後日談 カッパス子爵編


「弓隊が攻撃後に、槍で動きを止めて、私の魔法でトドメを刺す。」


と、指示を出すと、ここ数ヶ月で見違える様に強くなった我が騎士団が、この周辺では全く見ない大きな猪の魔物のシールドボアに向かい攻撃を開始する。


シールドボアは、正面からの攻撃には高い防御力と突進による攻撃を売りとする魔物で、四方から飛び交う矢の攻撃に翻弄されて足が止まった所で、槍兵の突撃で足を狙って今回は、


「カッパス様も強くならないと…」


と騎士団長に言われて、渋々ではあるが、キース様に作っていただいたダンジョンに…って、数ヶ月前に再会したキース様に『様』って言ってたら凄く悲しそうな顔をしてたな…

いや、だって、我らが英雄様だよ…あれから数年だけど、

『世界の為に神様からお仕事を命じられたお昼寝聖人様』の物語を各国で知らない子供は多分一人も居ないのでは無いだろうか…

そんな彼の物語の一節になんと私も出てきてしまう。


だから私の騎士団の者は、


「強くなって下さい」


と、教会で上演される影絵劇のカッパス子爵が聖人様とゴブリン村を殲滅して、人々を救い、難民を助ける為にお昼寝聖人様の使徒となる話を見た町の子供達の夢を壊さぬ様にと私をダンジョンに誘っているのだ。


「カッパス様イケます!!」


との騎士団長の合図で、私は


「我が家に受け継がれし秘術、アースランス!!」


と唱えるとシールドボアの腹の下の地面から岩の槍が天へ向けて勢いよく育ち、猪魔物を串刺しにする…


魔法学校で習った授業では、魔法適性のある者は基本的に全ての属性を操れるが、全ての魔法は威力が弱く、その中で本人が強くイメージ出来るモノや、先祖代々守った秘密の魔法…と言っても、これも『強い』とイメージ出来るようにするおまじないみたいな詠唱を挟む事で、威力を底上げする方法である。


アースランスは私のご先祖様がタケノコをイメージして作り上げた我が家の魔法であり、幼い頃より『最強』と教えられてきた、その大地の槍を腹に食らい背中から槍先を生やし、


「プィィィイィィ!!」


と鳴いたシールドボアが煙の様に『パシュン』と消えて、立派なキバ二本と肉の塊がゴロンと地面に落ちる。


すると、


「おめでとうございますカッパスさん」


と、どこからともなくキースさんの声が聞こえた…

私は何処にいるか解らない彼に向けて、


「感謝いたします。

おかげ様でフォルの町は冬を越せそうです。」


と頭を下げると、彼は、


「いいの、いいのカッパスさん、結局難民の皆も居心地の良いフォルに根を下ろしたんでしょ?

ジャルダン商会からの報告で聞いて、とりあえず新婚のウチのジローとB子の家として作ったダンジョンだし、カッパスさん達が魔物を倒してくれて、地脈の浄化をしてくれるためにダンジョンに潜ってくれたらウチにポイントが入るし…」


と、言ってくれた。


そう、この世界で二番目のダンジョンは、キースさんが難民を多く抱えた僻地の町であるフォルの食糧を心配して作ってくれた彼からの贈り物なのだ。


彼と戦った廃坑の村の坑道をダンジョンへと作り替えてくれ、新たに村を整備し直したのだが、何故か彼はこのダンジョンを『カッパス』と名付けてしまったのだ。


彼は笑いながら、


「いや、ウチのダンジョンもジャルダンって呼ばれてるし、カッパスさんとはその恥ずかしさを分かち合いたくて…」


と言っていた。


だからという訳では無いが、カッパスダンジョンの入り口の村を『聖人村』と呼ぶことにしたのだが、しかしそれではカッパスの聖人村と呼ばれると気がつき、『これはイケない!』と思い、今では、『お昼寝村』と、何とも可愛らしい名前で呼ばれている。


お昼寝聖人様の使徒カッパスにぴったりの名前だからキースさんには許してもらいたい。


現在カッパスダンジョンには五階層あり、1階は草原エリアで薬草採集とスライムなどの討伐が出来て、何故かスライムからは調味料である砂糖や塩に胡椒なんかがドロップされ、駆け出し冒険者だけでなく、難民だった子供の小遣い稼ぎにもってこいである。


2階層は林のエリアで、角ウサギのジャッカロープと飛びリスというすばしっこいリスの魔物が出てくる…

このエリアは魔物を狩ることもできるがドロップするのは小さな毛皮や肉で、それよりも重要なのが、回りに生えている木から年がら年中木の実が収穫できる事である。


木の実としても食糧に出来るがナッツオイルとしても大変重宝している。


ここまではキースさんからの贈り物みたいなもので、3階層からは実力のある者しか侵入を許可していないエリアであり、跳ね鹿や森狼がうろつく森のエリアが広がり、肉や毛皮をドロップしてくれる。


四階層になると小型の猪魔物の穴堀り猪や、アタックボアと言う少し強い猪魔物が住む深い森のエリアとなり、ここでは猪肉や毛皮と合わせて、鉄製の武器まで低確率で落とすので、武器などを作る職人が少ない我が町には大変有難いのである。


そして最後の五階層は泉が涌き出るキャンプ地と、このダンジョンのボスであるシールドボアの部屋があり、倒せば運ぶのに苦労しそうな量の肉などが手に入る。


私が、


「ではキースさん、肉がダメにならないうちに帰ります」


と言うとキースさんは、


「カッパスさん!、カッパスダンジョンをご本人のカッパスさんが初攻略したのを記念して特別に、」


と言うと、さっきまでボスであるシールドボアが居た辺りに、何やら光る図形が現れて、キースさんの配下であるジローという青年が現れた。


これが以前ジャルダン村で見たゴーレムの騎士だとは…未だに信じられないが、神の御業とは私の想像を遥かに越えるのだろう…などと考えていると、


「グランドマスターからのお祝いの品です」


と言って彼は宝箱を差し出してきた。


「グランド…マスター?」


と、知らない言葉を首を傾げながら呟くと、


「あぁ、そうだ、カッパスさん何だか俺、グランドマスターって事らしいです。

ジローがカッパスダンジョンマスターで、ウチのメインダンジョンのマスター兼、全体のダンジョンのトップも俺だって…頑張ってジロー達とダンジョンを育てて下さい。

そしたら俺が出来る事も増えるし…

まぁ、とりあえずカッパスさん宝箱を開けてみてよ。

俺達がダンジョンの奥マスタールームで頑張って作ってみた力作だよ。」


と、キースさんの楽しげな声がする。


「では早速…」と、私が宝箱を開けると肩掛けカバンが1つ入っていた…


「これは?」


とカバンを手にとり呟く私にキースさんは、


「マジックバッグだよ、見た目以上に物入るし、重さも軽減されて軽くなる上に入れた物が腐りにくい停滞の効果付きだよ。

ただ生きたモノは対象外だから生き物は見た目分の容量しか入らないよ」


と説明してくれたので、私はカバンの性能に驚きながらも、


「有り難く頂戴致します…我が家の家宝に…」


と感謝を述べるとキースさんは、


「ダメ、ダメ!

大事に倉庫とかに仕舞わないで、肉集めにジャンジャン使って下さい!!

試作品で悪い所が有ったらデザインを変えたいし、将来的には何年かかるか解らないけど、時間停止や容量の増加もしたいですからね。

カッパスさんにはテスターも兼ねて貰いますから、使い潰して耐久力とかの報告もヨロシク!

ボス戦終わりにジローを呼んだら伝言を頼めますし、もしも壊れたら、最新作と交換しますので…

ほら、試しにシールドボアの肉を入れてみてください。」


と説明してくれ、私にカバンを使う様に促す。


私は言われるがままに20キロはある肉の塊を小脇に抱えてカバンの口に近付けると肉の塊は手に納まる大きさになりカバンへと収納された…驚く私に、


「なんて顔をしてるのカッパスさん!」


と、ケタケタと笑うキースさんの声が部屋に響き、私は思わず、


「キースさんはこちらが見えておられるので?…」


と聞くとキースさんは、


「なにを今さら、カッパスさんも村で見たでしょウチの監視機能…

今は見るだけだけど、ダンジョンが育ったらその内こちらの映像を流す機能か何かが作れるだろうけどね…」


と教えてくれた。


キースさんの説明にも驚いたが、それよりも運搬用チームの肉を次から次へとカバンに詰めるが一向に満ちる事が無い…

私がキースさんに、


「このカバンはどれぐらい入るのでしょう?」


と聞けば、彼は


「馬車2台程だよ。

ヒッキーちゃんにせがまれてマジックポシェットを作った時は2樽ほどの容量だったから気合いを入れて作ったんだけど、馬車2台分がやっとこだったからさ…

そうだ、アグアスって魔道具に長けてましたよね?

書物とか、技術指導の人って派遣できませんか??」


などと言っているが、アグアスの魔道具の知識が役に立つのかすら怪しい…馬車2台分の荷物をアイテムボックススキルも無い普通の人間が持ち歩けるなど…

キースさんは前から思っていたが、新たな知識よりも、一般常識を学ぶべきなのではないだろうか…

と、我が心の友に最大限の感謝と共に、少しだけ呆れる私がいた。

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