後日談 愛の戦士バッツ編
シルフィード王国とザムドール王国との終戦の為の会議にはアグアス王家とイグノ王家と教会の方々も出席する事になり、
シルフィード王国の軍務卿の手引きが有ったとはいえ、実際に先に手を出したのも、最終的にシルフィード王国側の反乱軍を使い攻め込むというアイデアを閃いて、
「シルフィード王家を倒そう!」
と、そそのかしたのはザムドールの軍務卿達だったらしく、会議の流れとしては大変ザムドール側に厳しい事になっていた。
自国のラースト軍務卿に振り回されていたシルフィードも悪いが、ザムドールは自国の軍務卿を野放しにして、こんな状態になるまで全く把握していなかったらしいので、ザムドール王家の罪は相当なものである。
アグアス王国側からは、難民が流れて来て迷惑をしていた時にシルフィード王国からは聖人キース様の派遣などが有ったが、ザムドール王国からは謝罪の一つすら無かったと責められ、
イグノ王家は、
「今回、国をあげて支持する聖人キース様に軍を差し向けた時点で我が国の敵も同然!!」
と怒り、
そして教会からは、もう云うまでもなくケチョンケチョンに叱られて、少し見ていてザムドールの国王様が気の毒に思える程だった。
自分は、ベッキー様の護衛騎士隊であるが、今回の会議のやり取りを自分の記録スキルでしっかりと見て覚える業務と合わせて、戦地になった軍務卿の町であるラースト…いや旧ラーストの町にシーナ様をお連れしてジャルダン伯爵…いや、もう昔の様にキース君と呼ぶように言われていたのだったな…
まぁ、彼に愛しの妻をお連れするという重要任務についている。
そして、もう一つ大事なことが…そう、自分の事を好きと言ってくれるハーメリア嬢の件をハッキリ筋を通す為に、ザムドール王国側の方々と話し合いに来たのである。
数日におよぶ会議の最中、キース君がザムドール王国の方々との話し合いの時間をとってくれたのだが、コレが一国の王様かと思うぐらいにやつれた男性が、キース君に土下座をする勢いで頭を下げ、
「聖人殿…誠に申し訳ない…
各国の王家や教会の大司教などより聖人殿の偉業と合わせて、お父上や兄上殿を…知らぬ事…いや、私がしっかりしておれば…」
と詫びている。
直接では無いにしろキース君の家族を殺めた要因である事は確かだが、キース君はザムドール王に向かって、
「もう、そういうのは要りませんから未来の話をしましょう」
と、さらりと許した。
キース君は、
「悪さを考えた奴や、悪さをした奴とは未来の話は出来ないかもしれませんが、悪さを気付けなかっただけならば、次の教訓にすれば良い…ただ、次も気付かない様な事が無いようにお願いします」
とだけ伝えて本題に入ってくれた。
キース君は、一般の騎士である自分とハーメリア嬢をザムドール王に紹介するが、ザムドール側にハーメリア嬢に気が付く貴族は居らず、
『もう、放っておいてサイラスの町で二人で暮らそうかな?』
などと自分は、緊張していた事が馬鹿みたいに思っている時に、ハーメリア嬢が、
「陛下…ザムドール王国、マール男爵が娘、ハーメリア・ド・マールに御座います」
と挨拶すると、シルフィード王国…というか聖人様サイドから自国の人間が現れた事にザムドール側の人間がざわめいていた。
ハーメリア嬢のお父上は、ザムドール側の軍務卿に停戦をして話し合いを持つ事を薦める派閥の一人だったらしく、キース君の能力で地下に投獄されているこの戦争の首謀者から、シルフィード王国の影の一族が丁寧な事情聴取をした結果、もう余罪が出るわ出るわで、
マール男爵領は敵国を装った自国の軍務卿派閥の兵士に何の準備もないまま踏み荒らされ、国民を逃がす時間を稼ぐ事がやっとな状態で壊滅したという…
そのことも既に報告が入っているザムドール国王陛下は配下に、
「マール男爵領は現在?」
と聞くと、
「以前の報告では、シルフィード王国軍に急襲され、援軍の到着を待たずに男爵と奥方に長男も討たれ、屋敷から金品も…」
と配下の方が報告するのだが…
『ハーメリア嬢には聞かせたく無かった。』
と後悔しながら自分は、彼女に、
「大丈夫かい?」
と聞くと、彼女は決心した目で自分を真っ直ぐ見つめてゆっくり頷くと、ザムドール王に向かい、
「陛下、私は…家族の犠牲のおかげでアグアスのフォルの町を目指して、数名の兵士と共に領民を守り移動し…そして、私達はそこでゴブリンの群れに襲われ数ヶ月…そんな地獄から私を助けて下さった聖人様の護衛騎士であるバッツ様の元に嫁ぎたいと考えております」
と発表するので、自分も
「お願いします!!」
と頭を下げると、ザムドール側の方々は、ゴブリンの下りを聞いて哀れみの視線をハーメリア嬢に送ったり、ただただ驚いたりしているのだが、キース君やナッツ君が声も出さずに親指を立ててニヤニヤして、ハーメリア嬢と自分の頑張りを称えてくれていた。
そんな事があり、自分…いや私と妻ハーメリアの結婚は許されたのだが…
あの会議から数年経ち、私の生活はガラリと変わってしまったのだった。
「マール伯爵様、ダンジョン都市より荷物とお手紙が…」
とザムドール王家から来てくれた執事が私を呼ぶ…
そうなのだ、ザムドール王家が私とハーメリアの結婚を認めてくれたのだが、あの戦争で大量に貴族が減り、領地を踏み荒らされた貴族達は、戦地で無かったザムドール中央で今回処罰され取り潰された貴族の領地に領地替えを希望する貴族もあり、シルフィード王国との国境付近にゴッソリ空き地ができてしまったので、ハーメリアをマール男爵領当主にして…
との案が出たのだが、私がキース君と昔から知り合いだという事を知ったザムドール王家が、キース君とシルフィード王国との窓口として、私とハーメリアの二人を…と、何とも貴族的な計算をはじめたので、ハーメリアは国に帰るのを拒否して、あくまでも私に嫁ぐので帰らない姿勢を伝えたのだが、ニヤリと笑ったキース君が、ザムドール王家に、
「私の右腕はこちらのナッツですが、私の左腕とも言うべきバッツ殿を、男爵の婿?…ですか…
彼の情報収集能力はシルフィードの宝とも言えます。
それをかっ拐うのに、恋人を理由にザムドールは…へぇ…」
と、変な圧力をかけて、聖人様に大変ご迷惑をかけたザムドール王家は、正式にシルフィード王国にお願いをして、こんな私を伯爵として荒れ果てたザムドール南部の国境付近を与えてくれたのだ。
各国に向けてザムドール王国としては、南部の国境を聖人様の左腕に任せたという状況が欲しいし、シルフィード王国からは、どちらの国にも顔が利く仲介人が居る事は国益となると送り出されたのだが…
『キース君…いつも思うが、やり過ぎだよ…』
と心の中で呟きながら届いた箱を開けると、何本かのポーションが入っており添えられた手紙には、
『バッツさん元気?
伯爵って大変でしょ??
解るよぉ~。
だからそんなバッツさんにプレゼントだよ。
赤い瓶のはダンジョンポイントで出したフルポーションで古傷や欠損部位まで治る秘密の薬です。
教会で作られるエリクサーみたいに呪いまでは無理だけど、ハーメリアさんに飲ませてあげて下さい。
シーナさんやヒッキーちゃんが、赤ちゃんが出来ないのはゴブリンが関係してるかも…って心配しているし念のためです。
真ん中の青いポーションは、五歳若返るポーションです。
バッツさんからジョルジュ様に毛生え薬と言ってコッソリ渡して下さい。
(絶対に他の人には見つからない様に。)
お世話になった方があんな頭では可哀想だからね…
最後の黒い瓶のポーションは、最近ウチの錬金研究所で作ったバッキンバッキンになる薬です。
滅茶苦茶効くので早く子供を作ってね…伯爵家が絶えちゃうよ…ではまた。』
と…
「本当にキース君はやり過ぎッスね…」
と、呟くと感謝の涙が溢れてきた…
よし、早めにジョルジュ様に会えるようにするか…
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