第2話 プロローグ 2

(なんで俺の名前がトレンド1位になってんのぉぉぉ!!!)


 俺は心の中で叫ぶ。


「おぉー!お兄ちゃん関連のコメントがどんどん投稿されるね!えーっと……『イケメンすぎて死ねる』『直哉様と呼ばせてください』『直哉くんを見てるだけでご飯3杯はいける』だって!」

「そんなにイケメンかなぁ」

「目元が隠れるくらい長い髪を結んだらイケメンだよ!それこそ芸能界で活躍できるくらい!」


 俺自身、芸能界への誘いを何度も受けたことがあるため、自分の顔はカッコいいと思っている。

 だが芸能界で活躍できるほどカッコいいとは思っていないため、全て断っていた。


 ちなみに俺の前髪が目元まで長い理由はスカウトマンからの誘いを受けないようにするためと、女の子からの告白を受けないようにするため。

 俺の中身ではなく外見が好きだと言って告白する人が後を絶たなかったため、彩音の助言を受け髪を伸ばして生活するようになった。


「昔、女の子からたくさん告白されてたでしょ?お兄ちゃんのルックスは女子生徒全員が告白したくなるくらいカッコいいの。だからトレンド1位になったんだよ」

「な、なるほど」


 自分がカッコいいとは思っていたが想像以上だったようだ。


「昔告白されまくってたから『俺って実は滅茶苦茶イケメンなのでは?』と自惚れそうになってたんだが、自惚れていいんだな?」

「そうだよ!自信持って!」


 そう言って彩音が笑う。

 どうやら俺のルックスはトレンド1位になるくらい超絶イケメンだったようだ。


 そんな会話をしていると…


「無事、収束したな。お疲れ様、2人とも」


 との声がかかる。


「山野社長、今回はご迷惑をおかけしました」


 彩音が話しかけてきた女性に対して頭を下げる。

 それに倣い、俺も頭を下げる。


 この女性は山野葵といい、彩音が所属する事務所の社長だ。

 黒髪を腰まで伸ばした美女で、40歳間近とは思えないほどの美貌を持っている。


「2人とも何も悪いことなんかしてないんだから謝らなくていいぞ……ってこの言葉、何回言わせるんだ?」

「「す、すみません」」


 そう言って俺たちは頭を上げる。


「社長の素早い対応のおかげで早急に収束しました。本当にありがとうございました」

「これくらい社長として当たり前のことだ。それよりスキャンダルのせいで昨日今日は仕事できなかったからな。明日からは頑張れる範囲で頑張ってもらうぞ」

「はいっ!」


 彩音が元気に返事をする。

 その様子を見た俺は仕事関係の話をすると思い退席することにする。


「では俺は先に控え室に戻ります」


 そう言って控え室へ戻ろうとすると…


「あ、直哉くん。ちょっといいか?」


 と、社長から呼び止められたため社長の方を見る。


「なんでしょうか?」

「もしよかったらウチの事務所から芸能界デビューしてみないか?」

「……ありがたいお話ですが今回も断らせていただきます」


 今回のように社長からは度々芸能界デビューのお誘いを受けていた。

 しかし俺は芸能界で活躍できるほどのルックスではないと思い込んでいたため断り続けていた。

 実は活躍できるルックスであると彩音から言われたが、今は彩音を応援するだけで満足してるため、断らせてもらう。


「何故だ?何度も言っているが直哉くんのルックスなら絶対芸能界で活躍できるぞ。性格面も問題ないからな。それにSNSでは直哉くんの芸能界デビューを待ち望んでいる人たちが多い。だから芸能界デビューしても活躍できるぞ」

「それはそうなのですが……」


 俺の顔が超絶イケメンであることは理解したし、今デビューすれば活躍できる可能性は高い。

 なので断る理由はないのだが、俺は彩音を応援するだけで満足している。


「もしかして芸能界に興味がないのか?」

「いえ、芸能界には興味あります。正直、昔は彩音のように活躍したいと思ってました。ですが俺は彩音を応援するだけで満足してます。なので俺はデビューしません」

「そうか……」


 残念そうに社長が引き下がる。

 すると今まで黙っていた彩音が「お兄ちゃん!」と声をあげる。


「ど、どうした?」

「あのね、お兄ちゃん。実は私、今まで言わなかったけどお兄ちゃんが芸能界で活躍する姿が見たいってずっと思ってたんだ」

「そ、そうなのか?」


 俺の問いかけに彩音が頷く。


「お兄ちゃんが私のことを応援してくれるように、私もお兄ちゃんを応援したいってずっと思ってた。でも芸能界で活躍できる人が一握りということは理解してた。だからお兄ちゃんを誘えなかったの」

「そうだったのか……」


 妹の心境を聞き、自分の考えが揺らぐ。


「お兄ちゃんも昔は芸能界で活躍したいって思ってたんだよね?」

「あぁ。俺も昔は彩音や母さんのように活躍したいと思ってた」


 俺と彩音は大人気アイドルだった母さんの影響で幼少期から芸能界に興味を持っていた。

 その影響を受け、彩音は母さんと同じ大人気アイドルを目指して小さい頃から努力していた。

 対する俺は芸能界で活躍できる自信がなかったためデビューを諦め、彩音を応援することに決めた。


「彩音は俺のデビューを望むのか……」

「うん。お兄ちゃんと一緒に頑張りたいんだ。ダメかな?」


 彩音が不安そうな顔で聞いてくる。

 昔は『俺なんてデビューしても活躍できない』と思っていたが、どうやら俺は活躍できるほどのルックスをしており、SNS上では俺のデビューを心待ちにしている人がたくさんいるらしい。


(昔は母さんみたいにテレビに出て活躍したい、芸能界で頑張りたいと思っていたからな。19歳と少し遅いがデビューしてみるか。それに可愛い妹のお願いだからな。叶えてやるのがお兄ちゃんの役目だろ)


 デビューを断る理由はなくなり、デビューした際は応援してくれる人までいる。

 それに彩音は俺のデビューを望んでいるんだ。

 この状況下で断る理由はない。


「分かりました。俺、芸能界で頑張ってみようと思います」

「本当か!?」


 俺の言葉に社長が嬉しそうな声を出す。


「はい。至らぬところは多いと思いますが、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく頼む!」


 こうして俺の芸能界デビューが決まった。

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