデオで1番メインとなる俺がバスケで無双するシーン。

 俺が無双することでチームは優勝したという映像を撮るため、カッコいいシーンが求められる。


「紗奈ちゃんが見惚れちゃうくらいカッコいいのをお願いね!」

「あ、彩音さんっ!」


 彩音の言葉を聞き、紗奈が彩音を“ポカポカ”と叩く。


「ははっ、紗奈が見惚れるくらいカッコいいのは無理だと思うが、紗奈から褒められるくらいの演技はしてくるよ」


 そう言って俺は紗奈に向けて笑顔を見せる。


「うぅ〜」

「あははっ、紗奈ちゃん顔真っ赤!」

「こ、これは直哉さんが悪いです!」

「お、俺!?」

「そうだねー。これは無自覚にイケメンスマイルを振り撒くお兄ちゃんが悪い」

「えぇ……」

「あははっ!冗談だよ!」


 そんな会話をしながら二宮さんから声がかかるのを待った。




「じゃあ撮影を再開するよ」


 とのことで、俺は撮影に臨む。


「直哉さんにはドリブルで2人抜きやパスカット、スリーポイントシュートを決める等々、色々とやってもらいます。最後だから頑張って」

「はいっ!」


 その後、詳しく指示をもらった俺は配置につく。


「よーい、アクションっ!」


 との言葉が聞こえると音楽が鳴り響く。

 しっかりと音楽に耳を傾け、俺は指示をもらった歌詞が聞こえたと同時にドリブルを仕掛ける。

 目の前にいるモブキャラを前回と同様、インサイドアウトドリブルを使い、右側から抜くと見せかけて左から華麗に抜き去る。


「おぉー!」

「すげぇ、上手すぎる!」


 そんな声援を聞きながらもう1人のモブを視界に捉えると、床を叩くようにして足を小刻みに動かす。

 そして細かく足を踏み替えて減速し、細かいステップを左右に散らせて相手に的を絞らせないようにする。


(今っ!)


 細かくステップを踏んだことで相手が隙を見せたため、その隙を付いてトップスピードで抜き去る。


「2人抜きっ!」

「鮮やかっ!」


 そんな俺を見てどんどん周りからの声援が大きくなる。


「行かせん!」


 1人のモブキャラが俺のドリブルを止めようと目の前に現れる。

 事前に聞いていた通りのタイミングで現れてくれたため、俺は慌てずドリブルを仕掛ける。

 すると相手が俺のドリブルを止めるため、重心を後方に下げる。


 その瞬間、俺は右足を踏ん張り斜め後ろ方向に蹴って大きく後方へステップし、ジャンプシュートを放つ。

 俺が後方へジャンプしたことで俺と相手に距離が生まれ、俺のシュートは防がれることなく“スポっ!”とゴールに吸い込まれた。


「あれはステップバックシュートっ!」

「いや凄過ぎっ!」


 そんな歓声を聞きながら俺は彩音と紗奈に向けて笑顔でサムズアップをする。


「カットぉー!」


 そのタイミングで二宮さんの声が響き渡った。

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