第199話 ベッキー爆誕
旅先で俺の視界をマスタールームと共有するかどうかの決定権が俺に有るので、
『絶対に監視機能の権利も俺が自由に出来るはず!…』
と、マスタールームで色々と調べると、実際に監視禁止区域の設定の項目が有った。
『フッフッフ…本当に有ったよ…
今まで見られて困る事など、ちょっとしかなかったのでこんな項目が有ることすら知らなかった…』
と、思いながらも、あまり設定をいじるのは怖いというのもあり避けていた項目であるが、今回は監視機能と、小型ガーディアンの侵入を禁止するだけのコマンドなので思いきって俺の寝室と風呂場内を指定しておいた。
これで、覗く場合は俺の許可を取らなければ駄目な状態だ!!
『まぁ、室内に居る間は絶対に許可なんか出さないけどね…』
ただ、投影クリスタルの侵入禁止の設定は無かったので、やろうと思えば覗けるのだが、その場合、相手も投影されるので目立つから対処出来るはずだ。
などと、若干夜更かしをした俺は少しの眠気を覚えつつ現在はニンファの町の教会に来ている。
理由は勿論、ベッキーさんの嫁化イベントの為である。
俺の結婚報告が思いのほか手こずり、あっという間にベッキーさんと約束した日になったのだが、彼女がこの数日で行ったのは、受肉したあとにナビゲーターとして生まれくる、まだ見ぬ後輩に向けての引き継ぎ書を作っていたのだ。
『流石は、気配りが出来る方のナビゲーター…どこぞの残念な奴より仕事が出来るよ…』
などと、思いながら俺はジーグさんの挨拶の間、教会に来ている熱烈なベッキー信者のニンファの町の方々を眺めている。
集まった住人達は教会に入りきらない状態で、ベッキーさんの降臨を、いまかいまかと心待ちにしていおりジーグさんも、
「長々と話しをていると、住人に叱られそうだから、早速儀式を…」
と挨拶を切り上げる程だった。
さて、儀式と言っても俺が寝て、マスタールームでごそごそするだけなのだが、俺のお昼寝の理由を知らない住人も多く、異空間から奇跡を起こせる精霊ベッキーさんとは違い、俺の事は寝ないと力が使えない聖人だと思われている人達の前でマスタールームに意識を飛ばすのは少し抵抗がある。
『やっぱりお昼寝聖人だ!』
みたいな反応になるのが見えているのだが、しかし、後世にどの様に語り継がれようとも、男にはヤらなければならない時があるのだ!…
という事で、何故か神々の像の前に置かれたロッキングチェアに俺が腰をかけると、
「おぉ!」
と、どよめきが起こる…実にやり難い…
腹をくくり、『おやすみなさい』とばかりにマスタールームへと意識を飛ばすと、ヒッキーちゃんとベッキーさんが、別れを惜しんで泣いている最中であった。
「幸せになるんだよぉぉぉぉ…」
というヒッキーちゃんに、
「お姉様、行ってきます…」
と、手を握りあうベッキーさん…こちらはこちらで、声がかけ辛い…
しかし、現実世界ではお昼寝している俺を千人近くの人間が見つめるカオスな状態であり、早く何らかのアクションが起きないと、ただただ俺のお昼寝を披露する時間が流れてしまう。
俺は、凄く申し訳ない気持ちで、
「ベッキーさん…そろそろ…」
とだけ声をかけると、二人は名残惜しそうに作業に移ってくれた。
はじめて使用する機能なので、手順を確認しながらマスタールームのモニターに三人が並び作業していく。
ボタン1つでポンと行く訳では無く、様々な設定を必要とする様で、身長や、体重から年齢まで基本的な設定から、魔法やスキルの設定も与えられたポイントで割り振る事が出来るようだ。
ベッキーさんに、
「見た目は今のままで良いの?」
と俺が聞くと、ベッキーさんは、
「その…アルサード殿下と年の差が有りますので、三歳程若くして欲しいです…」
と恥ずかしいそうに答える。
ヒッキーちゃんが、
「もう、どうせだから同い年にしたら?」
と提案するが、ベッキーさんが、モジモジしながら、
「それでは、アルサード殿下が私と解らない可能性が…」
と言っている。
年を取らないナビゲーターのベッキーさんは、出会った当初は少し上の印象を受ける二十歳前のお姉さんで、十歳以上アルサード殿下との年齢差があり、数年間分殿下が成長された事を考えてもまだ年の開きが気になるらしい…
「了解、三歳若くして16歳だね。
殿下とは、俺とシーナさん程の年の差だから良いよね?」
と俺が確認すると、
「はい!」
と元気に答えるベッキーさんに、
「ヨシ!どんどんいくよ」
と、色々な項目を決めていく…
「見た目は今のままで…」
などとブツブツ言いながら、基本的な設定の後で、15ポイントのステータスポイントを割り振りスキルを与えるのだが、ヒッキーちゃんが、
「マスター、大変!」
と騒ぐので俺は驚きながら、
「どうした?何か問題か!」
と慌てるが、ヒッキーちゃんがもっと慌てており、
「マスター、気がついて良かったデフォルトで、不老長寿の設定です」
と報告してくれた。
確かに、年を取らずに俺が生きてる限り生き続けるナビゲーターだからだろうか…
はたまた機能を設計したのが神様なので時間の感覚が違うのか…兎に角、引くほど長生き設定はマズいかも知れない。
俺は、ベッキーさんに、
「凄く長生きしたい?」
と聞くと、
「殿下と同じ時間を歩んで、仲良く土に還る人生が良いです」
と答えたベッキーさんの意思を尊重し、不老長寿のスキルを外すと、50ポイントのステータスポイントが還元された。
魔法適性ですら5ポイント程度で手に入るステータスポイントが現在65ポイントも有るので三人で相談しながら、
「魔法は使いたいよね…では魔力も上げて、
刺客とか怖いから防御力とかのパラメーターも上げとく?…ついでに剣士スキルも…」
などとワイワイしていると、とても普通の嫁では無い…魔法が使え、アイテムボックスと鑑定スキルを持ち、剣も扱えて毒などのステータス異常無効という勇者が爆誕してしまった。
しかし、割り振りをやり直すには時間を食い過ぎた。
もう、教会に集まった住人達の祈りの歌が二巡目に入っている…俺はベッキーさんに、
「これでいい?」
と聞くと、彼女はコクリと頷き、ヒッキーちゃんが、
「元気でね。」
と言って、俺がメインモニターで実体化の開始の操作をすると、俺の隣のベッキーさんが、キラキラと輝きだし、俺はそれを確認してからマスタールームから出た。
意識が戻り、立ち上がる俺に、ニンファの住人達から、
「おぉ!!」
という、『やっとか?』みたいな声が上がり、俺が、教会に響き渡る様に小型ガーディアンの拡声機能で、
「精霊ベッキーは、様々な手続きを終えて、精霊の世界から現世に誕生する事になりました」
と発表すると、歓声では無く、神々への感謝の祈りが会場のあちらこちらから捧げられる。
そして、俺の隣にキラキラとした光の粒子が集まりだし、うら若い女性の姿になっていくが俺は焦っていた。
何故なら、ベッキーさんはマスタールームの時のワンピース姿ではなく、スッポンポンなのだ…
すると、ヒッキーちゃんの投影クリスタルがまだ光り輝くベッキーさんの前に現れ、目隠しパーテーションとなり、
その隙に、俺は教会の祭壇のテーブルクロスの様な布を拝借してベッキーに巻き付ける。
バタバタする俺達を見て、祈りを捧げていた住人達も、祈りを忘れて、
「大丈夫か?」
と心配そうに覗き込んむ…
そして、光が消えてこの世界に生まれ出たベッキーさんの第一声は、
「なんだか、最後の最後で締まらない感じになっちゃいましたね」
と、少し残念そうだったが、教会に集まった住人達からは凄まじい歓声が巻き起こっていたのだった。
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