2章 初仕事編
第8話 吉岡紗奈の想い
【2章開始】
『スノーフェアリー』の新曲ミュージックビデオ撮影のため、俺たちはとある学校に来ていた。
「ねぇ、見てみて!あの人が鶴崎直哉様よ!」
「ヤバっ!超イケメン!」
「私、話しかけよ!」
「あー!ズルいっ!私も直哉様と話したい!」
髪を結び会見時の姿となった俺は、女性スタッフたちの注目の的となっていた。
「「「直哉様ー!おはようございます!」」」
「お、おはようございます」
そんな中、数人の女性が俺に話しかけてきた。
「今日が初めてのお仕事ですね。緊張されてますか?」
「そ、そうですね。初めてなので少し緊張してます」
「私、オススメの解し方知ってますよ!」
等々、俺は女性スタッフたちと簡単なお喋りを行う。
その後、中々解放してくれない女性スタッフたちから様々な質問を受け、俺は少しずつ疲弊していった。
〜吉岡紗奈視点〜
撮影現場に到着して早々、直哉さんが数人の女性に囲まれた。
しかも全然直哉さんを解放する気配がない。
「うぅ〜」
「紗奈ちゃん、嫉妬しないの」
「しっ、嫉妬なんかしてませんよ!」
隣にいた彩音ちゃんの言葉を即座に否定する。
そんな私を彩音さんが真剣な目で見つめる。
「ねぇ紗奈ちゃん。少しは素直になった方が良いと思うよ?」
「なっ、何を言ってるんですか?」
「いやバレバレだからね?紗奈ちゃん、お兄ちゃんを見る時、すごく乙女の顔してるよ?」
「そっ、そんなことありません!た、確かに直哉さんはカッコいいので見惚れてしまうことは多々ありますが、乙女の顔はしてません!彩音さんは私が直哉さんのこと、異性として好きと思ってるのですか!?」
「え?違うの?」
「違います!これは彩音さんが直哉さんに抱いてる気持ちと同じものです!」
直哉さんのカッコ良さに見惚れることは多々あるが、私が直哉さんに抱いてる気持ちは彩音さんと同じもの。
異性を好きになったことがないので確証はないが、私はこの気持ちを恋ではないと思っている。
「ホントにそうなの?」
しかし彩音さんは違うと確信しているようで真剣な表情で言う。
その表情を見た私は自信をなくし、彩音に問いかける。
「……やっぱりこの気持ちは恋なのでしょうか?」
「うん。私が見てる限り紗奈ちゃんはお兄ちゃんのことが好きだよ。だって最近、お兄ちゃんのことばかり考えるようになったんだよね?」
「……はい」
直哉さんは今なにをしてるのでしょうか?と考えるのは毎日のことで、彩音さんに直哉さんの行動を聞くこともあった。
「ならそれは恋だよ。私がお兄ちゃんに抱く気持ちとは全然違うもの。もし紗奈ちゃんが『お兄ちゃんとデートしたい』とか『お兄ちゃんと手を繋ぎたい』とか思うなら、確実にお兄ちゃんのことが好きなんだよ」
そう言って彩音さんは色々な例え話をしてくれる。
「お兄ちゃんとデートしたい?」
「……したいです」
「お兄ちゃんが他の女の子とデートするのを許せる?」
「……許せません」
等々、一問一答のように私は彩音さんの質問に答える。
そこでようやく自分の気持ちを理解する。
「私、彩音さんの言う通り、直哉さんに恋をしてたんですね」
今まで異性に恋したことがなかった私は、直哉さんに抱いている気持ちをようやく理解する。
すると心が軽くなった気がした。
今までは頑なに認めなかったが、心の奥底では恋だと分かっていたかのように納得し、心がスッキリした。
「私は直哉さんのことが好きになりました。あの時、慰めてもらったことがキッカケで」
「うんうん」
自分の気持ちを吐露すると彩音さんは笑ってくれる。
「お兄ちゃんって恋愛面には鈍いんだ。過去にルックスが良いってだけでたくさんの女性から告白されて少し女性不信みたいなんだよ。本人は自覚ないけど近づいてくる女性に対して心の何処かで距離を置いてる。だから紗奈ちゃんはお兄ちゃんの内面が好きになったことをアピールするべきだね」
「な、なるほどです」
彩音さんから具体的なアドバイスをもらい、さっそく実践したくなる。
「ありがとうございます、彩音さん。自分の気持ちに気付かせてくれて」
「気にしなくて良いよ。お兄ちゃんにはメンクイ女より、お兄ちゃんの内面が好きになった女の子と付き合ってほしいからね。しかも性格が良くて優しい女の子と。だから頑張ってね」
「は、はいっ!」
彩音さんから励ましの言葉をもらい、やる気が出る。
「ちなみにお兄ちゃんに恋をしてる女の子が紗奈ちゃんの他に1人いるから」
「なっ!」
まさかの発言に私は声を上げる。
「その子もお兄ちゃんの内面に惹かれて好きになったみたいなんだ。だから私はその女の子も紗奈ちゃんのようにお兄ちゃんの恋人として相応しいと思った。ちなみにその女の子はお兄ちゃんの幼馴染だよ」
「幼馴染っ!これは積極的にアプローチしなければいけませんね!」
どこの誰だかは分かりませんが、直哉さんを渡すつもりはない。
「ささっ、早くお兄ちゃんを解放してあげて」
「はいっ!」
私はそう答えて愛しの直哉さんを助けに向かった。
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