第6話 吉岡紗奈との出会い 3
耳まで真っ赤にして俯く吉岡さんを見ながら俺は吉岡さんの頭を撫で続ける。
すると…
「やるね〜、お兄ちゃん。紗奈ちゃんの頭をナデナデするなんて」
「「!?」」
彩音の言葉に頭を撫でていた手を止め、吉岡さんから距離を取る。
「私、紗奈ちゃんが男の人と仲良くしてるの初めて見たよ。もしかしてお兄ちゃんに口説き堕とされちゃった?」
「そ、それはその……」
そう言ってチラッと俺を見る。
「〜〜〜っ!ちょ、ちょっと飲み物を買ってきます!」
そして俺から逃げるようにダッシュで走り去る。
「……や、やり過ぎたぁぁぁー!!!」
そんな吉岡さんを見て俺は叫ぶ。
「絶対嫌がられたよ!いや、さすがに初対面で頭を撫でるのはやり過ぎたと思ってるよ!?でも吉岡さんを見てたら兄貴面したくなったというか……守ってあげたくなったというか……よし、全力で謝ろう!」
「なに1人で騒いでるの?」
突然の奇行に彩音がアホでも見るような目を向ける。
「いや、妹の大事な相棒に変なことしてしまったから全力で謝らないとと思って」
「……はぁ」
そんな俺を見て何故かため息をつく彩音。
「何に対して謝ろうとしてるのかは知らないけど、私はお兄ちゃんに感謝してるんだよ」
「……感謝?」
そう言われても心当たりがないので首を傾げる。
「最近、紗奈ちゃんはSNSのことで悩んでたみたいでいつも暗かったんだ。でも私じゃなんて励ませばいいか分からなくて。だからお兄ちゃんなら紗奈ちゃんの悩みを解消してくれるかもって思って、さっきまでお兄ちゃんたちのやり取りを一部始終見させてもらったんだ」
「い、一部始終だと!?ちなみにどの辺から!?」
「えーっと……『俺でよかったら遠慮なく話してみて』と言って紗奈ちゃんに迫ってたところかな?」
「ほぼ最初からじゃねぇか!あと迫ってたわけじゃねぇ!」
あのやり取りを妹に見られていたと知り、恥ずかしくなる。
「でもお兄ちゃんに任せて良かったと思ったよ。おかげで紗奈ちゃんは元気になったみたいだし。ありがと、お兄ちゃん」
「……気にするな。吉岡さんは妹の大事な相棒だからな。励ますくらいどうってことないさ」
妹に感謝され、気恥ずかしくなった俺は頬を掻きながら言う。
そんな俺を見て突然彩音がニヤニヤし始めた。
「でもまさかお兄ちゃんが紗奈ちゃんのことを私よりも可愛いと思ってたなんてちょっとショックだなー」
「!?」
彩音の言葉に俺は固まる。
当然といえば当然だが、最初から聞いていたとなれば俺が吉岡さんの容姿を褒めたところも聞かれている。
「これでも世間では美少女アイドルって呼ばれてたけど自信無くしそうだなー」
「………」
こんな露骨な態度を出している時の対応は一つしかない。
「安心しろ。俺は彩音のことも可愛いと思ってるから」
「えへへ〜、ほんとお兄ちゃんはシスコンだな〜」
そう言って嬉しそうに笑う。
「吉岡さんほどではないが」
「最後の一言は余計だよ!私も紗奈ちゃんより可愛くないとは思ってるけど!」
そんな話をしながら吉岡さんが戻るのを待った。
〜吉岡紗奈視点〜
私は逃げるように自動販売機まで来る。
「はぁはぁ……心臓がドキドキ鳴ってます」
たった今、全力で走ったので心臓の鼓動が速くなっているのは当然のことだが、原因はそれだけじゃない。
「直哉さんからたくさん褒めてもらいました……」
最近の私はSNSで様々なことを言われていた。
〈『スノーフェアリー』って彩音ちゃんしか知らないんだが、もう片方って誰だ?〉
〈知らん。彩音ちゃんしか目立ってないからどんな顔かも記憶にない〉
〈歌と踊りは上手いけど何故かパッとしないんだよなぁ〉
〈俺的には胸以外、彩音ちゃんに勝てない女だと思ってる。正直、彩音ちゃんはソロアイドルでいい〉
〈なるほど。彩音ちゃんの足を引っ張ってる女ってことか。理解した〉
等々言われ、最近の私は自信をなくしていた。
そんな時、直哉さんは褒めてくれた。
それだけで私はSNSの悪口なんか一切気にならなくなった。
なぜなら直哉さんは私を励ますために薄っぺらい褒め言葉を並べたのではなく、本心で私のことを褒めてくれたから。
その中で1番嬉しかった言葉は『スノーフェアリーのお荷物だと思ったことは1度もない』と言ってくれたこと。
その言葉に私は救われた。
「それに彩音さんより可愛いって……っ!」
同性の私から見ても可愛い彩音さんよりも可愛いと褒められたこと。
その言葉を思い出すだけで顔がどんどん赤くなる。
「やっぱり直哉さんは優しい方でした」
彩音さんから直哉さんのことはたくさん聞いており、彩音さんが直哉さんのことを信頼し、尊敬していることがよく分かった。
そんな話を聞いてるうちに一人っ子の私は『こんなお兄ちゃんが欲しい』と何度も思った。
実際、会うと想像以上にカッコよく、聞いていた通りの人だった。
「いいなぁ、彩音さん。私も直哉さんの妹になりたいです」
そう呟いた時、胸の辺りが“チクリ”とする。
それが『ただの妹でいいのか』と言っているように思えた。
「妹で問題ありません。私が直哉さんとその……こ、恋人になるなんて烏滸がましいので。って、まるで私が直哉さんに恋をしているみたいですね」
たった数分話しただけで恋に堕ちるなんてあり得ないので、今直哉さんに抱いている感情は恋ではない。
そう思うが何故か心の奥底では『直哉さんのことをもっと知りたい』、『もっと直哉さんとお話ししたい』と思うようになっていた。
「ううん、これは恋ではありません。きっと彩音さんが直哉さんに対して想っている気持ちと同じです」
そう思うと再び胸の辺りに痛みが走るが、私は気にしないようにする。
「飲み物を買うのに時間をかけ過ぎていたら心配されますね。でも……どんな顔して直哉さんと会えば良いのでしょうか?」
今、直哉さんの顔を見たら絶対直視できない自信がある。
そのため一向に自動販売機の前から動けない。
結局、直哉さんと彩音さんが呼びに来るまで、私は自動販売機の前で悩み続けた。
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