アイドルである妹とのツーショット写真がSNSで拡散されたら、俺の名前がトレンド1位になりました。理由は不明です。

昼寝部

プロローグ

第1話 プロローグ 1

「彩音さん、この写真に映る男は誰ですか?」

「私のお兄ちゃんです!」

「映っている男性はとてもカッコいいので、SNS上ではホストで働いている方と噂されております。本当に彩音さんのお兄さんですか?」

「私のお兄ちゃんは大学に通ってる学生です!ホストで働いてません!」


 俺の妹である鶴崎彩音が、たくさんのカメラの前で会見を開いている。

 その様子を彩音の兄である俺、鶴崎直哉はステージ裏から眺めていた。


(くそっ!こんな時に俺は見てるだけなのか!俺のせいで彩音がヒドイ目に遭ってるのに!)


 今回、彩音が会見を開くことになった理由は、俺と彩音が遊びに行った時の様子を誰かに撮られ、その写真がSNSで拡散されたから。

 それくらいなら会見を開かずSNSや配信で「お相手はお兄ちゃんです」と言うだけで収拾がつく。

 しかし、盗撮された写真が俺と彩音が手を繋いでいる写真だったので、兄妹ではなく彼氏ではないか?とSNSで盛り上がった。

 それに加え、俺の妹は大人気アイドルグループ『スノーフェアリー』のメンバーで、彩音が出る番組は全て高視聴率を叩き出すほどの有名人だ。

 SNSや配信での説明だけでは納得してくれる人が少ないということになり、たくさんの報道陣を前に会見を開くこととなった。


(この状況を作った原因は俺だ。なのに俺は見てるだけなのか……)


 今もなお記者からの質問に「お兄ちゃんです!」と返答し続けているが、彩音への質問攻めがなくなる気配はない。


(っ!見てるだけなんてダメだ!俺は彩音のお兄ちゃんだろ!)


 俺は自分の頬を“バシッ!”と叩き、ポケットに入れていたヘアゴムを取り出す。

 そして髪を結び、彩音と映っていた男性へと容姿を変える。


(よしっ!)


 心の中で気合を入れた俺は、靴音を立てながら彩音のもとへ向かう。


「お、おい!あれって!」

「写真に写ってる男だ!」


 俺の登場に気づいた瞬間、大量のフラッシュとともにシャッター音が鳴り響く。

 俺はそれを気にすることなく彩音の前に立つ。


「ごめんな、彩音。俺のせいで……」

「お兄ちゃん……」


 俺の登場に今にも泣きそうな顔から安堵の表情となる。


「あとは任せろ」


 俺は彩音の頭に“ぽんっ”と手を置き、マイクを持つ。


「初めまして。俺の名前は鶴崎直哉。彩音と一緒に写っている写真の男です」


 簡単に自己紹介をしつつ、SNSで出回っている写真の男であることを伝える。


「まずは俺のせいで彩音のファンには多大なるご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ございませんでした」


 俺は報道陣の前に頭を下げる。

 その間、無数のシャッター音が響き渡る。

 数秒ほど頭を下げた俺はマイクを握り直し口を開く。


「ですが安心してください。俺と彩音の間にやましいことは何一つありません。なぜなら俺は彩音の兄貴だからです」


 散々彩音が言ってきたことを俺も伝える。


「それを証明することはできますか?」

「今ここで証明することは無理です。なので探偵でも雇って好きなだけ俺のことを調べてください。彩音とは血の繋がった兄妹であることが証明されると思いますので」


 ここで変に返答を詰まらせると怪しまれるため、堂々と答える。

 その後は俺に対していくつか質問されたが全て嘘偽りなく答える。

 そして数十分にわたる質問の嵐が終わり、ようやく記者たちからの質問がなくなった。

 そのタイミングで司会者を務めていた女性が口を開く。


「これにて鶴崎彩音の会見を終了させていただきます。本日はお集まりいただきありがとうございました」


 との言葉をもって、彩音の会見が終了した。




 会見が終わりステージ裏へと移動した俺に彩音が話しかける。


「お兄ちゃん、ありがと!」

「これくらい気にするな。俺は彩音の兄貴だからな。それに俺のせいでもあるから」


 先程まで泣きそうな顔をしていたとは思えないほど可愛い笑顔を彩音が見せる。


 鶴崎彩音。


 俺の一つ年下で現在高校3年生。

 大人気アイドルグループ『スノーフェアリー』のメンバーで、老若男女問わず絶大な人気を誇っているアイドルだ。

 茶髪の髪をツーサイドアップに結んだ美少女で、歌や踊りは100年に1度の逸材とまで言われており、彩音のことを知らない日本人はいないくらいの有名人だ。


「これでスキャンダルは収束すると思うが……どうだ?」

「うん!バッチリだよ!今の会見をリアルタイムで視聴してた人たちのコメントを見る限り、私のお兄ちゃんとして認識されたよ!」

「そうか」


 スマホを触ってSNSをチェックした彩音の言葉に一安心する。


(出しゃばって収束しないとなれば目も当てられないからな)


「お兄ちゃんの説明のおかげだね。懇切丁寧に対応してくれたから皆んな納得したみたいだよ」


 そう言って彩音が俺にスマホを見せる。


 そこには…


〈良かったぁ!彩音ちゃんの彼氏じゃなくて!〉

〈写真の男が彩音ちゃんの彼氏だったら鬱になって自殺してたわ〉

〈彩音ちゃんの兄貴かー!血も繋がってるみたいだし良かったぜ!〉


 等々、俺の説明に納得してくれたファンが沢山のコメントをしていた。

 そのことに安堵しつつコメントを流し見していると、気になるコメントをたくさん見つけた。


〈ちょっ!彩音ちゃんのお兄さん、めっちゃイケメンなんだけど!〉

〈お兄さん、イケメンすぎてヤバい!直視できないくらいのイケメン!〉

〈芸能界で働いてないのが謎なくらいのイケメン!デビューしたら絶対売れるのに!というか私が全財産注ぎ込んで応援する!〉

〈今活躍してる男性アイドルたちが霞んで見えるほどのイケメンだったんだけど!誰か直哉くんを芸能界デビューさせてぇぇぇ!!!〉


 等々、何故か俺の名前が度々見られた。


「……なぁ。なんで俺まで注目されてんだ?」

「お兄ちゃんのカッコ良さに皆んな魅了されたんだね。芸能界デビューしてというコメントがたくさんあるよ」

「……マジかよ」


 まさかの現象に絶句する。

 そんな俺を他所に彩音はスマホを触り、とある画面を見せる。

 そこには俺の名前がトレンド1位になっている画面が映し出されていた。


「お兄ちゃんの名前、トレンド1位だね!おめでとー!」

「………」


(なんで俺の名前がトレンド1位になってんのぉぉぉ!!!)


 俺は心の中で叫んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る