後日談 細工職人のグレイ編


ジャルダン村は村長が戦地にて神様の使徒になり、ヒッキーさんやボッチさんが消えた日に大きく変わった…

お二人が消える前に、村の事はホークス様に託し、戦える者はセーニャへと転移する事となった。


ホークス様よりシーナ様やセラさんにも危険が有るかも知れないと、武装した村人はセーニャへと飛ぶのだが、セーニャの御屋敷でヒッキー様から、


「これが最後の転移になります。

帰りは馬車になりますので、追加で馬車は飛ばしますが、そちらで馬の購入はヨロシクお願いします。

…では、皆様…ベッキーちゃんを頼みました。」


と言ってそれっきりヒッキー様は現れなくなった。


セーニャの御屋敷で数日過ごしていると、どうやら大変な事が起こるかも知れないと、お城のベッキー様の警備も兼ねて王都に待機していたシーナ様と合流する為に執事のトムさんの采配で、村人達は兵士や騎士が戦地に向かい手薄な王城…というかヒッキー様に頼まれた様に、ベッキー様の私兵となりお守りするべく馳せ参じた。


しかし、ベッキー様もシーナ様も私に、


「セラさんと一緒に行動してください。」


と言われ、その時は内緒でお付き合いしていたはずのセラさんとの仲を既に皆に知られていたらしくニヤニヤと送り出されたのだった。


それから城の守りを固める為に城に来た翌日には、教会の神官長様がフードを深々と被ったお供をぞろぞろ連れて王子殿下やベッキー様に、謁見されたのだが、なんでも巫女様からの神託か何かで、やはり敵が城に押し寄せるとの事らしく、助っ人を連れて来られたのだが、彼らはなんと異世界から流れ着いたという獣の様な特徴を持つ種族と、その守護聖獣様のマシロ様という立派な狼だった。


シーナ様は彼らをご存知の様で、怯える殿下や兵士達に、


「神々からの援軍です。

彼らは言葉も話せますし、あのモフモフは良いモフモフの方々です」


と説明すると、フードを取った獣人族の長は、


「はじめまして王子殿下…それに皆様…」


と少しつまりながらも、自己紹介をしてくれた。


なんでも彼らは住んでいた村ごと飛ばされてきたそうで、言葉を覚える為に聖地ダリアの奥に隠れ住んでいたらしく、もう数年前から、この世界に溶け込む為に努力していたらしい。


しかし、何故か一緒に彼らを守る為に来た守護聖獣様は、


「オレ、キース、トモダチ…」


みたいな感じで、意志疎通が出来るのか?…と少し不安に感じた。


しかも、守護聖獣のマシロ様は、今の大きさが本来の大きさではないらしく、後日、王都の住人を集めた説明会で、王子殿下が大人達に、襲撃の事と、中庭まで敵を引き入れて倒すので、当日、襲撃の鐘の合図で中央通りから避難する様に説明している間ずっと、小山の様な姿にもどり中庭の端で寝そべると、子供達が群がり背中を滑ったり、毛に埋もれて遊んだりしていた。


そして、ザムドール王国からの別動隊が襲撃した当日、私は親父や大工の親方達とボウガンを構えて中庭の敵を倒す部隊となったのだが…

正直、見ていられない程で、中庭の敵に城の窓や城壁の上から矢の雨が降り注ぎ、逃げようとすれば、山のごとき狼に睨まれ、獣人達に包囲され、


『城さえ落とせば!』


と突撃すれば、ベッキー様がアイテムボックスからヒョイヒョイと出したバリスタを護衛騎士隊が運用して射ち込まれ、隊列など有ったものではなく袋の鼠状態で鎮圧したのだった。


千人近くいた兵士も、城の中庭も悲惨な事になり無事に危機は去ったのだが、ジャルダン村の苦悩は始まったばかりだった。


約1ヶ月ちょっとかけて村に帰還したのだが、そこには以前の様な村長…いやジャルダン伯爵様のスキルの恩恵が失くなった、どこか寂しい僻地の村が有ったのだ。


ジャルダン伯爵様が爵位を返上され、神の使徒になったという事で、ホークス様は様々な手続きに追われ、村は以前の様に食糧も保管出来ずに、保存食の生産と貯蔵場所等に苦労していた。


皆、口々に、


「キース様が居られたら…」


と哀しむと同時に、


「こんな姿をキース様が見たら笑われる!」


と自分を鼓舞して、何とかその冬までには冬籠もりが十分出来るだけの保存食や、様々な必要素材の備蓄倉庫が完成し冬が越せた…

私はこの時、ジャルダン村は本当にキース様が居たからこそ発展したのだと心の底から理解した。


しかし、春になり国家間の交渉など、戦争がようやく本当の意味で決着を迎え、各地で復興に向けての動きがある中で、


「キース様が、町を作るらしい…」


との噂が舞い込む…

戦地となった町をまるごと、このジャルダン村の様に管理されて、神々からの仕事をそこでなさるのだそうだ…

ここで揺れたのがジャルダン村の村人の心である。


キース様より預かった畑を守る為に残る決断をした者、

キース様の為に新たなる町へと馳せ参じると決めた者…

と、再び村は働き手を失い維持が困難な状態となる。


ホークス様は会議の為にナナムルに出向いたっきりで、今は各部門の会議すら上手く機能していない。


鍜冶屋のガルさんはサイラスに戻り、代わりにお弟子さんが一人村にやってきた。

ガルさんの息子のニルさんはキース様の元へ旅立ち、

ナッツさんを追って新たな町に向かった姉エリーさんの為に、シュガーちゃんもミリンダさんも引っ越す事になり、それに合わせて、ロイド君が引っ越しサーラちゃんも…

まぁ、二人は師匠のナッツさんとバーバラさんが彼方に既に居られるので仕方ないが…

あとは、ロイド君のパーティーメンバーであるマーク君は、お兄さんのランド君がカトリちゃんと結婚して村の小麦畑と牧場を管理する重要なポジションになった事を見届け、新たなる町へと旅立ち、もう一人のメンバーのダン君も一緒に村を出る事になり、母のビビアンさんも娘のアンちゃんを連れて、新しい町のジャルダン商会の店員になる事にしたのだった。


仲良しだった石鹸チームの三人娘は、泣きながら、お互い新しい石鹸の開発を離れて居ても頑張ろう…と誓いあっていたのを今でも覚えている。


大工のハリーさん夫婦とカモイさん夫婦も店をたたみキース様の元へと向かい、親方だったキソップさんは、元セーニャのメイドだった新しい奥さんを迎えて、村で弟子の育成にはげんでくれている。


セーニャ組は新しい町の受け入れ準備が出来れば、別荘は完全にジャルダン商会の物として宿泊施設に改装して、パン屋と雑貨屋も合わせて運営をするなど、かなりバタバタがあり、数年…キース様の居る新たな町が、ダンジョン都市ジャルダンと命名されて、この村が新たに『キース村』と改名されて、ようやく村も落ち着いてきたので、


「村が落ち着いたら結婚しよう。」


と約束していたセラさんと、少し遠出をしてニンファの教会で神々に誓いの言葉を宣言したのだが…参列してくれた村人もだが、私自身、キース様のステンドグラスを見て涙を堪える事が出来なかった。


『村長…ありがとう…今、幸せです…』


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