第10話 ミュージックビデオの撮影 2

 ミュージックビデオの撮影をするため、俺はバスケのユニフォームに着替えて配置につく。

 今回の撮影は俺が高校生でバスケ部のキャプテンという設定となっており、彩音は俺の妹役を務め、紗奈はマネージャー役を務める。


 ストーリーはバスケの試合で負けた俺を彩音と紗奈が励まし、再起した俺が練習に取り組む。そして大会で優勝するというストーリーだ。

 ちなみにバスケの試合を撮影するシーンもあるため、大量のモブ役もいる。


「よーい……アクションっ!」


 監督の声が響き渡り、撮影が始まった。




『スノーフェアリー』の新曲が流れ出す。

 俺は音楽に耳を傾けながらバスケットボールを持ち、目の前のモブキャラと対峙する。

 額に汗を滲ませ、相当疲弊していることが伝わるよう演出をする。


「はぁはぁ……」


 残り10秒で点差は2点という危機的な状況。


『逆境に〜🎶』


(今っ!)


 監督から指示をもらっていた歌詞が流れ、俺はドリブルを仕掛ける。


 インサイドアウトドリブルを使い、右側から抜くと見せかけて左から抜き去り、スリーポイントラインに着く。


「うまっ!」

「完璧なドリブルっ!」


 そんな声が周りから聞こえてくるが俺は聞き流し、スリーポイントシュートを放つ。



 “ガゴンッ!”


 俺が放ったボールはゴールのリングに当たり、網を通ることなくそのまま落下。

 そのタイミングで“ピーっ!”と試合終了の合図が鳴る。


「負けたか……」


 俺はその場で天井を見上げ消沈する。


「お兄ちゃん……」

「……」


 その様子を彩音と紗奈が心配するように見つめていた。




「カットぉー!」


 そのタイミングで二宮さんの声が響き渡る。


「直哉さん。完璧だったよ」

「ホントですか!?」

「えぇ。ドリブルのタイミングやシュートのタイミング、そしてゴールに阻まれる演出。音楽とリンクした動きになっていて文句なしだよ。何より、バスケする姿がカッコ良かったね」

「ありがとうございます!」


 二宮さんから褒められ、嬉しい気持ちとなる。


「ちょっ!お兄ちゃん!なにあのドリブル!めっちゃカッコ良かったよ!やっぱりお兄ちゃんって何でもできるね!」

「ははっ、ありがとう。でも相手は抜かれることを前提に動いてたから抜きやすかっただけだ。だからカッコ良かったとか言わなくていいぞ?」


 大絶賛の彩音に俺は笑いながら返す。


「いやいや、あれはカッコ良かったよ!だって紗奈ちゃんを見て?お兄ちゃんが華麗にドリブルで抜いた辺りからボーっとしてるよ」


 そう言われ紗奈を見ると、顔を赤らめて俺のことをボーっと見ていた。


「……紗奈?」

「ふぁいっ!」

「どうした?体調でも悪くなったのか?」

「い、いえっ!なんでもありません!」


 そう言って顔の前で手をブンブン振る。


「お兄ちゃんのカッコ良さに見惚れちゃったんだよねー?」

「は、はい。そうです……って何言わせるんですか!」

「あははっ!良かったね!お兄ちゃん!」

「そ、そうだな。必死に練習した甲斐があったよ」


 俺の初仕事ということで気合いが入っていたことは間違いが、彩音たちのミュージックビデオが良いものになってほしいという気持ちで練習していた。

 そのため監督や彩音、紗奈からの言葉がすごく嬉しい。


「周りの女性スタッフも紗奈ちゃんみたいに別世界に飛ばされてるみたいだね」


 そう言われて周りを見ると、女性スタッフ全員がボーッとしていた。


「スリーポイントシュートって狙って外したの?それともたまたま?」

「あぁ、あれは狙ってやったぞ。あらかじめどの位置でスリーポイントシュートを打つか確認してたからな。それさえ分かればあとは力加減の問題だ。同じ位置からなら何度やってもリングに当てて外せる自信があるぞ」

「……相変わらずスペックが高いなぁ」

「父さんから鍛えられたからな。運動なら得意だ」


 プロボクサーだった父さんから小さい頃から鍛えらたため、運動神経には自信がある。


「彩音もそうだろ?」

「まぁね。私もお父さんのおかげでダンスのキレはいいから」


 ボクシング世界チャンピオンの血を引いてるからか、ありがたいことに俺たちは運動神経が良い。


「だから数日本気で練習するだけでドリブルもシュートもアレくらいのレベルになったんだ。ホント父さんには感謝だな」

「絶対、数日本気で練習しただけであのキレのあるドリブルと必ずリングに当てて外せるシュートは打てないから」


 そう言いながらジト目で俺のことを見る。


「そ、そうか?」

「私ね。お兄ちゃんが1つのスポーツを極めたら世界一の選手になってるって本気で思ってるよ」

「ははっ、それは大袈裟だよ」

「いやマジだから」

「………マジで?」


 俺の問いかけに無言で頷く彩音だった。

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