第208話 眠れぬ夜を越えて


俺が、ダンジョンマスターになった翌日の昼に、国王陛下率いるシルフィード王国軍が更地と変わった平原にやって来た。


階段の上から、


「キース殿、無事ですか?」


と聞こえると、マイアが、


「僕が行ってくるから、兄上は作業を続けて下さい。」


と言ってくれたので、俺は、

いつまでたっても夜が明けない地下の街で不思議そうにうろうろしている連中を軽く選別しながら、引き続き人質や、無理やり脅されて無理矢理軍務卿派閥に参加している方は、2階層への強制転移罠で解放し、

軍務卿の主要な貴族達は、牢獄エリアに変えた4階層へ、

そして、ザムドール軍の方々は閉鎖された五階層へと特殊な転移陣の罠を足元に配置して飛ばしている。


この特別な転移陣は生き物のみを飛ばす…つまり強制武装解除転移陣である…

足元に急に現れた魔法陣に触れば、スッポンポンで、牢獄の4階層かザムドール軍チームの5階層へとご招待されるのだ。


正直、数万人いる兵士を、ダンジョンポイントで監視機能に鑑定スキルを搭載し、称号を確認しながら、


「ベール伯爵軍って知っている方?」


と聞くと、解放された兵士さん達が、


「ザムドール側です」


などと教えてくれ、モニターの向こうで固まって警戒しているベールさん家の兵隊さんを5階層へと飛ばすと、3階層のモニターにはガシャリと身につけたものだけが取り残こされる。


回収すれば良いのだが、面倒臭いので装備はダンジョンに食わせる…

ちなみにダンジョンが取り込んだ装備は、比較的安いダンジョンポイントを使い複製してダンジョンの宝箱にセット出来るので、君たちの装備は未来の冒険者の戦利品として使われるのだ…悪く思うなよ。


という感じで仕分け作業に明け暮れている。


もう、嫌になるし時間がかかる…

地下の街も牢屋エリアも水呑場がダンジョンポイントを使い設置してあるので、滅多な事では死なないだろうし、4階層にも5階層にも1日に一回保存食の乾パンを人数分出している…


仲良く分け合えば皆生きれるが、誰かが一人占めしようと醜い争いが始まっても無視する事にした…

もう、そんな所まであんな奴らに構ってやる必要性を感じなくなったのは、俺が人をヤメたからか…それとも奴らにホトホト愛想が尽きたのか解らないが、軍務卿派閥のやつらが乾パンを奪い合い、殺し合いをしようとも、


『ダンジョンポイントが入ったな…』


程度しか心が動かない自分が少し嫌になってしまう…


地下の町の中には食糧の備蓄もあるだろうし、三階層は…知らない事にする…まぁ、2~3日ぐらいなら食べなくても平気だろう…多分…

などと、思いながら作業をしていると、解放した人質の方々もモニターの前で、


「聖人様、今映っております15名は私の配下にございます。」


と言われれば二階層にご案内し、


「聖人様、あの赤いマントの者は、軍務卿派閥の一人にございます。」


とタレコミがあった奴は、三階層へと飛ばしていると、階段を降りて国王陛下や辺境伯様達が現れ、


「いや…本当にキース殿は、人から神の御使いになったのだな…」


と、ダンジョンを見回した国王陛下が呟いている。


俺が、


「陛下、王城が留守の間にザムドールの別動隊が千人ほど向かっているらしいですが、どうしましょう?」


と、状況説明の前に、重大発表をしたものだから、国王陛下は、


「うむ、騎士団を寝ずに一個師団走らせても一週間近くかかる…念話師の報告では、聖地より神獣様が城を守ってくれていると申していたが…それもキース殿が?…」


と聞いて来るので、俺は、


「あぁ、そっちは神様ファミリーからの助っ人です。

難民を増やしまくる軍務卿達にいい加減怒ったみたいなので…

ザムドールには巫女のチャチャ様が聖騎士団を連れて転移してお説教してるらしいので、陛下達も後で神々に感謝の祈りを捧げて下さいね」


と報告すると陛下達は


「何でもアリだな…」


と少し呆れている。


ダイムラーパパだけは、


「ウチの息子は凄いだろ!」


と、ご機嫌で、配下に助けた人質の方々への炊き出しの準備をしながら笑っている。


俺は、シーナさんに連絡を繋ぐと、モニターから、


「旦那様、まだ城にザムドールの人達は来てないよ」


とウチの奥さんから報告が入り、思わずダイムラーパパが、


「えっ、シーナか!?」


と驚きの声を出すと、シーナさんが、


「父上ですか?」


と聞いてきた。


このモニターの前でならば複数人で会話が出来るが、やはりシーナさんからは本人の声しか飛ばせないみたいだな…

などと、少しずつダンジョンのマスタールームのルールを覚えながら、俺は、


「陛下、現在城に我が妻もアルサード王子殿下達の助っ人としてお側におります」


と報告すると、国王陛下は、


「すまないが、宰相は側にいるか?」


と訪ねて、シーナさん経由で陛下は、近隣の町から少しでも兵を集め、町と城の中庭への門を解放し、住人には、抵抗せず敵を中庭まで通すように指示を出していた。


俺が、


「大丈夫ですか?」


と心配すると、国王陛下は、


「千人程の部隊で有れば、町を襲い略奪するよりも、城を落として、軍務卿の軍勢が私を殺して駆けつけるのを待つ作戦を取るしかない…

中庭まで進軍すれば住民に被害は出ないし、近隣からの加勢と城に残った手勢で挟み撃ちに出来る。

なに、宰相はああ見えて戦も得意だから大丈夫だ」


と言って、念のために騎馬部隊に王城への出発を命じていた。


シーナさんが、


「旦那様、ホークスさんからの指示で、村の親方達も助っ人に来てくれて、ボウガンも沢山荷馬車で送ってくれたし、罠ネズミの針も荷馬車いっぱい届いたけど?」


と報告してくれた。


ヒッキーちゃんとボッチ君の置き土産として、もしかして、この戦いが長引いたりすれば、敵は軍務卿派閥…国のどこから湧いて出てもおかしく無いので、シーナさんやベッキーさん達の助っ人に、村の親方達に資材を持たせて、セーニャ村に飛ばしてくれたのだが、俺は、


「敵さんは、千人らしいし、安全な場所からベッキーさんがアイテムボックスに持ってるバリスタ3つで、罠ネズミのトゲを中庭の皆さんにプレゼントしてあげて、

ボウガンは今回に限り、王城の居残り部隊さんにも貸し出してあげて、もう、壁の上やベランダから狙い射ちしたらいいよ」


とシーナさんにお願いした。


すると、シーナさんからは、


「ガルの親方さんが、俺達の作ったバリスタは、キースの旦那のバリスタにも負けないぜ、グリフォンだって倒してみせるぜ!と伝えて欲しいとの事です」


と伝言してきた。


辺境伯様はそれを聞いて、


「キース君…なんて物を持たせてベッキーさんを送り出したんだ…」


と呆れていたが、ユーノス辺境伯様はため息をつきながら、


「まぁ、普通は、グリフォン討伐には弓や魔法を軸に二千程の一般の兵士で立ち向かって五分の勝負らしいからな…

それを倒した兵器よりも自信のある奴か…まぁ良い、何か有れば私が間に入るから思いっきりヤりなさい…」


と言ってくれたので、俺はシーナさんに、


「聞こえた?

ユーノス様が、庇ってくれるからやって良いんだって」


と伝えると奥さんから、


「ベッキーさん達、皆にも言っておきまぁ~す」


と言って通話を終えた。


それから俺は、その日は夕方まで敵兵士の仕分けを続けた…


地上の馬車に戻り、食事と睡眠をしっかり取ろうとするが、視界の横に表示される時計の横のポイントを示す数値が、24時間経たなくてもじわじわ上がっている…


多分まだ見つかっていない軍務卿本人が、癇癪を起こして誰かを殺したのかもしれないと思うと目が冴えてしまった…


真夜中に、ダンジョンポイントが地下の町から集まりはじめる。


『よし、明日の昼には地上に陣を構えるシルフィード軍から2万ポイント程度が入るし、地下からも4~5万ダンジョンポイントが入るな…』


と考えながらも、


『4階層に独房でも作って、軍務卿を個室に入れないと安眠も出来そうにないや…』


と馬車の天井を眺める俺だった。

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