第9話 ミュージックビデオの撮影 1
紗奈が助けに来てくれたことで女性スタッフたちから解放される。
「ありがと、紗奈。助かったよ」
年下の女の子に助けられるのはカッコ悪いが俺は素直に感謝を述べる。
「いえ、これくらい大したことありませんよ」
そう言って柔らかい笑みを浮かべつつ、俺の腕と触れそうなくらい紗奈が近づく。
「……紗奈?」
「どうしましたか?」
「いや、近くないか?」
「そんなことありませんよ?」
そして遂に“ピトっ!”と俺と紗奈の腕が触れ合う。
「さ、紗奈!?」
「こ、これは直哉さんが再び女性スタッフから囲まれないようにするためです!私と近くにいれば話しかけられることはないので!」
「そ、そうか。俺のために身体を張ってくれてありがと」
「い、いえ。これは私のためでもあるので気にしないでください」
「私のため?」
何を言ってるかは理解できなかったが、紗奈のおかげで女性スタッフたちが寄って来くることはなくなる。
「紗奈ちゃん頑張ってるね〜」
距離が近い俺たちを見て楽しそうな声色とニヤニヤした顔で彩音が言う。
「あ、当たり前です!だってお相手は直哉さんの幼馴染ですよ!頑張らないと負けてしまいます!」
「菜々美ちゃんは強敵だからねー!」
「ん?紗奈は菜々美と勝負でもしてるのか?」
「そうだよー。負けられない戦いをしてるんだ」
「へー、頑張れよ」
「はいっ!絶対勝ってみせます!」
「他人事じゃないんだけどなぁ……」
そんな会話をしながら俺たちは学校の敷地を歩いた。
学校の敷地内を歩き、撮影現場である体育館へと辿り着く。
「私たちの事務所は毎回とある方に監督をお願いしてるんだ!」
「すごく優しい方でとても良い人です!」
そう言って俺の下から離れた彩音と紗奈が、1人の女性のもとへ駆け寄る。
「「おはようございます!二宮さん!」」
「おはよう。彩音ちゃん、紗奈ちゃん。今日もよろしくね」
二宮さんが彩音たちの挨拶に笑顔で返答してくれる。
二宮律子。
今年65歳となる女性で『スノーフェアリー』のミュージックビデオを全て監督している方。
素晴らしい実績を数多く残しており、俺の母さんがアイドルをしてた頃のミュージックビデオも監督したことがある。
ミュージックビデオの監督で1番有名な方は?と聞かれたら、ほとんどの方が二宮律子と答えるだろう。
それくらい有名な監督だ。
「コチラの方が彩音ちゃんのお兄さんね」
「はい。彩音の兄の鶴崎直哉です。よろしくお願いします」
有名な監督ということに加え初めての仕事に緊張気味な俺へ「緊張しなくていいよ」と優しく声をかけてくれる。
「彩音ちゃんや紗奈ちゃんのように撮影を楽しもうよ」
「わ、わかりました」
「お兄ちゃん、緊張してるー!」
「緊張されてる直哉さん、とても可愛いですね」
そんな俺に揶揄いながら2人が近づく。
「か、揶揄うな」
「はーい」
「ふふっ、すみません。直哉さん」
と言いつつもクスクスと笑う2人。
「直哉さんの緊張は彩音ちゃんたちに解してもらうとして、まずは撮影内容の説明をするよ」
そう言って二宮さんが話し始める。
「今回も音源を使って撮影を行うよ。『スノーフェアリー』の新曲は事前に聴いてるね?」
「はい、バッチリです」
『スノーフェアリー』の新曲はすでに完成しており、ここ最近は新曲をリピートしまくっていた。
「なら問題ないね。今回も音源を使用して新曲を流し続けるから、撮影中は音楽と動きがズレないよう音楽にも注意を配ること。そしてコレを見て」
そう言って俺たち3人にとある紙を数枚渡す。
「コレは絵コンテといって具体的なシーンの構築やカメラのアングル、キャラクターの動きを絵に描いてみたの。これ通りの撮影を行うからお願いね」
渡された紙には俺がどんな行動を取るのかが絵で描かれており、その場面の時に流れる音楽の歌詞も記されていた。
「今回の新曲は知っての通り、今度開催されるバスケットボール世界大会の応援ソング。なので直哉くんにはバスケをしてもらい、彩音ちゃんと紗奈ちゃんは頑張る直哉くんを応援してもらうよ。バスケは昔やっていたと彩音ちゃんから聞いてるけど大丈夫よね?」
「難しいことはできませんが、簡単なことならできます。最近はバスケットボールを買って久しぶりにシュート練習やドリブル練習をしてましたから」
小学生の頃、少しだけバスケをやっていた俺は撮影でバスケをやると聞いて、昔の動きを取り戻すために体育館を借りて特訓していた。
「お兄ちゃん、たった数日間真剣にバスケをやっただけで部活でレギュラーになれるくらい上手くなったんだよ!相変わらずお兄ちゃんは天才だよ!」
「わー!さすが直哉さんです!」
「そこまでは上手くないから期待に満ちた目をするのはやめろ!」
キラキラした目で紗奈が見てきたため、俺はすぐに期待値を下げる。
「いやホントすごいんだよ!お兄ちゃんの練習に付き合ってるけどインサイドアウトドリブルとかスタッターステップドリブルとかカッコいいドリブルをマスターしてたから!」
「どんなドリブルなのかは分かりませんが直哉さんがカッコ良いのは理解しました!はやく直哉さんのドリブルが見たいです!」
「無駄に期待値を上げないでぇぇ!」
俺は大きな声で彩音に言う。
「ふふっ、楽しそうね。彩音ちゃんや紗奈ちゃんと話したおかげで少しは緊張が解れたんじゃない?」
「……そういえばそうですね」
二宮さんに指摘され、先ほどまでの緊張がなくなっていることに気がつく。
「それなら撮影を初めても大丈夫そうね。撮り直しは何回でもするから失敗は気にしなくて良いよ。じゃあ、早速撮影に移ろうか」
「「「はいっ!」」」
とのことで早速撮影が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます