後日談 とある見習い錬金術師編


「お師匠様…僕で大丈夫でしょうか?」


と不安を漏らす僕に師匠は、


「グラムよ、お前さんは在学中から既にワシの過去の弟子達よりも遥かに頭が回り、努力をしておった…

多分知識ばかりのワシよりもきっとお役に立てるハズだ…自信をもて!

お主に足りない経験はこれから勝手に積まれていくし、ワシの知識など既にお前さんの乗る馬車に積んである。」


と、僕を送り出してくれた。


僕のお師匠様は、アグアス王国の錬金ギルドのグランドマスターであり、今回、アグアス国王陛下より錬金術師のダンジョン都市への技術指導という形で、お師匠様が呼ばれたのだが、


「ワシも歳だし、カッパス子爵殿よりの手紙で、新たな魔道具…それも簡易アイテムボックスとも言えるマジックバッグなどの制作の為に各国の技術を学びたいと…

しかし、聞けば既に試作品を作り出しておりむしろ此方が学ぶ事が多いと思われる。

ならば、頭の硬い老いぼれがでしゃばるよりも、頭の柔らかい若者を行かせるべきです。

ワシの研究資料の写しは全て持たせますので…」


と、僕を推薦してくれたのだ。


ダンジョン都市のジャルダンの町には、各国の錬金術師が集められて、聖人様の研究のお手伝いをするのだ…


やっと…やっと、あの時の恩返しが出来る!


ゴブリン達に母と姉が連れ去られ、すがる思いで貴族の方に助けを求めようと、僕達のようにザムドールから流れて来た難民を助けてくれているカッパス様ならと門のところで騒いでいた僕の為に動いて下さったのはカッパス様と聖人様であるジャルダン様達だった…


無事に母と姉と、既に拐われていた女性を助けだされ、それだけではなく、その後も神の御業の様な力を使い僕達難民を助けてくれただけでは無くて、ジャルダン商会の職員さんが勉強を教えてくれた上に、魔法は使えない僕に、


「君は物覚えが良いし、手先も器用だから錬金術を学びにサルテの町の魔法学校に行ってみないか?」


と薦めてくれたのだった。


しかも、その学校に通える為に聖人様が住む場所から全て用意してくれており、来年の夏前の入学式に間に合う様にと、カッパス様が馬車まで出して下さったのだ。


普通であればそれだけでも有難いことだが、母と姉もサルテのジャルダン商会に雇ってもらい、母は、僕の様に学校に通う子供達の食事をその子供の親の方々と作る仕事に就いて、姉も商会の見習いとして働く事になったのだ…

戦争で父も家も何もかも失い、逃げた先で母と姉を失う所を助けられただけでは無くて僕や家族の人生まで救って頂いた事に感謝し、必死で勉強していると、学校の講師に来ていたお師匠様に認められ在学中から弟子としてアトリエに入れてもらい、他の学生より沢山の経験ができた。


母や姉からは、いつかはご恩返しをと言われていたが、まさか、こんなに早くチャンスが巡ってくるとは…

僕の人生は、どん底だったあの日、聖人様と出会ってから幸運に恵まれた人生へと変わった…いや、変えて頂いたのだ…

母と姉に、


「命の限り頑張ってきます。」


というと、母と姉は、


「お昼寝聖人様のお役に立ってくるんだよ」


と、僕を送り出してくれた。


国が出してくれた馬車に乗ること約2ヶ月程でダンジョン都市と呼ばれる何処の国にも属さない立派な町に到着した。


しかし、僕はここに到着するまでに寄ったフォルの町でカッパス様に今回の派遣の報告と今までの御礼を述べた時に見せてもらったカバン型の魔道具を隅々まで確認して完璧に自信を無くしていた…


「本当に僕で大丈夫だろうか…」


と、呟く僕の隣では、ザムドールから来たというポーション作りの名人と呼ばれ錬金術師の教科書にも名前が出ているアマンダ様の弟子の女性がフードを深々と被り怯えており、その向こうでは、


「知恵の妖精ヒッキー様…」


とボロ泣きしているシルフィードの錬金術師のおじさんに、


「国王陛下に酒を何とか出来る魔道具をと言われて…」


と一番奥の聖都から来たという薬草のプロというフードを深々と被った男性に、何やら愚痴をこぼしているイグノ王国の錬金術師のおじさんと…


「果たして僕はこのメンバーと上手くやって行けるのだろうか…」


と益々不安になっている僕の前には、あの頃と殆ど変わらない聖人様が、あの時の勇ましいのに美しい許嫁…いや、今は奥方様かな?…が並んでいる。


その隣にいる僕より少し小さい姉弟は、どうやらお子さんという訳では無さそうだが、シルフィードの錬金術師さんは知り合いのようで、


「姿形は違えども、私には解ります!

えぇ、解りますともヒッキーさまぁぁぁぁぁ!!」


と、すがる様に泣いている…


簡単な自己紹介を済ませたのだが、聖都ダリアからの薬草のプロとは、異世界から来たという、僕も教会の影絵劇でしか知らなかった獣人の方だったのだが、そんな事なんてぶっ飛ぶぐらいに、キース様が、


「いやね、色々作りたい物が有るんだけど、この世界にどんな技術が有るかとか、どんな事が今後出来るかを知りたいのと、すぐに欲しい物が幾つか有ってね、ダンジョンポイントってモノを使って無理やり生み出す方法も有るんだけど、出来ればこの世界の技術で作りたいんだよね…」


と言いながら、キース様は僕達に甘いお菓子を配ったあと、


「この世界に欲しいモノの説明の始まりはじまりぃぃぃぃ!」


と絵を見せながら説明してくれたのだが、奥方様も何やら楽器を「ぱふぉぱふぉっ」っと鳴らしていた…

キース様は、


「あっ、これ紙芝居っていって…皆お菓子食べながら聞いて良いんだよ…」


と言ってから、即効性の毒消しポーションの開発、

念話スキルを使って映像を届ける技術の開発、

魔力は有るが魔法が使えない人が使える魔法アイテムの開発の3つの開発の為に力を貸して欲しいとの事であった。


その他色々とあるらしいが、「今はこの3つで…」みたいな事を言っていたのだが、説明を聞いてやる気をだす他のメンバーを見て、益々不安に押し潰されそうになった僕に、キース様は、


「グラム君だったっけ?

さっきカッパスさんからの手紙を読んでビックリしたよ…

あの時の男の子だってね。

…もう何年だ??」


というので僕が、


「はい、七年…いや、もうすぐ八年になります。」


と答えると、キース様は、


「うへっ…もうそんなにか…」


と、奥様と「早いねぇ~」などと話されているのだが、どう見てもあの時の僕の知る英雄の姿そのもののお二人に、恐る恐る、


「あの~、お二人は八年前と…」


と聞く僕に、キース様は、


「そうなんだよ…この仕事を始めたら歳を取らなくなってね…せめて中身は成長させたくって、今回皆に錬金術師の知識を教えて欲しくてね。

そうだ、カッパスさんの手紙に有ったけど、お師匠様の研究資料の写しと、錬金術師の極秘の資料集も持ってきてくれたんでしょ?

読みたい読みたい!!」


と興奮されている。


母さん、姉さん…僕、頑張ってみますが、初日から何だか、めまいがしています…

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