最終話 自宅警備が出来れば十分です
この世界にダンジョンが生まれて一年が過ぎ、国同士のゴタゴタは国王陛下に任せて俺は全てから手を引く事にした。
俺は、最後にこの土地をもらい町を作りそしてダンジョンを運営している。
といっても、俺とシーナさんはダンジョンの最下層で暮らしているので町の運営は、ナッツ達に任せている。
シルフィード王国とザムドール王国との終戦協定が終わるまで預かっていた兵士達のポイントで、地下で預かっていた町を地上に戻してベースにして軽く整備したあとは、ダンジョンの奥で色々と試して過ごしている。
一階層は地上の町で、住民からダンジョンポイントを回収する為のエリアであり、
二階層は草原で、薬草とジャッカロープの初心者エリア、
三階層は森エリアで、キノコが採集出来て跳ね鹿などの定番エリアとして冒険者を育て、
四階層から肉食の小型魔物を配置し、
五階層を一旦の最下層としてボス部屋と地上への転移陣を設置してある。
難易度はCランク冒険者ならばソロでもクリア出来る様にして、何年かすれば下の階層への階段を解放して、徐々に難易度を上げ、ダンジョンポイントで出したマジックアイテムやスキルスクロールというスキルが覚えれる巻物を世界に普及させる計画である。
冒険者達のチャレンジ精神を刺激して、ダンジョンでの浄化作用を加速させていきたい…
俺的にはどうでも良い話ではあるが、あのテカテカのラースト元侯爵は数々の罪で刑場の露と消えザムドールの軍務卿一派も自国で同じような結末になったそうだ。
ただ、俺の父上や兄上の殺害を指示したのが、ラーストで手を下したのがザムドールの軍務卿の手下だったと聞いて少し思うところが有ったが、それよりもマイアが実の母も極刑となり自らも罪の意識を感じて爵位を返上してしまったのだけが悔やまれる…
しかし、たまにダンジョンの町で会うマイアは実に楽しそうに冒険者をしている…
マイアが、
「兄上、ようやく僕はこの世界に産まれた実感を感じています」
と笑顔だったのが唯一の救いかもしれない…
まぁ、俺も爵位を返して身軽になってようやく色々と楽しめる様になったので、前よりも気楽にマイアに会えるので弟の気持ちも少しは解る。
気楽に会える弟は良いのだが、気楽に会いに来るおっさん達が後を絶たないのが現在の問題の1つである。
何故ならば、熟成倉庫が無くなり、蒸留酒が村で保管していた物を最後に若い酒しかこの世に無くなったからだ。
ナッツに五階層初踏破の祝いにこっそり渡した念話スキルで、
「国王陛下がおみえです」
と呼び出され、
「酒が…」と駄々を捏ねられ、
「一応ダンジョンは悪意を魔物に変えて倒して貰う場所なので酒は自前で熟成を…」
と俺が、追い返そうとすると、
「旨くなる迄に神々に召されてしまう!
たのむ、熟成が進むマジックアイテムを…」
などとおねだりをはじめるのだ。
俺は、
「そのうち、10階層までダンジョンを広げて強いボスから熟成が進む樽でも出る様にしますから…」
と呆れていると国王陛下は、
「イグノ国王も呼んで、軍で踏破するぞ!マシロ様の守る獣人の里の戦士も呼べば地竜でも倒せるからな」
というので、
「国もガタガタで、城もボロボロなのに、酒でもないでしょう」
と俺がツッコむと国王陛下は、
「国がガタついているのは、私にも責任があるが、城がボロボロなのは、ベッキーにあのような恐ろしい兵器を持たせたからであろう…」
と愚痴られた…
中庭に引き込んだ千人の兵士は、哀れ…マシロ様に背後を取られ、ヤケクソ気味に城に雪崩れ込もうとした所をボウガンを構えた兵士に待ち構えられ、バルコニーからバリスタで…
オーバーキルとはあの事らしく、辛うじて生き残った兵士は弓を射る音を聴いても怯えるほどだったらしい。
しかし、俺も少し罪悪感を覚えてダンジョンポイントを使い、テーブルに小さな宝箱を出して、「今回だけですよ」とボトル一本だけ慰謝料代わりに渡しておいた。
国王陛下が、帰った後でナッツが、
「キース様、度々すみません…」
と恐縮するので、俺は、
「いいよ、それよりナッツ、遂に成功したよ。」
と、ニコニコの俺は一袋の種籾と育て方を書いた紙をナッツに渡して、
「米が出せる!と喜んだけど、この世界で実らなければ、ダンジョンのドロップアイテムぐらいでしか普及しないからね…
気候を調整したダンジョンで実ったから、来年、他の町で育てる様にしてみてよ」
とだけ、伝えて転移陣で我が家に帰ろうとすると、ナッツが、
「キース様、皆様にもよろしく」
と、送り出してくれた。
俺もナッツに、
「エリーさんにヨロシク言っておいてよ」
と言ってフワリと消えてマイホームへと戻る…
そう、家族と暮らしている
奥さんのシーナさんと、メイドゴーレムの体を手に入れたダンジョンコアのコアちゃん…
彼女にはいい名前をつけてあげようと考えていたのだが、何ヵ月もコアと呼んでいて定着してしまったので、そのままコアちゃんになった彼女であるが…
しかし、家族はそれだけでは無い。
新たな神…そう、あの神様ファミリーの赤ちゃんであるダンジョン神のランドル様の眷属に正式になった俺達は、〈魔族〉という、魔法の扱いに長けた種族に分類される事になり、神々から種族の長として配下を使わされた。
そして、新たな種族として生を受けた彼らは、既に名前を持っていたのだ…
見た目こそ違うが、彼らは俺の家族で俺の一部だった者達…
転移陣から最下層の和な村に踏み出し、畑仕事をする青年に、
「イチロー、さつまいもの育ちはどう?」
と声をかけると、
「マスター、やはり深く耕した水捌けの良い土地の方が元気なような気がします」
と答える。
そう、ガーディアンゴーレム達が俺達の仲間として新たな命を授かったのだ。
そして、
「マスター!お帰り。」
と畑の横の小路を弟の手を引き駆け寄る十歳にも満たない見た目の少女に、
「ただいま、ヒッキーちゃん
ボッチ君の為にナッツに珍しい図鑑を探してもらったんだ」
と…
そう、ナビゲーターの二人もコアとして生まれ変わる事が出来なかった魂を神々が哀れと思い、一緒に消える運命だったメイドゴーレムやガーディアンゴーレムと共に魔族に転生してもらったのだ。
そして、小型ガーディアン達は三体で1つの命として、魔族の使い魔として、様々な体を手に入れ、家の周囲を自由に走ったり飛んだりしている。
魔法適性無しの俺とシーナさんと、魔法を使ったことも無いゴーレム達が、魔族になるなど滑稽であるが魔法の力に頼る世界へ舵を切ったこの世界には、必要な事らしい…
ただ、前世で出来なかった事を沢山出来て、のんびりと暮らすという目標も叶えられ、大好きな奥さんと明るい家族達まで今は居る…
たとえ、先が無限に長くて苦しい日々でも俺は皆とならば耐えれる気がする。
ヒッキーちゃんの、
「今日ね、B子がジローとね…」
という自宅での報告を受けながら、俺はこの自宅を警備出来るだけのスキルが有れば何があっても大丈夫だと妻の待つ家へと入っていった。
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