後日談 聖獣マシロ編


「はい、マシロ様。

今日はかなり頑張ったと聞きましたので、唐揚げを作りますよぉ」


と、獣人族の長の嫁であるラブが、夕食のおかずに唐揚げを出してくれるというので、


「ありがとう。ラブ…」


と礼を述べると、ラブは、


「本当にマシロ様は、ここ数年で言葉が上手になられましたね。」


と誉めてくれるが、俺は、


「サスガに、喋れないのが俺だけで、ラブの息子にまで負けたままでは、クヤシイから…」


となかなかの長文で返してやった。


すると、里の外から、


「母上ぇぇぇ!

凄いんだよ、父上が猪魔物を素手で倒したんだよ」


と長夫婦の息子であるカイが、楽しげに走ってくる。


その後ろからカイの父親である里長のシバが、


「こら、あんまり走ると転ぶぞ」


と、七歳になる息子を気遣いながら猪を担いで里に戻ってきた。


そして里の集会場にいる俺に気が付いたカイは、


「あっ、マシロ様!

最近小さいままだから気が付かなかったよ…今日の勉強終わったの?

遊ぼうよ!!」


と俺に駆け寄る。


俺は、


「小さいままをキープ、してると、変身で人になる時の訓練になると、母の手紙に書いてアったから、チャチャからのめいれいで里で、大きいのキンシ…」


と伝えると、カイは、


「マシロ様は、人にならなくても小さくなれただけで、ご飯も少なくて良いし、大丈夫なのにね。」


と、優しい事を言ってくれるのだが、集会場の脇に猪魔物を降ろした里長のシバが、


「それでは我々獣人族…特にカイの様にこちらで生まれた子供達が、我々の持ち味となる種族スキルの身体強化が使えないんだ。

こちらの世界では神様として祈りの力を集めるのには人としての姿が必要で、これはこちらの神様がお決めになったルールなのだよ。

だからマシロ様が、自由に人の姿になれて、我々の守護神となった時に、神々が与えられるスキルに身体強化が追加されるんだよ」


と、息子に説明しているが、俺には何とも耳が痛い話だ…

こちらの世界にも身体強化のスキルっぽいのはあるが、腕力、脚力等と部位を指定した強化スキルであり、

かたや獣人族の固有スキルの身体強化は、好きな場所に魔力を集めて飛躍的に身体機能を強化できる獣人の個性の様な能力である。


そんな重要スキルをカイに与えられないのは、勿論俺の不甲斐なさからである…


『ごめんよ…カイ…』


と目一杯小さくなっているハズなのに、更に小さくなって縮こまる俺に、カイは、


「マシロ様は頑張ってるし、僕は、ルヴァンシュ様が頑張って、いっぱいスキルの詰まった職業スキルっていうのをくれたんだって、チャチャ様が言ってたよ」


と、俺を庇いながら撫でてくれているのが心苦しい…


早く人化というスキルをモノにしなければ…このスキルは高位の魔物などが、後天的に勝ち取れるスキルなのだが、習得にはかなりの年月を必要とする。


まぁ、それは魔物が人間を鮮明にイメージしたりするのに人間自体にふれあう機会が少ないからである…

少し前にチャチャが、


「人間をしっかりと解らないと!!」


とか言って、ローブを脱いで、


「好きなだけ触って確かめてみて」


と言ってきたのだが、あの時はビビって元の大きさに戻って、益々裸の生け贄を襲う獣のような構図になり、祠の洞窟だったからまだ良かったが、里にある俺の小屋だったと考えたら…


裸のチャチャには、


「父上は人間だし、母上は四六時中人化してたし、人間のイメージは大丈夫だよ!早く服を着て!!」


と慌ててツッコんだ…といっても違うよ!言葉でツッコんだだけだからね!!


しかし、慌ててた俺は、前の世界の言葉で叫んでいたらしく、前の世界の言葉の解る獣人族が、何か有ったと、身体強化をフルパワーにして駆けつけたのだが、洞窟の奥で裸のチャチャと興奮している俺を見て前の世界の言葉で、


「ごゆっくりー。」


と言われたのだった…


チャチャは知らない言葉に裸のままでポカンとしているし、何とかしなければ!と、必死になった俺は、あの日、生まれて初めて人の姿になりチャチャにローブを被せたのだったが、チャチャに、


「マシロ様も裸だね。」


と微笑まれた瞬間に、集中が切れたのかパニックになったのか、頑張ってイメージしたのに、一般的な狼のサイズだったが元の姿に戻ってしまった。


そして、それっきり人化は出来ていない…


チャチャは、


「後は、奥の祠で祈れば第一段階クリアだったのに…もう一回脱ごうか?」


と、からかってくる…

チャチャも頬を染めて恥ずかしいなら、ワザワザそんなイジリ方をしなければ良いのに…

本当に心臓に悪い…


母の様に神獣から人になっても魔力を操作して服が作れるのは、いったい、いつの日だろう…先は長いよ…



そんな日々を過ごしたある日、友が遠方からワザワザ会いに来てくれたのだが、キース君とシーナちゃんは解るが、里からダンジョン都市に行かせていた薬草取りの名人であるシュウが、フードを深々と被った女性と一緒に里まで来たのだ。


この里は、神々に縁の者か、獣人族しか入ってはいけないルールを教会の方々が決めて守られている聖地…


『あの女性は?』


と、首を傾げていると、キース君が、


「マシロ様、どう?調子は??」


と聞かれ、俺は、


「人の姿で5分は保てるよ…

神々に祈りを捧げたのだが、次の段階の、聖都の教会で人々の前に出て式典をして初めて神様としてのポイントが加算され始めるらしいからね…

二時間ぐらいは変身しておける様にと神々にも言われたよ…」


と答えるとキース君もシーナちゃんも、俺の言葉が上達した事に驚いていた。


すると、キース君が、


「マシロ様、ちょっと質問だけど、獣人族とこっちの人間が結婚してもいいの?」


と聞いてくるので、俺は、あちらにいるシュウと女性をチラリと見て理解した。


だから、


「結婚だって子作りだってガンガンやってくれ、あと一年もすれば完璧に俺が神様として教会に像が並ぶから、祈ってくれる獣人が増えるのは大歓迎だよ。」


とシュウに聞こえる様に言ってやると、シュウはペコリと頭を下げて、隣の女性は恥ずかしそうにしていた。


キース君に、


「あの女性は誰なんだい?顔も見えない程深くフードを被っているけど…」


と聞くと、彼は、


「あぁ、シュウさんとウチの錬金研究所で働いてくれているエリスさんだけど、ポーション一筋で男性はおろか、あまり人にも関わって来なかったんだけど、シュウさんと薬草の話で盛り上がって仲良くなってね…

でも、彼女って滅茶苦茶美人なんだよ」


と俺に報告した所でシーナちゃんにツネられていた。


シーナちゃんは俺に、


「ところで、質問なんですが、獣人族と人間族の間の子供って…」


と心配そうに聞くので、


「大丈夫、大丈夫、俺がいた世界でも色んな人種が居たから、父親似や、母親似はあるけど、体毛薄めの元気なケモミミや、身体能力の高い人族っぽい子供が生まれるよ。

今は犬系の獣人が多いけど、獣人同士も混血があり、一番強い因子が出るから、そのうち世界に散らばり何代かすれば猫耳やウサミミだって生まれてくるんじゃないかな?」


と俺が答えるとシーナちゃんは、


「ふーん…じゃあマシロ様はどうなの?」


と不思議そうな顔で質問してくる…


う~ん…遺伝子的には父は魔族で神様で、母は神獣だが、人の姿しか見たことが無い…俺は悩んだ末に、


「そうだな…俺に似たら狼っぽい獣人辺りかな…様々な種族の遺伝子を持つ魔族とかが相手ならば獣の要素が色濃く出てしまう可能性もあるが…まぁ、よく解らないな…」


と答えると、シーナちゃんはニヤリとして、


「祈ってくれる獣人が増えるのは大歓迎なんですよね?…マシロ様…」


と聞いてくるので、


「勿論!」


とだけ伝えると、キース君もシーナちゃんもイヤらしい笑顔で、


「だって!チャチャ!!」


というと、二人の後ろに隠れていたのかチャチャが飛び出してきて、


「私、産むわ!

マシロ様の子供、いっぱい、いっぱい産むわ!!」


と真っ赤な顔で叫んだ…


一瞬何が起きて居るのか解らない俺は知らぬまに元の大きさに戻り、チャチャを咥えて洞窟へと逃げてしまった。


しかし、そこでチャチャから結婚を申し込まれ、二人で祠に向かい神々と相談をしたのだが、


「良いんじゃない?私達も最初は神様しながら地上に居たし…問題無い、無い。」


と言われ、その後にルヴァンシュ様から散々弄られ、チャチャの一世一代の裸アタックでも気付かなかった鈍感男と呆れられた。


祠に戻り、しばらくチャチャと話した後に、友に結婚の報告をしようとしたのだが、キース君達はダンジョンを作り、


「後日、改めて娘を連れて遊びに来ます」


とだけそのダンジョンを管理するシローというスカート姿の筋肉質な男性に伝言を残して、ダンジョン内転移という機能で町に残して来たらしい娘に合う為に飛んで帰ったらしい…


嵐の様な夫婦だな…と呆れながらも、隣で笑うチャチャの為に頑張る事を誓った。

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